街中に鳴り響く爆音、タフでスリリングな路上ライブ
サスフォーがストリートで音を鳴らすときは毎回、ボーカルマイクを立てず、楽器のみのインストセッションが繰り広げられている。鷲山が発電機のスターターを勢いよく引いてエンジンをかけ、「バイブス高めな感じでお願いします」と笑顔で話してから静かにセッションが始まった。“路上ライブ”と聞いて想像するようなアコースティックギター1本の弾き語りとは異なり、サスフォーの演奏は生ドラムを含めて音量がかなり大きく、迫力があった。
4人が基本となるリズム、フレーズを軸に次々に演奏を展開させていく様は圧巻のひと言に尽きる。鷲山のギターがアンサンブルの波の上を泳ぎ始め、澤田のバッキングが新たな波を起こし、福田と吉村がその波を大きくしていく。そんな自由でダイナミックな演奏に、どこからか集まり、増えていく聴衆。立ち止まる通行人もいれば、通り過ぎる人もいる。鷲山は通行人が目の前を通れば、まるで挨拶でもするかのように目配せをしてみせるなど、全方位に対してフレンドリー。このスタンスについて彼は「観てくれる人も通り過ぎる人も、全員が友達だと思ってやってるんで」とのちに語ってくれた。
路上ではオリジナル曲のほかに、Maroon 5「Payphone」や「情熱大陸」のテーマ曲といったカバーも演奏された。「情熱大陸」で澤田がスパニッシュな旋律を奏でた瞬間、多くの人の脳裏に葉加瀬太郎の顔がよぎったことだろう。カバーと言えどサスフォーらしさが光るアレンジが施されており、福田のスラップをふんだんに織り交ぜた超高速フレーズがドラムと絡み合う。通り過ぎるバイクのけたたましい排気音が演奏にかぶさる場面などもありつつ、街の喧騒と4人の演奏が混ざり合う状況はとてもスリリング。もちろん、煙たい顔で通り過ぎる歩行者もいるにはいるが、鷲山のオープンマインドな雰囲気と、メンバーの堂々たる演奏がその気まずさを打ち消してくれる。ライブがいつ中断されるかもわからない緊張感を感じている観客もいたはずだが、サスフォーは微塵も意に介さない様子で、爆音を鳴らし続けていた。
スタジオにいるとき、彼らに感じた“落ち着き”をここでも感じた。いつ苦情が入ってライブが中断するかもわからない状況でセッティングをするのも、ライブをするのも、普通なら焦りが出るように思う。しかし彼らは現実に起きていない先のことであれこれ気を揉むこともなく、“今”を楽しむことに集中している。そんなバイブスはきっと雑踏のオーディエンスにも波及するのだろう。百戦錬磨の路上ライブ経験があるからできること、と言えばそれまでだが、演奏に対する集中力が抜きん出ていることがわかった。それでも演奏ミスが多かったとのちにメンバーは振り返っていたし、すべてが毎回うまくいくわけでもないのがライブとも言える。
サスフォーは演奏スキルの高さで注目されることが多いが、その真価が発揮されるのはサウンドバランスのよさがあってこそ。「BIGHEAD」で響かせた鷲山のブーミーなファズサウンドも、澤田が膝を突いて足元のエフェクターから発振させたノイズも、福田の小気味よい低音も、ここぞというところで吉村が決める怒涛のドラムフィルも、すべてがクリアに鳴っている。
リハーサルがなくともバランスの取れたアンサンブルを一発で決めていくのがサスフォーの実力の証左であり、鷲山の10年近い“路上歴”もその裏付けとも言えるだろう。百戦錬磨のストリートバンドによる怒涛の生演奏はまだまだ続き、人気曲「ストラトキャスターシーサイド」からの「INVERSION」では、「Don't let me bend my fire, Don't let me bend my feeling」というフレーズで自然と合唱が巻き起こった。
「Don't let me bend my fire, Don't let me bend my feeling」
(俺の炎を曲げないで、俺の気持ちを曲げないで)
「INVERSION」のこのフレーズが雑踏の中で合唱に変わった瞬間、サスフォーの音楽が街と人をつなぐ力を見せた。環境や状況に左右されない、一本筋の通ったようなタフなライブだった。この日フィールドレコーディングされた音源は、7月23日発売の「Advance」DISC 2に収録される。ALUM SKY STUDIOでのミックスなどを経て磨かれたライブ音源は、路上の生々しさと魂の熱をそのまま閉じ込め、聴く者の心を揺さぶるだろうし、すでにYouTubeやTikTokで彼らの路上ライブ映像を観たことのあるファンも、この音源で新たな衝撃を受けるだろう。サスフォーのタフな魂を、全身で感じてほしい。
プロフィール
Suspended 4th(サスペンデッドフォース)
Kazuki Washiyama(G, Vo)、Seiya Sawada(G)、Hiromu Fukuda(B)、Kentaro Yoshimura(Dr)からなるロックバンド。2014年に結成し、愛知・名古屋の栄エリアでの路上ライブを中心に活動を開始する。2019年2月に路上ライブでフィールドレコーディングを行ったライブ音源「20190121」を発表し、1000枚以上を販売。7月に初の全国流通盤となる1stミニアルバム「GIANTSTAMP」をPIZZA OF DEATH RECORDSからリリースした。2022年4月に1stシングル「KARMA」を発売し、7月に1stフルアルバム「TRAVEL THE GALAXY」をリリースした。ツアー開催などを経て、2025年4月にミニアルバム「SLEEPLESS」、7月にシングル「Advance」を発表。
Suspended 4th 2nd Single [Advance] リリース特設サイト
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