ナタリー PowerPush - tacica

スタッフが語る、tacicaの5年間とこれから

「本当にロックバンドなの?」

──そして、湯浅さんがバンドと出会ったのは……。

湯浅篤 2010年ですかね。

石川 ドラムの坂井が病気で倒れて、スタジオで曲作りができないっていうときに、その穴を埋めてもらうのに白羽の矢が立ったのが、湯浅くんだったんです。

湯浅 初めてメンバーに会ったときは、既に俊くんは入院中だったので、いなかったんです。レコーディングスタジオに行ったら、猪狩くんと小西くん(小西悠太 / B)が作業していて。2人とも真面目な印象でしたね、物静かで。「本当にロックバンドなの? いや、暗いロックバンドもいるな」って思って(笑)。で、僕がパソコンでドラムを打ち込んで、こんな感じでどうかな?って聴かせて、そこに2人がベースやギターを入れる作業を……最初は1曲やってみようって「ハイライト」を作って、結局その時から今までやらせていただいていますね。

石川 初めて会ったのが(2010年の)5月で、そっから5カ月くらいはその状態で。俊くんが復帰して、スタジオでレコーディングを始めたのが10月でした。

湯浅 そうですね。やっと俊くんに会えたのは夏くらいで。これまた物静かな(笑)。でも、打ち解けてくると3人それぞれ面白くて、今ではよく話しますけどね。

──バンドの一員のような関わり方ですよね。

湯浅 最初はそうでしたね。キッカケがキッカケだったんで。アレンジ的なことも手伝わせてもらいつつ。ただ俊くんが復帰してからは基本的には、tacicaの3人が迷ったりしたときに手助けするくらいのスタンスを意識してます。最初は手探りで、歌詞はこういうほうがいいんじゃないかなとか、メロディはこのほうがいいんじゃないかなって提案していったんです。そのうち彼らの「ここは譲れない」っていう部分と「ここは手助けしてほしい」っていう部分が見えてきて、それで、僕はこういうところをメインに手伝えばいいんだなってわかって。歌詞の世界観に対しては、猪狩くんは自信を持っているので、それよりもコードやメロディのように、音のほうのアドバイスが多くなっていますね。

石川 歌詞に関してはある種、聖域状態だよね。ただ、音と言葉の相性が気になったり、本人が迷っていたりすれば、僕らも指摘をしますけど。それ以外に関しては、特に猪狩は音に対して明確なビジョンがあるんで、そこに近づけるために僕らがいるっていう。彼は楽器オタクで、最近は自宅のレコーディング機材も揃え始めたので、家から出てこなくなるんじゃないかなって心配なくらいなんですけど(笑)。ただ、ビジョンに対して突き進んでいるだけで、変に他を遠ざけたり、他から入ってくるものを嫌がっているわけではないと思います。

この3人じゃなきゃtacicaじゃないから

──バンドとしての明確なビジョンに向かいながらも、坂井さんの病気があり、その復帰後は東日本大震災の影響でライブが中止になったり、山あり谷ありを越えてきた5年間でしたよね。

石川 震災の前日はライブのゲネプロをしていて。またなって話した後にあんなことになって……でも、猪狩本人の言葉を借りると、人が病気になることって、日常的に起こってることじゃないですか。それがたまたま自分たちの仲間だっただけで、それから無事に作品を発表して、ライブができているっていうことは……語弊があるかもしれないけれど、バンドが進む上での大きな糧だった気はしています。瞬間瞬間はしんどかったですけどね。

──その瞬間瞬間で、メンバーはどんな様子だったんですか?

石川 しんどいっていう言葉じゃ表しきれないですね……俊くんの闘病中に湯浅くんのスタジオで曲作りをしているときって、本当に今作っている曲が世の中の人たちに聴いてもらえるのか、わからないままだったんですよ。ツアーも中止にしたんですけど、延期ではなく中止にしたのは、この3人じゃなきゃtacicaじゃないからっていう理由で。

湯浅 普通だったらライブくらいはサポート入れてって考えるのかなって思ったんですけど、一切なかったですね。

石川 彼らはtacicaっていうバンドをやりたいんですよ。それで、tacicaはあの3人でしかないっていう。仲がいいとか絆がどうとかっていうのの手前の段階の、奴らの掟、みたいな(笑)。

──じゃあ、坂井さんが復帰したときの喜びは、ひとしおだったでしょう。

石川 泣きましたね。3人で久々にスタジオに入った日に行って、恥ずかしながら「『HERO』やってくれない?」って言ったら、猪狩がコード忘れてて、おい!っていう(笑)。泣き笑いでした。

ニューアルバム「jibun」/ 2012年6月27日発売 / SME Records

CD収録曲
  1. CAFFEINE 咖啡涅
  2. RAINMAN 雨人
  3. HUMMINGBIRD 蜂鳥
  4. ANIMAL 動物
  5. SUN 太陽
初回限定盤 DVD収録内容
  1. 黄色いカラス
  2. 人間1/2
  3. HERO
  4. 人鳥哀歌
  5. メトロ
  6. アトリエ
  7. 神様の椅子
  8. 命の更新
  9. ドラマチック生命体
  10. 不死身のうた
tacica(たしか)

005年に札幌で結成されたスリーピースバンド。メンバーは猪狩翔一(Vo, G)、小西悠太(B)、坂井俊彦(Dr)の3人。札幌を拠点としてライブ活動をスタートさせ、叙情的な世界観と骨太のロックサウンドが絡み合うステージで、着実にファンを増やしていく。2007年6月発売の初音源「Human Orchestra」は各種インディーズチャートで1位を記録した。2008年10月に所属レーベルをSME Recordsに移し、さらに活動を充実させる。2009年には2ndフルアルバム「jacaranda」をリリース。バンド史上最大規模の全国ツアー「パズルの遊び方」も大成功のうちに終了した。2010年4月、全国ツアーと初の日比谷野外大音楽堂ワンマン公演を目前に控えて、坂井の急病により予定していた全公演を休止する。その後同年9月に坂井が退院してバンドに復帰。2011年3月に約1年ぶりとなるシングル「命の更新」を発売し、4月には約2年ぶりのオリジナルアルバム「sheeptown ALASCA」をリリースした。2012年6月、デビュー5周年を記念したミニアルバム「jibun」を発売する。


2012年7月20日更新