鈴木愛奈が2ndアルバム「Belle révolte」を12月1日にリリースした。
フランス語で“美しい反抗”を意味する「Belle révolte」。そのタイトルの通り、鈴木は本作でこれまでのエレガントなイメージとは打って変わって重厚なサウンドをバックに力強いボーカルを響かせ、ダークかつゴシックな世界観を表現している。
なぜ鈴木は今、このような攻めのアルバムを作り上げたのだろうか? インタビューを通して見えてきたのは“本当の彼女の姿”だった。
取材・文 / 須藤輝
見たことがないような“鈴木愛奈”を見せていきたい
──約1年前のインタビューで、鈴木さんは2020年1月のソロデビュー直後にコロナ禍に見舞われてしまい、同年6月に予定されていた1stライブが中止になるなど難しい状況にあったとおっしゃっていました(参照:鈴木愛奈「もっと高く」インタビュー)。
そうですね。デビューできたと思ったら……。
──しかし、今年の2月から4月にかけて1stライブツアーを行い、7月23日にはバースデーライブ「はっぴーにゃーすでぃ♪」も開催されました。その「はっぴーにゃーすでぃ♪」の模様は今作の完全生産限定盤に同梱されるBlu-rayにも収録されていますが、端的に言って、よかったですね。
はい(笑)。ライブやイベントがあれもこれも中止になってしまったときは「神様は意地悪だな」と落ち込んだりもしたんですけど、同時に「乗り越えるべき試練だから与えられているのかな?」とも思って。その期間をどう過ごせば有意義なものにできるか、自分なりに考えて取り組んではいたんです。それがツアーという形での再出発につながり、しかも追加公演という形で誕生日にライブができて、もう「この景色が見たかった!」「この場所をなくてしてはダメだ!」という気持ちがあふれ出してきましたね。
──「なくしてはダメ」というのは、本当にそうですね。
本当にそうです。声が出せない環境ではあるんですけれども、それでも会場に足を運んでくださる方、配信でご覧になってくださる方がこんなにもたくさんいるということにも勇気付けられましたし、それに対する感謝の気持ちとともに「また次につなげていきたい」という思いも一層強まりました。
──今お話しされたことは新曲の歌詞にも表れていると思いますが、それはおいおいお聞きするとして、まずアルバムの全体像として、アートワークも含めゴシックなトーンで統一されていますね。しかも「Belle révolte」(美しい反抗)という、攻撃的と言ってもいいタイトルまで付いて。
もともと私はゴシックなテイストやロックなサウンドが好きで、もし2ndアルバムを作ることになったら、そういう路線で攻めたいと愛奈チームのスタッフさんにお話ししていたんです。なので、私のやりたいことを形にしていただいた格好になりますね。「Belle révolte」というのはスタッフさんが考えてくださったアルバムタイトル案の中の1つだったんですけど、私は最初読み方がわからなくて(笑)。「フランス語ですね」なんてお話をしつつも、すごくカッコいい言葉だなって。
──僕もフランス語はわかりませんが、字面も語感もなんかしゃれていますよね。
そうなんです(笑)。その響きだけじゃなくて「美しい反抗」という意味も、私の思い描く世界観に合いそうな気がして。というのも、この2ndアルバムでは自分の本心、本当の自分というものを表現したかったんです。きれいな部分だけじゃなくて、今まで私を応援してきてくださっていたファンの方も見たこともないような鈴木愛奈を見せていきたい。そういう強気の姿勢が「美しい反抗」とも重なると思ったんです。
自分の意志を貫くような歌が好き
──1曲目でリード曲の「WONDER MAP」は、アルバムのゴシックテイストを象徴するダークかつ耽美的なロックナンバーで、作詞・作曲は加藤有加利さん、編曲は遠藤ナオキさんですね。
お二人と直接やりとりしたわけではないんですけど、プロデューサーさんには「ゴシックでロックでダークな要素盛り盛りで」という要望はお伝えしていて。どういう曲になるのかワクワクしていたところ、私の想像を超えてダークな方向に振り切ってくださって、もう最高です。鳴っている楽器とかもすごく私好みで、前々から折に触れて「こういうサウンドが好きです」というお話はプロデューサーさんたちにしていたんですけど、それも汲み取ってくださったみたいで。
──加藤さんと遠藤さんは「Butterfly Effect」と「antique memory」を手がけたコンビであり、また加藤さんは「Eternal Place」(いずれも2020年1月発売の1stアルバム「ring A ring」収録曲)の作詞・作曲もなさっていますから。
私の好みを熟知してくださっているんだと思います。レコーディングでは加藤さんにディレクションしていただいて、そのとき「『WONDER MAP』は迷いがある中で、最終的には自分の意志で先に進んで行こうとする、光が見えるような曲」とおっしゃっていたんですよ。「Butterfly Effect」のときもそうだったんですけど、私自身、常に迷っていたりすることもあって、そういう状況にあっても自分の意志を貫く歌というのが大好きなんです。しかも、それをこんなにも強いサウンドに乗せて歌えるというのがすごくうれしくて。
──ボーカルにも意志の強さが表れていますよね。あと、独特なビブラートなど民謡ルーツのボーカルが鈴木さんの歌を特徴付けていると改めて思いました。
