心を癒やす「Power Of Hug」、相棒の歌「Mr. Cooper」
──そのほかの新曲についても聞かせてください。「Heat Wave」はSuperflyらしいパワーを感じさせる曲ですが、今回のアルバムには志帆さんのパーソナルな一面を感じさせる新曲もあります。例えば「Power Of Hug」は、包容力のある温かい歌ですね。
ハグは心を癒やすという話を前に聞いたことがあって、ずっと印象に残っていました。あるとき実家に帰ったら親戚のちびっ子がいて、その子がずーっと落ち着かずに大騒ぎして駆け回っていたんです。そこで試しに思いっきりハグしたら落ち着いたんですよ。ああ、愛情不足だったんだな、寂しかったんだなと思って。
──子供を抱っこすると、不思議とこちらも安心するんですよね。
そうそう、もしかしたら大人のほうが愛情不足なのかもしれない。そういうことをすごく考えさせられました。「Power Of Hug」のメロディはコロナが始まったぐらいのときに作ったんですけど、その頃は芸能人の方が亡くなるというニュースが聞こえてきて、もうつらくてつらくて。みんな愛で満たされたらいいのにと思って、1人じゃないからねということを書き記しておこうと思って作った曲です。
──6曲目の「Mr. Cooper」は軽快なドライブソングですね。
私の愛車について歌った曲です。ミニ子と名付けて、もう10年くらい乗っています。私はよくひとり言を言うんですけど、ミニ子にはいっぱい聞かれてますね(笑)。悩んでいるときにドライブしながら泣いたこともあるし、歌もいっぱい歌ったし、曲も作りました。
──まさに相棒ですね。
最近ミニ子、ちょっとがんばれなくなっちゃって、いつかはお別れの日もくると思うんですけど、そのときまで大事にしようと思います。みんなにもそういうかけがえのない大切なものがあるだろうし、自分の気持ちが宿るような何かを連想してもらえればいいなと思って「Mr. Cooper」を書きました。
普通の私がいるから歌詞を書けたり歌えたりする
──そして「春はグラデーション」はFM802のキャンペーンソングとして書き下ろした楽曲ですね。オリジナルはSuperflyのほか詩羽(水曜日のカンパネラ)さん、塩塚モエカ(羊文学)さん、田邊駿一(BLUE ENCOUNT)さん、ビッケブランカさん、ムツムロアキラ(ハンブレッダーズ)さんといった6人のシンガーが歌いつないでいきますが(参照:Superfly、詩羽、塩塚モエカ、田邊駿一、ビッケブランカ、ムツムロアキラ参加のFM802オリジナル曲配信)、このアルバムにはソロバージョンが収録されています。
このキャンペーンのお話をいただいたとき、いろんなシンガーさんが私の曲を歌ってくれるなんて最高じゃないかと思いました。できるだけみんなが歌いやすいメロディにしようとか、メロディの構成をちょっと多めにしてみようとか、いつもは意識しないことを考えて作るのが楽しかったです。テーマとしては、「これからの社会に向けて、優しく寄り添うような曲をお願いします」というオーダーをいただきました。
──チャーミングな友情ソングですが、モデルになった人がいるんですか?
モデルはいないんですけど、冒頭の「油断しちゃうと泣きそう」「深夜一時 長電話」という歌詞は私の体験をもとにしています。私、よく友達から相談を受けるんですよ。このときも夜中に電話がきて3時間くらいずっと話を聞いていたんですけど、時間が経つにつれて友達がどんどん本音を言い始めて、それを聞いてるうちに「その気持ちわかる、私もそう思ってた」と私のほうが泣きそうになって。その友達とは仕事も住んでいる場所も全然違うのに、不思議と同じことを感じていた。それがなんだかうれしくて。
──わかります。私は似たようなことを「ドキュメンタリー」を読んで思いました。
本当ですか?
