アニメ「最弱テイマー」堀内直樹監督、鈴木愛奈(声優&OP担当)、丁(ED担当)が主人公・アイビーの成長を表現

2024年1月12日にTOKYO MXほかで放送がスタートする「最弱テイマーはゴミ拾いの旅を始めました。」。スキル至上主義の異世界に転生した、最弱ランクだが“テイマー”の能力を持つ少女・アイビーと、彼女の仲間となるレアスライム・ソラたちの“ほのぼのサバイバルファンタジー”が描かれる。ほのぼのる500による同名小説が原作で、TOブックスのコロナEXでは、蕗野冬によるコミカライズ、雨銛によるスピンオフマンガをそれぞれ連載中。1月15日には小説第10巻と併せドラマCD第2弾もリリースされる。

総監督は「も~っと!おジャ魔女どれみ カエル石のひみつ」「デジモンアドベンチャー02 前編:デジモンハリケーン上陸!! / 後編:超絶進化!! 黄金のデジメンタル」の監督として知られ、独特の演出スタイルで注目を浴びた山内重保が担当。監督を堀内直樹、シリーズ構成を高山カツヒコが務め、アニメーション制作はSTUDIO MASSKET(スタジオマスケット)が手がける。

コミックナタリーではアニメ化を記念し、「最弱テイマー」が初監督作となる堀内、アイビー役およびオープニング主題歌「果てのない旅」を担当する鈴木愛奈、エンディング主題歌「because」を担当する丁に個別インタビュー。堀内は原作の世界観をアニメでどう表現しようと考えたのか。ドラマCD版から続投となる鈴木の新たなアプローチとは。丁は作品をどう受け止め、楽曲「because」を生み出したのか。そのほか各々が思う注目ポイントについても語ってもらった。

取材・文 / 太田祥暉(TARKUS)撮影 / 小川遼

堀内直樹監督インタビュー

1人じゃない、アイビーがそう認識していく様子を丁寧に描く

──堀内監督は「最弱テイマー」が初めての監督作品となります。まず、どのような経緯で監督を務めることになったのか教えてください。

「最弱テイマー」は、私が所属しているSTUDIO MASSKET初の元請け制作作品なんです。そういった経緯もあって、スタジオの中で年齢と経験が一番長い私が監督を仰せつかることになりました。そこから原作とコミカライズを一気に読み、同作をどのように描くべきか、総監督の山内(重保)さんとともに考えていきました。

──そもそも「最弱テイマー」は、異世界転生ものの一種です。異世界転生ものといえばチート能力で無双する展開が思いつきますが、同作の主人公・アイビーは“星なし”(最弱ランク)として村を追放されてしまいます。

流行している異世界転生ものと「最弱テイマー」が大きく異なるのは、チート能力が与えられていないところですよね。アイビーが人の助けを得ながら冒険していき、その恩を何倍かにして返していく物語なんです。前世の記憶という、ある種のチート能力を持ってはいるんですけど、彼女の支えになっているだけで知識無双ができるわけではありません。悩んだら誰かに相談してもいい、助けを求めてもいい、という1つのメッセージが込められた作品なんですね。

アイビー(CV:鈴木愛奈)。彼女が生まれた世界では、5歳になるとスキルを授かることができる。どのランクになるかは、授かるまで誰にもわからない。

アイビー(CV:鈴木愛奈)。彼女が生まれた世界では、5歳になるとスキルを授かることができる。どのランクになるかは、授かるまで誰にもわからない。

──前世の記憶も、原作小説では地の文で書かれていましたが、アニメ版では「〇〇だって?」と頭の中に浮かんだ言葉にアイビーが応答する、自問自答のような描写になっています。

やはりメディアの違いを考えたときに、一番わかりやすい形を取ろうとしてそうなりました。アイビー役の鈴木(愛奈)さんではなく、別の声優さんに前世を担当していただくという案もありましたが、それをやるとアイビーよりも前世の印象が出過ぎてしまう。なので、ときどき役に立つかわからないような助言が頭の中に浮かんで、アイビーがツッコミを入れていく流れになりました。あくまでも主軸はアイビーの冒険ですから。

──アイビーの冒険を起点に、その恩返しの様子を描いていくことがアニメ「最弱テイマー」の方針だと。

力が弱い存在だけど、必要に迫られて村を出て、旅をしていくうちに成長していく。その道中でアイビーが自分1人だけで生きているわけではないことを認識していく、という様子を丁寧に作りたいなと思いました。アニメのクオリティとしても、弊社初の元請け作品だからこそ、レイアウトや作画に破綻がないよう、丁寧に作ろうと考えました。

