音楽ナタリー Power Push - Tokyo 7th シスターズ
拡大するナナシスの世界 茂木総監督が語るその構想
もっとパーソナルな曲をアイドルが歌ったっていい
──もう一方のDisc2は「Blue Sky Disc」と名付けられた“青盤”。こちらは777☆SISTERS関連ユニットの曲が目白押しで。初音源化の曲もたっぷりですね。
はい。先ほど、777☆SISTERSのほうは音楽性と大衆性のバランスを気にしなきゃいけないっていう話をしましたけど、そこを大事にしつつも僕個人としてはもっとパーソナルな曲をアイドルがやったっていいっていう思いもずっとあったんです。ただ、そうなるとどうしてもパーソナルな物作りになる。一方で作品としてのポップ性は失ってはならない、みたいなジレンマ……。うーん、罪悪感っていうんでしょうか。これまではそういうものが邪魔してきてうまく表現できていなかったんです。それが今回「さよならレイニーレイディ」とか「またあした」という曲では初めてバランスよく表現できた気がしていて。
──対象をもっと個に寄せた曲ということですかね?
そうですね。“みんなの歌”ではなく、リスナーに“自分の歌”だと思ってもらえるパーソナルな曲。僕は青春時代にくるりをよく聴いていて今も大好きなんですけど、例えば「TEAM ROCK」の「カレーの歌」を聴くと、岸田繁さんの歌詞世界のはずなのに自分の過去の話として聴けるんですよ。“自分の歌”として聴けてしまう。そういう感覚をリスナーさんに喚起させることがナナシスとしても目指すべきものだと僕はずっと思っているので、今回のタイミングでようやく自分なりにそのバランスを保つことができたのがうれしかったんですよね。で、Twitterとかを見てると、そういう思いで作った「さよならレイニーレイディ」をみんながすごく気に入ってくれている状況もあって。アイドルを扱う作品でそういう曲をやりたかったという僕の思いはそんなにズレてなかったのかなと。
──それが受け入れられたのも、これまでの流れがあったからこそなのかもしれないですよね。
そう思います。書いてる人間が同じだから、今まで出してきた歌詞世界に関しても当然そういうパーソナルなテイストは入っていたと思うんですよ。だから今回、それがゴロッと出たときに違和感なく受け取ってもらえたのかなって。最初からそういうことをやろうとしてもね、きっと自分としての罪悪感もあっただろうし、当時はまだバランス感覚を身に付ける能力が自分には足りなかったんじゃないかなと思います(笑)。この2年があって、いろんな評価を受けてきたからこそできたことだと思います。
──初音源化の新曲を聴くと、各ユニットの個性がより鮮明になってきた印象もありました。茂木さんの中にもそういう感覚はありましたか?
ありました。各ユニットの個性がより見えてきたことに加え、僕が慣れてきたところもあるかなと思います。それぞれの子に何をやってもらうかのバランスがわかってきたというか。例えばNI+CORAの「You Can't Win」なんかはサビがないんです。もともとあったサビを削ってもらって、僕の中ではシンセのリフがサビみたいなイメージなんですよね。そういうシンプルな構成の曲を彼女たちに歌ってもらえたのも、ユニットとしての幅がわかってきたからだと思う。先ほどお話しした「さよならレイニーレイディ」も、SiSHが“僕”という一人称の物語を非常にうまく歌い上げてくれるユニットだということがわかったからこそ書けた歌詞世界だし。
──ほかの2組はどうですか?
サンボンリボンはガーリーとか少女っていうテーマを持ったユニットなので、個人的には難しいという印象はありますね。僕の中に少女的な音楽性や歌詞世界がないのは当たり前のことなんで(笑)。ただ、今回の「セカイのヒミツ」は広いホールを意識したミックスをしたんです。以前の「Clover × Clover」は身近な、家の中で鳴っているような音像を意識したんだけど、ユニットとして表現できる世界を広げたい思いがあったから。エンジニアさんにも「日常の魔法が広がっていくような曲なんです」っていう説明をしましたね。
──WITCH NUMBER 4はどうでしょう?
