音楽ナタリー PowerPush - 高橋優

最高傑作「今、そこにある明滅と群生」全曲を語る

01. BE RIGHT最後の確信を伝えるための曲

──ここからは1曲ずつお話を聞いていきます。まず「BE RIGHT」はアルバムを象徴するような曲ですよね。

そうですね。でもできたのは最後なんですよ。収録する曲を考えていたときに、「僕が言いたいことをちゃんと伝えられるアルバムにできた」と思ったけど、中心に置く柱みたいなものがない気がしたんです。「このアルバムはこうなんです」って言える何かが足りないなって。

──先ほど話が出ていた「パイオニア」は優さんにとって非常に意味がある曲だったと思いますし、このアルバムのテーマを代弁するようなものですよね。でも柱というのはまた別のもの?

高橋優

このアルバムを作るきっかけになったのは、「旅人」が完成して今後何を歌えばいいかが見えたことなんです。それで「パイオニア」でもっとはっきりわかってきた。でも……例えばコップがここにあったとして、「水を入れるものです」とか「手のひらに乗るものです」っていうヒントがたくさんあってもわからないじゃないですか。「これはコップです」っていう最後の確信を伝えるための曲を作りたかったんです。例えがヘタですいません(笑)。

──いや、すごくよくわかりました。

その真ん中の言葉や曲調ってなんだろうって考えたときに、自然と「BE RIGHT」っていうキーワードが出てきたんですよ。これがチームのキャプテンみたいな存在になってくれると思ったし、この曲にすべてを詰め込もうって。その結果として、アルバムを請け負う曲になりましたね。

02. 太陽と花音楽本来の魅力をちゃんと表現する

「太陽と花」はかなり時間がかかった曲です。3カ月くらい作ってましたかね。

──それはあえてゆっくり作ろうと思ったわけではなく、時間がかかってしまった?

そうですね。早いときは1日で作ることもあるし、毎日10分と決めて1年くらいかけることもあるんです。でもこれは、3カ月間寝る時間も取らないくらい濃密に書き続けちゃいましたね。それでデモ曲みたいなものが30曲くらいできたんですよ。でも違う、これも違うって。本当はもっと早く書き上げたかったんですけど。

──なぜそんなに?

高橋優

最初にお話した「BREAK MY SILENCE」からの流れの中で、ライブに来てくれる人の表情が変わってきたり、ラジオにリスナーが送ってくれるメッセージが生き生きしてきたり、いろいろな変化を感じられた時期だったんです。それで僕自身は何を言うべきなのかと悩んで、でも何を書いても同じことを言ってる気がして。

──その悩みってシンガーソングライターとしてはずっと付きまとうことだと思うんですよね。突き詰めれば「愛」とか「友情」とか「家族」とか、テーマって似通ってくるじゃないですか。そこで悩んでしまうと苦しくなるというか。

本当におっしゃる通りなんですよ。ラブ&ピースなんて言葉にはほこりがかぶってる。だからそこから脱却するために、まずは“音を楽しむ”という音楽本来の魅力をちゃんと表現することを考えましたね。聴いたときに楽しくなったり、気分が上がったり、悲しい気持ちになれたりするかどうかを大切にしようと思ったんです。制作のプロセスとしては、あえて違う視点から描いたり関係ないものをくっつけて書いたりしました。コップを歌うなら「テーブルという名の手のひらの上に佇む」とすると、ちょっと違って見えたりするじゃないですか。ラブ&ピースがテーマなら「パソコンこそ平和の象徴だ」って歌ったらどうなるのかなとか。

──意図的にチャレンジしたんですね。

同じことを歌っていても、違う題材から持ってくることに楽しさを感じるんですよ。それは結果的に、僕が考えていたこととは違う捉え方をしてくれることもあるんです。「何を歌ってるんだろう?」って部分を残しておくと曲の広がりにもなるし、エンタテインメントな要素にもなるのかなって。その流れでできたのが、「裸の王様」というおとぎ話をもとにして書き始めた「裸の王国」ですね。

03. 裸の王国論破することには価値がない

──「BE RIGHT」では「ニコ生」、「裸の王国」では「LINE」という歌詞が出てきます。別に固有名詞を言わなくても伝えることはできるはずなのに、あえて具体的な名前を出して書く意図は?

