竹原ピストル|満ち足りることのない思い抱き、我が道を突き進む

歌詞カードっていいですよね

──「ON THE ROAD」はテレビ東京系ドラマ24枠の「Iターン」エンディングテーマですが、これは全国津々浦々をライブで回られている竹原さんだからこそ書ける曲ですね。

竹原ピストル

荒野を行く感じですよね。同じ枠で放送された「バイプレイヤーズ~もしも6人の名脇役がシェアハウスで暮らしたら~」「バイプレイヤーズ~もしも名脇役がテレ東朝ドラで無人島生活したら~」に僕はいい思い出しかないし、平たく言えば縁起がいいんです。だからまたお話をいただけてすごくうれしかったですね。これも「Iターン」の内容は反映せず思いっきり自分のこれからみたいな感じで書いちゃったんですけど、ドラマを観ながらこれでよかったなと思っています。

──アルバムタイトルになった「It's my life」にも「ON THE ROAD」に通じる世界観が感じられました。

アルバムタイトルにしたのは単純にフレーズとしてすごく広いというか、すべてをくくれるなというシンプルな理由ではあるんですけれども。これまたすごく気に入ってる曲です。今回のアルバムは「ひまわりさくまであとすこし」を除くと一番古い曲が「中間管理録トネガワ」というテレビアニメに書き下ろした「隠岐手紙」なんですけれども、この「隠岐手紙」からちょっと詞の書き方を変えてみたんです。どういう情景にするかは自分が生きてきた中での材料で描くしかないけれども、もうちょっと歌の主人公と自分自身を意識的に乖離させられないかなと思って。

──というのは?

例えば、短歌や俳句のように景色や情景だけで感情を伝えられないかを意識して書き始めたのが「隠岐手紙」なんです。「ON THE ROAD」も「It's my life」も同じように書いた曲なので、ちょっとテイストが似てると思うんですよね。あっ、こういうことなんじゃねえかってコツをつかめてきた時期で。まだまだ追求している途上ではありますけれど、けっこう自信作なんですよね。いいフレーズだなと我ながら思っちゃったりするし。

──今作は詞の書き方を変えてみたアルバムでもあるわけですね。

もちろんこれまでの力技でどうにか伝えようとする曲たちもずっと大事にしていくんですけど、自分が憧れている世の中の作品たちに負けないくらいの詞が書けないかなと本格的に意識し始めたところなんです。曲を書くペースははるかに落ちてきてるんですけれども、書く楽しさは年々上がっていくというか。短歌や俳句のように最小限ですべてを伝えてくる素晴らしい作品って無数にあるじゃないですか。ああいう詞が書けないかなという憧れがすごくあるんです。それでここまで書かなくても伝わるんじゃねえかなって削ってみたりとかして。

──言葉の密度を高めるために。短歌や俳句は引き算の美学ですからね。CDを手にされた方は歌詞カードと照らし合わせながら聴くとまた新たな発見もあるでしょうね。

歌詞カードっていいですよね。時代が移り変わって、どんな音楽の聴き方をしても間違いじゃないと思うんですけど、自分に関しては歌詞にすごく執着しているのでぜひ文字で見てもらいたいです。

これは漣さん、これは山内さんに渡したら間違いないな

──「狼煙」は前作のアルバム「GOOD LUCK TRACK」では朗読バージョンでしたが、今回はver.2と銘打ってバンドサウンドでの収録です。

せっかくという言い方も変ですけど曲も付いたし、前のツアーでもやりまくったから僕のライブを観たことがある人は喜ぶだろうし、単純に自分でもカッコいいと思うから入れようってことになりました。

──そして今作の1つのクライマックスともいえるのが「奥底の歌」です。ニール・ヤングを彷彿とさせるギターは斉藤和義さんです。

はい。和義さんが弾いてくださって。どんなメンバーで録ろうかということに関しては、野狐禅の頃からお世話になっている高橋太郎というディレクターに完全にお任せしているんです。彼としては竹原ピストルにいろんな楽器を司る名人たちをぶつけるのが楽しいみたいで。初めてお会いする方もたくさんいてすげえなあと思いながら、テイクも2回、3回やって終わりなんですけど、その一瞬のぶつかり合いが僕も楽しくて。だからこの曲も「ギター、和義くんに入れてもらおうと思うけど、どうだろう?」と言われたときはワクワクしたし、さすがのが来ちゃったし。

──高田漣さんや伊賀航さんをはじめ、前作に続いてアレンジを担当したフジファブリックの山内総一郎さん(「おーい!おーい!!」「ON THE ROAD」)、オルガンで東京スカパラダイスオーケストラの沖祐市さん(「ON THE ROAD」)といった豪華なメンバーが参加しています。

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どの曲も百戦錬磨の皆さんだからバッチリ決めてくれて、すごく伸び伸び歌えました。

──レコーディングの現場では皆さんとどういうお話をされるんですか?

「またぜひ一緒にやりましょうね」ぐらいのもんです。なんなんでしょうね、あの気恥ずかしさって(笑)。でもそれがいいなと思ってます。レコーディングでパチッと1回やって、「ほんじゃ、さようなら」みたいな。参加してくださるミュージシャンの皆さん、本当に素晴らしい方ばかりですから。ただ、厚かましい話なんですけど、自分が詞を書いて曲つけてアコギでデモを録る時点で、これは漣さん、これは山内さんに渡したら間違いないなって、今まで出会ってきた名人たちの顔が浮かぶようになったんですよね。そういう意味でも高橋ディレクターとのレコーディングの仕方において、1つの完成形を出せているアルバムだと思います。

──ヒップホップ好きにアピールしたいのが、前々作の「ママさんそう言った ~Hokkaido days~」、前作の「本庄のド根性」同様、竹原さんのラップが冴え渡る「Gimme the mic !!」が収録されていることです。

最初、去年の武道館のときに「これ終わったら俺は次の段階に行きますよ」みたいな気持ちを込めてアンコールが終わったあとの客出しBGMとして「Gimme the mic !!」を流そうと思っていたんです。昨年のツアー中に簡単な機材で録音して、原型はできてたので。だけど自分で提案しときながら、すっかり忘れてたんです(笑)。それどころじゃなくて。