──志帆さんはこの本の中で何気ない日常のことを書かれていますよね。その中には私も日常でなんとなく感じていたことがいっぱいあって、「そうそう、私もね……」とおしゃべりしたくなりました。
うれしい。もしかしたら同じ時代を生きてる人たちは、根本では同じようなことを感じて、どこかでつながってるんじゃないかなって思うんですよね。そこにはたくさんの話題があって、でも人が話に取り上げるのは、その中のほんの少しだけ。本当はもっとどうでもいいこと、くだらないことをしゃべりたいのに、ちょっとカッコつけてしゃべっちゃう。
──それはありますね。SNSの影響もあって、自分をコンパクトに伝えようとするクセがついているかも。
制作に関わってくださっているプロデューサーの木﨑(賢治)さんは、すっごくおしゃべり上手なんですよ。本当に何気なく「今日歩いてたらさ……」みたいなことをたくさんしゃべってくれて、おしゃべりの天才だなと思います。わたしもおしゃべり上手になりたい。
──考えてみたら、何気ないことをずっとしゃべるのって案外難しいかもしれないですね。こんなこと言ってていいのかな、とつい気になります。
大人になると敬語で話すことも増えるし、これは話しちゃいけないかもと思って止めることもありますよね。そういえば、私はコロナのステイホーム中、マネージャーと週に1回、用もないのにリモートでミーティングしていたんですよ。それも1時間とかじゃなくて、すごく長い時間。
(マネージャー) 3時間とかしてましたね(笑)。
そうするとさすがに話題もなくなってきて(笑)、だからなんとかがんばってしゃべろうとするようになり、そのうちにだんだん何気ないことも話せるようになってきたんです。そのタイミングでエッセイを書きませんかというお話をいただいて、いろんなきっかけがつながっていきました。
──なるほど。たまにはつれづれにしゃべることを意識してもいいかもしれないですね。
そうそう、おしゃべりって大事。あれこれ話を広げていくとお互い意外な共通点があったりして、それを見つけられたときは本当にうれしくなります。意味のないことをずーっとだらだらしゃべることで、その人の根底にあるものに触れられる瞬間もあると思う。
──志帆さんに相談の電話をするお友達の気持ちがわかるような気がします。
私は本当に聞いてるだけなんですけどね。ずっと「うん」しか言ってない。でもたぶん悩みをしゃべって外に出すことが大事だと思うので、私を相談相手に選んでくれるなら、根こそぎ出してあげようと思う。そうすると、不思議なことに私もすっきりするんです。それは友達が本音を言ってくれてるからなんですよね。私は自分の悩みを外に出すのがそんなに得意じゃないので、友達が私の思いを語ってくれているように思えることもあり、話を聞くだけで心が解けるんです。そんなことを普段の生活で感じることが多くなってきました。
──今回のアルバムは「おしゃべり上手になりたい」という普段の志帆さんと、ステージ上で輝くSuperflyが一緒にいる感じですね。
普段の私はカッコよくないから封印していたところもあったんですけど、エッセイを書き始めたときに、普通の私がいるから歌詞を書けたり歌えたりするんだと自分を肯定できたので、アルバムでも少し表現してみました。
──「Superfly 越智志帆」という存在を今までよりもっと身近に感じられるアルバムだと思います。
うれしい。普段の私は本当に普通なので。今おしゃべりしてる私もこんなに普通です(笑)。
ライブ情報
Superfly Arena Tour 2023 "Heat Wave"
- 2023年6月17日(土)神奈川県 横浜アリーナ
- 2023年6月18日(日)神奈川県 横浜アリーナ
- 2023年7月1日(土)新潟県 朱鷺メッセ 新潟コンベンションセンター
- 2023年7月8日(土)愛知県 ポートメッセなごや 第1展示館
- 2023年8月11日(金・祝)宮城県 セキスイハイムスーパーアリーナ
- 2023年8月19日(土)広島県 広島グリーンアリーナ
- 2023年8月26日(土)福岡県 福岡国際センター
- 2023年8月27日(日)福岡県 福岡国際センター
- 2023年9月2日(土)愛媛県 愛媛県武道館
- 2023年9月3日(日)愛媛県 愛媛県武道館
- 2023年9月23日(土)北海道 真駒内セキスイハイムアイスアリーナ
- 2023年9月30日(土)大阪府 丸善インテックアリーナ大阪
- 2023年10月1日(日)大阪府 丸善インテックアリーナ大阪
- 2023年10月14日(土)埼玉県 さいたまスーパーアリーナ
プロフィール
Superfly(スーパーフライ)
越智志帆によるソロプロジェクト。2007年にシングル「ハロー・ハロー」でデビュー。2008年、大ヒット曲「愛をこめて花束を」を含む1stアルバム「Superfly」がオリコン週間アルバムランキングで1位を記録し、以降6作連続で1位を獲得している。2020年1月には、ほぼすべての楽曲の作詞作曲を越智自らが手がけた6thアルバム「0」をリリース。2023年5月、コロナ禍で制作した楽曲を収録したアルバム「Heat Wave」を発表した。6月から10月にかけては全国アリーナツアー「Superfly Arena Tour 2023 "Heat Wave"」を行う。4月には越智にとって初の著作となるエッセイ集「ドキュメンタリー」が新潮社より刊行された。
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