高橋優

他にも「ノースコリアのミサイル」って書いちゃって、けっこうきわどいんですよね。本当にミサイルを打ち込まれたらもう歌えないじゃないですか。でも、それを理解してくれるスタッフがいるんですよ。LINEもニコ生も、もしかしたら問題が起こるかもしれないけど「いいじゃん!」って言ってくれる。僕よりもスタッフのほうがみんなパンクなんです(笑)。前に「バカ社会」って歌詞を初めて書いたときは「どの口が言えんだ?」って少しためらったけど、意外なほど「いい曲ですね」って声が多かった。それはなぜかと考えると、同じ思いでいる人がたくさんいるからなんです。僕が本心で書いた言葉を理解して共感してくれる人がいるのは心強いから、歌詞を書くときはそのままの思いを伝えるようにしてます。怖がってボカしてしまったらなんの意味もなくなってしまうから。

──だけど数年経ったとき、「ニコ生って何?」「LINE?」ってなってしまうこともありますよね。

それも気にしないですね。実はデビュー当時から「高橋の歌は古くなる」って言われてきたんですよ。でも2009年に作った「こどものうた」では、セクハラ教師や親の暴力について書いたけど、それは今もまったく状況が変わってないじゃないですか。

──そうなんですよね。つまり優さんはデビューから今に至るまでの姿勢が貫かれてるんだなと再確認できた部分でもあって。

もしLINEがなくなったとしたら、過去の資料みたいになってもいいと思うんです。爆風スランプさんの「大きな玉ねぎの下で」に「ペンフレンド」って言葉が出てきて、そんな言葉もう使わないのに今も全然色あせてない名曲なんですよ。そうやって時代性が映った曲になることにはなんのためらいもないですね。

──「裸の王国」はSNSの気持ち悪さを歌った曲でもありますよね。優さん自身も去年まではTwitterもほとんどやってなかったじゃないですか。でも今はポジティブになるためのさまざまな個人的キャンペーンをされているそうで、Twitterをやるようになったのもその一貫ですよね?

お察しの通りです(笑)。

──気持ち悪さみたいなものはあるけれど、毛嫌いしてやらないというわけではないと。

高橋優

そうですね。なんでも正論を並べて論破することには価値がないと思ってきたんです。それに、SNSとはなんなのかという答えをいつか出したいとも思っていて。そのためには自分が踏み込んで、利便性と不便なことをちゃんと感じないと何も言えないじゃないですか。外側から怒鳴るだけの人にはなりたくないし。

──実際に踏み込んでみた感想は?

もちろん、僕はLINEもTwitterも大好きなんですよ。めちゃくちゃ便利だし、楽しいじゃないですか。でもこれがあることによって生まれる障害や問題もあって。そういう表裏はどんなことにも生じるから。

──そうやって個人的なキャンペーンとして、苦手な部分にも踏み込んでいく姿勢がストイックだなと思うんですよ。もちろん歌うためだとは思うんですけど、なぜそこまでするのかと。

いや、そんなカッコいいもんじゃないんですよ。

──ちゃんと噛んで食べるという「噛む噛むキャンペーン」とか、なぜそんなことを徹底してやるのかと疑問で(笑)。

子供の頃から、誰かにやれと言われたらどんなに小さいことでも苦痛なんだけど、自分で決めたことはまったく苦じゃない。その違いですよね。習慣化してやることの面白さも知っていて、最初は面倒でも続けていけばその利点を感じ始めるわけです。それが楽しい。もちろんね、面倒だと思うこともあるんですよ。例えば女の子とごはんを食べてても、相手のほうが先に食べ終わる状態ですから。本当は僕が先に食べ終わって「かわいいね」なんて言いたいですよ(笑)。でも僕がずっとモグモグしてる!

──それでも続けるんですね(笑)

だって決めたことだから。そうやっていくうちにだんだん楽しくなって、モグモグしながらも人を楽しませる方法を考えるようになるんですよ。ストイックなんて言うからついうれしくて、余計なことしゃべっちゃいましたけど(笑)。

ニューアルバム「今、そこにある明滅と群生」/ 2014年8月6日発売 / unBORDE
初回限定盤 [CD+DVD] 3672円 / WPZL-30896~7
通常盤 [CD] 3240円 / WPCL-11944
収録曲
  1. BE RIGHT
  2. 太陽と花
  3. 裸の王国
  4. 明日への星
  5. WC
  6. 同じ日々の繰り返し
  7. ヤキモチ
  8. 旅人
  9. パイオニア
  10. おやすみ
初回限定盤DVD 収録内容
  • BE RIGHT(Studio Live)
  • 太陽と花(Studio Live)
  • ヤキモチ(Studio Live)
  • 明日への星(Studio Live)
  • 8月6日(Studio Live)
高橋優(タカハシユウ)
高橋優

1983年生まれ、秋田県出身のシンガーソングライター。大学進学と同時に路上で弾き語りを始める。2008年に活動拠点を東京に移し、2009年7月に初の全国流通盤「僕らの平成ロックンロール」を全国リリース する。2010年7月にシングル「素晴らしき日常」でメジャーデビュー。2011年4月にリリースされたメジャー1stアルバム「リアルタイム・シンガーソングライター」はロングヒットを記録する。その後もコンスタントに作品を発表し、2013年は7月にアルバム「BREAK MY SILENCE」を発表したあと、11月に初の日本武道館公演を開催。2014年8月には4thアルバム「今、そこにある明滅と群生」をリリースした。社会、友情、恋愛、性、孤独など自身が感じた思いをストレートな言葉で表現した歌詞、聴き手の感情を揺さぶる熱い歌声で、支持を集めている。