堀内直樹監督

堀内直樹監督

──先ほど山内総監督のお話も出ましたが、本作では監督と総監督でどのように作業を分担されているのでしょうか。

私は監督として、現場の責任を持つようにしています。総監督は本打ち(脚本の打ち合わせ)で作品の方向性を決め込んでいくことがメインですね。シリーズ構成は高山(カツヒコ)さんが担当されているんですが、総監督としての山内さんの解釈と主張が高山さんとの間で食い違うことも少なくありませんでした。そういう場合になんとか筋道をまとめるために私が代案を出したりと、なかなか熱のこもった話し合いになりがちで。原作を大事にしつつ、シリーズとしてどうまとめるのがよりよいのか、その舵取りは大変でした。でもそのおかげで結果的に山内総監督の考えるアイビーの物語と原作のよさがうまくミックスされた、すでに原作を読まれている方でも楽しめる新たな「最弱テイマー」になっていると思います。

序盤がつらい展開だからこそ、中盤から解放感が得られる

──ストーリーの方向性を決められた方が山内総監督と高山さんである、ということを踏まえたうえでお聞きしたいことが1つあります。作品の序盤、アイビーが村から追放される展開は、原作小説よりもかなり陰惨な内容になっていますよね。これはどういった意図があるのでしょうか。

彼女が旅に出る理由を考えたとき、追放というきっかけをより深掘りしたほうがいいなと考えたからです。原作小説の出だしは、かなり淡々とした雰囲気で始まっていくんですが、1クールのアニメとして再構成する際にはもう少し追い込んだほうが、より深みが出るように感じました。そのためか、序盤はかなりつらい展開になりましたが……(苦笑)。それがあるからこそ、中盤からは解放感が感じられるはずです。

──1クールという限られた尺の中で、アイビーの成長を見せるためにどのように描けばいいのか考えた結果だったんですね。

はい。そのために高山さんが膨らませた箇所もありますし、原作からあえて削ったシーンも存在します。原作者のほのぼのる500先生にはかなり自由にさせていただけたので、現場の作業はやりやすかったですね。

序盤のシーンより。
序盤のシーンより。

序盤のシーンより。

──原作サイドから何かオーダーはなかったのでしょうか。

制作の初期に、村の大きさについてご意見がありました。というのも、1クールとして物語を再構成するのであれば、最初の村の大きさはこれくらいだろう、と考えながら制作していたのですが、もちろん最終話の先も原作では物語が続いているわけで……。原作設定に合わせられないかとのコメントがあり、村の大きさを修正しました。ただ、原作サイドからはそれくらいしか大きな変更点に関するご意見はなく、アニメスタッフが自由に意見を言い合いながら制作を進めることができたと思います。そういえば、村にまつわるエピソードがもう1つあって……。

──村の美術面についてとかですか?

実は、本作の舞台となる村や町は、弊社のフランス人スタッフの手によって、すべてが3DCGで緻密に制作されているんですよ。中世ヨーロッパについて歴史考証をしたうえで建物をモデリングしているので、どんな位置にカメラを置いても破綻が起きないようになっているんです。作画時にはレイアウトが組みやすくなるので、作画のカロリーも低減できています。伝わりにくい箇所ではありますが、少し注目していただけるとうれしいですね。

アイビーが生まれ育った村。
アイビーが生まれ育った村。

アイビーが生まれ育った村。

──原作が小説だからこそ、アニメ化するにあたり難しかった点はありますか?

原作では、ソラが半透明であると書かれているので、それをどのように再現するのか、そもそもソラがどう動くのかといったところはとても難しかったです。スライムがぴょんと跳ねたり転がっていったりするさまって、正解がないんですよ。だからこそ、裏側から何が見えるのか、どんな色になっていくのかまで緻密に考えました。

レアスライムのソラ(CV:田村睦心)。

レアスライムのソラ(CV:田村睦心)。

──メインキャストの印象についてもお聞かせください。

鈴木さんやソラ役の田村(睦心)さんはドラマCD版から「最弱テイマー」に参加されていますから、ある意味私たちよりも作品のことを熟知している存在だったわけです。でも、音だけで演じるドラマCDと画があるアニメとでは文法が異なりますよね。なので、収録時にはかなり山内さんからキャストに檄が飛び……。それに対して鈴木さんもしっかり食いついていたので、放送時にはぜひキャストの芝居に注目していただきたいと思います。

──いよいよ放送が始まりますが、視聴者の皆さんにどういった箇所を注目していただきたいですか?

もちろん1クール全部観ていただきたいですが、特に注目していただきたいのは、アイビーの物語が一段落してから明るくなっていくエピソードです。中盤のターニングポイントとなる1話なんですが、私は個人的に「島編」と呼んでいて……(笑)。それまでの積み重ねがあるからこそ楽しいエピソードになっているはずです。また、オープニング映像にもその先のエピソードで描かれる要素が挿入されていますので、ぜひどんな物語になるのか考察しながらご覧いただきたいと思います。「最弱テイマー」、ぜひよろしくお願いします!

アイビーとソラ。

アイビーとソラ。

プロフィール

堀内直樹(ホリウチナオキ)

7月8日生まれ、岩手県奥州市出身。STUDIO MASSKET所属。主な参加作品に「うる星やつら」(動画)、「NARUTO-ナルト- 疾風伝」(演出)、「江戸前エルフ」(演出)などがある。

2023年12月22日更新