WITCHは特徴的な声を持つキャストが集まっているということがわかってきたので、今回の「ラバ×ラバ」ではその個性をより増幅させることに挑戦した感じですね。ボコーダーのケロケロ声を少なくして、キャラクターの声を前面に押し出した歌い方をしてもらいました。彼女たちのスピンオフアニメの主題歌で使えちゃうくらいなイメージで。キラキラしたかわいらしい、WITCHらしい表現はできたとは思いますね。ただ、4人の声を生かすのはけっこう大変でしたけど(笑)。もっといいものを作るにはどうしたらいいのか、ここからもしっかり考えていかなきゃっていう課題も見えましたね。
春日部ハルが歌う「またあした」は祈り
──青盤のラストには新曲「またあした」が収録されています。これは春日部ハルのソロ曲という位置付けになるのでしょうか?
いや、僕の中ではソロ曲という感覚ではないんです。ハルが777☆SISTERSのセンターだから彼女に歌ってほしいと思っただけで。イメージとしては、誰かの昔の歌を夕焼けの時間の川辺でハルが歌っている感じというか。だからそういったシチュエーションを想像して篠田みなみさんには歌ってもらいました。なのでハルの曲という感じではなく、リスナーの皆さんには自由に想像しながら聴いてもらえたらと思ってるんです。結論としては、とても個人的な曲ですね。
──ハルのソロ曲ではないけど、誰かの曲をハルが“自分の曲”として歌っているということですよね。それが先ほどのお話にあったパーソナルな雰囲気を醸し出していて。
その通りです。わかっていただけてうれしいです(笑)。だからうまく歌う必要はなくて、鼻歌っぽい感じでっていうお願いはしました。曲全体の空気感に関しても、外の雰囲気、帰り道に懐かしい歌を口ずさんでいるような日常の雰囲気を出してもらうようにエンジニアさんにも伝えました。口笛が入っているのも、そういう世界を出すためですね。
──まっさらな新曲をアルバムラストに持ってきたのはどんな意図があったんですか?
この曲ではあえて“溶け合えない”とか“翔び立てない”っていう言葉を入れているんですけど、要は777☆SISTERSの子たちの進む道は険しいと僕は思っていて。人間が誰かと溶け合ったり、理解し合ったり、一緒に飛び立ったりすることって決して簡単なことではないじゃないですか。彼女たちはこれから大人になっていく上で、その困難なことに対して立ち向かっていかなきゃいけない。まぁこれは人間誰もがという意味なんですが。だからこそ、“またあした”と歌っているこの曲がアルバムの最後に入っていることが祈りになるんじゃないかなって思ったんです。ちょっとキザですけど(笑)。
──それは総監督である茂木さんから彼女たちに対してのエールのような気もしますね。
ああ、確かにそうかも! うまく言葉にはできなかったけど、僕の中にそういう気持ちは確かにあったと思います。あとはファンの皆さんに対して、「また次作にも期待してね」「ここからまた次の展開を見せるからね」っていう思いもこの曲には込めています。
2ndライブへの思い
──8月21日にはパシフィコ横浜国立大ホールにて2ndライブ「t7s 2nd Anniversary Live in PACIFICO Yokohama 16'→30'→34'-INTO THE 2ND GEAR-」が開催されます。昨年5月の1stライブがナナシスにとって非常に重要な意味を持つものになっただけに、今回のライブへの期待も大きく膨らみますね。
もうすでにリハーサルが始まっているんですけど、主要スタッフやキャストは前回と変わらないし、2回目なのでやりやすい部分はありますね。ただ、今回はかなり大きな、明確なテーマがあるんですよ。
──前回のライブは「感謝」がテーマでしたよね。
ええ。でも、今回はね、 “音楽ライブ”というものを真剣に考えてやりたいなと。あまりわかりやすく表に出るようなテーマではないんですけど、それをキャストさんたちに明言したところ、「マジっすか!!」ってみんな言ってましたね(笑)。
──教えてもらうわけにはいきませんか?