ありがとうございます。自分では普通にビブラートをかけている感覚ではあるんですけど、それがよくも悪くも民謡風な揺らし方になってしまうんです。それを、例えば自分の家で練習するときにボイスメモに録ったりして、客観的にどう聞こえるのか逐一確認しながら歌ってはいて。やっぱり民謡成分を入れすぎると楽曲の雰囲気が変わってしまうこともあるんですけど、でも自分の中で「ここは外せない」というポイントではクセを強めにしたり、いろいろ試行錯誤しながらのレコーディングではありました。
──この1曲目でアルバムのカラーがバシッと決まった感もありますよね。
そうですね。リード曲としてアルバムを引っ張っていく曲ですし、最初に録った曲でもあるので、自分の中でもこの曲が1つの指針になりました。
──この「WONDER MAP」が皆さんの耳に届く前の、もっとも新しい曲が「えとにゃんらん」(2021年4月配信のデジタルシングル)というポップでかわいい曲だったので、かなりギャップがありますが。
確かに、全然違いますよね。陰と陽の振り幅がすごい(笑)。
──その振り幅の大きさも持ち味だと思うんです。今作でもシリアスな「WONDER MAP」から、やはりポップでさわやかな「もっと高く」(2020年11月発売の2ndシングル表題曲)までよく持っていったなと。
本当ですよね。「Cocoon」(シングル「もっと高く」カップリング曲)のようなカッコいい系の曲はハマるだろうと思っていたんですけど、「もっと高く」と「やさしさの名前」(2020年9月発売の1stシングル表題曲)がどうやってこのアルバムの中に差し込まれるんだろうと気になっていて。でも、うまいこと収まっていて、自分でも面白いなあと思いました。
ゲームの世界に入り込んでいったかのような気持ちになれた
──2曲目の「Endless Pain」もシリアスかつアップテンポなロックナンバーです。作詞は、鈴木さんとしてはAqoursやGuilty Kissの歌詞でもお馴染みの畑亜貴さん、作曲・編曲が菊田大介(Elements Garden)さんという、アニソン界隈では非常によく名前を聞くお二人ですね。
つよつよなお二人が、つよつよな楽曲をくださいました。「Endless Pain」はアプリゲーム「N-INNOCENCE-(エヌ・イノセンス)」の主題歌なんですけど、楽曲をいただいた時点では手元にゲームの資料があまりない状態だったんです。なので、このめちゃめちゃカッコいい曲に対してどういうアプローチをすればいいのかちょっと悩みまして。でも、「N-INNOCENCE-」にはRPG要素があって、もともと私は「ファイナルファンタジー」や「ドラゴンクエスト」、「テイルズ オブ」シリーズといったRPGが大好きで、そういうゲームをプレイしていく中で得られるもの、教えられることってたくさんあるんですよ。
──なるほど。
きっと「N-INNOCENCE-」もそうだし、畑さんの歌詞には「N-INNOCENCE-」のキーワードがちりばめられているとのことだったので、1つひとつのワードを大切にして。なおかつアクションシーンも見どころなので、その迫力や疾走感、スタイリッシュさを存分に歌に乗せてぶつけていこうと思ってレコーディングに臨みました。
──歌詞の内容は当然ゲームに沿ったものになっていると思いますが、鈴木さん自身と重なる部分はありました?
歌っていて、昔の自分がフラッシュバックするような感覚はあったりしました。でも、この曲では自分を出すというよりは、「N-INNOCENCE-」の主人公の女の子に寄り添いつつ、自分なりに「N-INNOCENCE-」の世界をどう彩っていくかに集中していた感じですね。
──続く「RED BLAZE : BLUE FLAME」はエレクトロポップ感もあるダンサブルなロックナンバーですが、「どんなに硬い盾さえ 貫け この歌声!」といった歌詞は鈴木さんのステートメントのようにも読めますね。
前山田健一さんが強い歌詞を書いてくださいました。作曲と編曲は「FF14」のサウンドディレクターの祖堅正慶さんで、私がFFを好きだというのを愛奈チームの皆さんも知っていたのでオファーに至ったという経緯がありまして。いただいたデモを聴いた瞬間に「好き!」という感じになって、歌う前から楽しみで仕方がなかったですね。聴いていても歌っていてもワクワクしますし、曲の最初に起動音みたいな、ゲームがスタートするような音が一瞬入るんですけど、それも自分にスイッチを入れているように聞こえたりして。まるで自分がゲームの世界に入り込んでいったかのような気持ちにもなれて、少年の心を思い出すじゃないですけど、大人になってもゲームというのは心躍らせてくれるものなんだなと再確認しました。
──レコーディングでも楽しく歌えました?
はい。祖堅さんに録っていただいたんですけど、とても気さくな方で。例えば2コーラス目の「不意に襲う 恐怖 立ちすくむけど あの日の 私じゃない 力 沸き立つ」というフレーズでは「ここは自分の心の弱さを表しているんだよね。だから普通に歌っているところと差をつけたい」とおっしゃってくださったりして。じゃあどういうアプローチが相応しいのか、その場で祖堅さんとお話ししながら一緒に作ることができましたね。
──場合によりけりだとは思いますが、適切なアプローチって、すぐに出てくるものなんですか?
いや、この曲に関してはすごく難しくて。「心の弱さを表している」といっても、ただ声量を落とすのも違うし、声色を変えてみた結果かわいらしい感じに聞こえてしまっても意味がないので。やり方としては、まず私なりのアプローチで1回歌ってみて、それに対して祖堅さんが「なるほど、いいね。その方向性で、もうちょっとこういうふうにできる?」みたいな感じで、テイクを重ねていく中で微調整していきました。
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