ふふふ(笑)。まだ内緒ですけど、ある意味大きなトライです。どこまでやれるかはわかんないですけど、そのテーマをどうクリアしていくかっていうのが、こういったタイプのコンテンツのライブでの長期的であり絶対的な課題だと思うんで。ナナシス自体、ありがたいことにここまでは右肩上がりの成長をしてきていますけど、ここで地力をつけないと続いていかないですからね。そのテーマをあえてキャストに伝えたのも、プレッシャーを感じてもらうためだったりもしますし。
──総監督、厳しいですね。
あははは(笑)。違うんです。僕としてはみんなを巻き込んでいる立場という理解はしているので、“お願い”しているんです(笑)。まあ、でも、個人的にはちょっと儲けたいからとか、有名になるためにみたいな気持ちでナナシスをやってきたわけではないし、それこそ1つひとつ伝えたいことを表現するためにやっていることなので、自然と普通のビジネス観点からの目標とは毎度違うものになるかもですね。今回のライブであえてそういった厳しいチャレンジをすることのメリットって、まだナナシスの魅力が伝えられていない人たちに将来的に僕らの思いを届ける可能性になるってことだと思っていて。
──だから大成功した1stライブのスタイルを安易には踏襲しないと。
大成功というか、ファンの皆さんのおかげで大成功になっただけという見方もできますし。それに同じことをやってると自分が飽きちゃうっていうのもあるんですけど(笑)。ただ、どのみち、ナナシスの本質はまったく変わらないと思うので、今までのファンの方々もぜひ楽しみにしててほしいなって思いますね。
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- 2ndアルバム「Are You Ready 7th-TYPES??」 / 2016年6月29日発売 / Victor Entertainment
- プレミアムボックス[ボックスセット] / 10000円 / VIZL-988
- 初回限定盤[CD2枚組+DVD+グッズ] / 4320円 / VIZL-989
- 通常盤[CD2枚組] / 3564円 / VICL-64589~90
DISC 1 Starry Sky Disc(赤盤)
- Intro~Are You Ready 7th-TYPES??~
- SEVENTH HAVEN / セブンスシスターズ
- FALLING DOWN / セブンスシスターズ
- -Zero / KARAKURI
- TREAT OR TREAT? / 4U
- TREAT OR TREAT? (EMO edit) / 4U
- TREAT OR TREAT? (HINA edit) / 4U
- Is This it, Sisters!? / (ドラマトラック)
DISC 2 Blue Sky Disc(青盤)
- Intro -to be the Blue Sky...-
- 僕らは青空になる / 777☆SISTERS
- FUNBARE☆RUNNER / 777☆SISTERS
- ラバ×ラバ / WITCH NUMBER 4
- さよならレイニーレイディ / SiSH
- You Can't Win / NI+CORA
- セカイのヒミツ / サンボンリボン
- YELLOW / Le☆S☆Ca
- Behind Moon / Le☆S☆Ca
- ハネ☆る!! / はる☆ジカ(ちいさな)
- Snow in "I love you" / 777☆SISTERS
- I need you ~「僕らは青空になる」 original piano arrange~
- またあした / 春日部ハル
- t7s 2nd Anniversary Live in PACIFICO Yokohama 16'→30'→34'-INTO THE 2ND GEAR-
- 2016年8月21日(日)
神奈川県 パシフィコ横浜 国立大ホール
茂木伸太郎(モテギシンタロウ)
株式会社Donutsに在籍するクリエイター。「Tokyo 7th シスターズ」の総監督兼総合音楽プロデューサーとして同作品のビジュアル、脚本、楽曲の企画や制作、ライブ制作に携わっている。
Tokyo 7th シスターズ(トウキョウセブンスシスターズ)
2014年2月にサービスインしたスマートフォン向けのリズム&アドベンチャーゲーム。“アイドル氷河期の西暦2034年”を舞台にアイドルを育成&プロデュースしていく。ゲーム中にはメインユニット・777☆SISTERSをはじめ多くのアイドルグループやユニットが登場する。