SUPER BEAVER|人と出会い、つながってきた軌跡

2月にフルアルバム「アイラヴユー」をリリースしたSUPER BEAVER。その後も彼らは歩みを少しも止めることなくライブハウスとホール会場を回りながら、5月にテレビ朝日系ドラマ「あのときキスしておけば」の主題歌「愛しい人」をリリースした。続いて7月7日にリリースされるニューシングル「名前を呼ぶよ」の表題曲は、映画「東京リベンジャーズ」の主題歌。映画のストーリーに寄り添った楽曲であると同時に、人との出会いやつながりとともにキャリアを積み上げてきた4人の軌跡が刻まれている。

音楽ナタリーではインタビューを行い、ツアーの手応えや新作「名前を呼ぶよ」の制作過程についてメンバーに話を聞いた。

取材・文 / 森朋之 撮影 / 草場雄介

この状況だからこそ見えるもの

──ホールツアー(「SUPER BEAVER『アイラヴユー』Release Tour 2021 ~圧巻のラクダ、愛のマシンガン~」)も中盤ですが、ここまでの手応えはいかがですか?(取材は5月下旬に実施)

渋谷龍太(Vo)

渋谷龍太(Vo) 楽しいですね。こういう状況ですけど、どうしたら自分たちが楽しめるのか、どうすればライブを観てくださる方に楽しんでもらえるのかを模索しながらやっていて。それが少しずつ形になってきた感じはします。

──新型コロナウイルスの影響でいろいろな制限はあるかと思いますが、ストレスなくやれている?

渋谷 いや、正直ストレスを感じるところはあります。だけど、こういう状況だからこそ見えるものもたくさんあるんですよ。声が出せなくても、フロアから思いを伝えようとしてくれるお客さんの姿もそうだし。そう考えると、“とんとん”なのかなと。ストレスはあるけど、こういう状況じゃないと体感できないこともあるという。

柳沢亮太(G) 僕もすごく楽しめてますね。1週間くらいライブがないと「お客さんにすごく会いたいな」という気持ちになるし、連日ライブをやっている感覚をちょっとずつ取り戻せてるのかなと。僕らはもともと客席から声を出してもらうことが多いバンドで。今は声出しができないですけど、それがいい“溜め”になってる気がします。制限された環境の中でライブを続けて、「いい感じだな」と思える瞬間が増えれば増えるほど、元通りになったときにものすごいエネルギーを生み出せるんじゃないかなって。この先への希望や期待を持ちながらツアーを回れている実感があります。

──あとで振り返ったときに、「コロナ禍でライブを続けたことが、成長につながった」と思えたら最高ですよね。上杉さんはどうですか?

上杉研太(B) “純度が高い”ツアーだなと思います。自分たちや観に来てくださる皆さん、イベンターやスタッフを含めて、みんなしっかり覚悟を持って準備しながらライブを続けていて。今まで以上の覚悟がないといい1日を作れないし、それがライブの純度の高さにつながっている気がしますね。ステージ上で「これがバンドだよな」と思える瞬間もあって。表情と体で思いを伝えようとしてくれるお客さんに感動をもらっているし、メンバー4人の集中力も上がっていて、成長できている感覚があります。悔しい思いをすることもあるけど、それ以上に得るものが大きいですね。

藤原“33才”広明(Dr) ツアーを回っていて、めっちゃ楽しいです。ドラマーって、ライブハウスだとお客さんがあまり見えないんですよ。上がってる拳を見て、「いい感じなんだな」と確認したり(笑)。でも、今回のようにホールツアーだと高い場所にドラムを置いてもらえるので、しっかりお客さんが見えるんです。マスクはしてますけど、お客さんがどういう感情なのかはわかるし、ぶーやん(渋谷)がMCでよく言ってるように、目から伝わるものもすごくあって。ルールを守りながらのライブですけど、自分自身も元気になれるし、充実しています。

SUPER BEAVER

──会場に足を運ぶ方々も、ライブを待ち望んでいたでしょうし。

渋谷 そうですよね。自分も最近はよくライブに行って、客席からステージを観ていて。アクリルを立てたライブや、お客さんの立ち位置を決めたライブを客席で経験しているのも役立っています。お客さんとのコミュニケーションに関しては、向こうは言葉を発しないので、“間(ま)”が大事になってくるんですよね。MCから曲に入るタイミングも、向こうのリアクションやテンポをイメージして、うまく間を作るというか。ラジオの運び方に似てるところもあるので、ラジオをやっていてよかったなと思いました。

フレーズの“タイムリープ”

──ニューシングルの表題曲「名前を呼ぶよ」は映画「東京リベンジャーズ」の主題歌です。いつ頃制作したんですか?

柳沢 昨年末ですね。アルバム「アイラヴユー」を制作した直後でした。去年の秋の終わりくらいに主題歌のお話をいただいたんですが、僕はその前から「東京リベンジャーズ」の原作を読んでたんです。タイアップの場合は自分たちとリンクする部分を探すところから始めるんですけど、この作品に関しては、共通項を見つけやすかったですね。まず「東京リベンジャーズ」という題名自体がしっくりきすぎて。自分たちも東京出身だし、メジャーからインディーズになったときは「リベンジしてやる」という気概があったので。

渋谷 確かに。

柳沢 作品のストーリーにも自分たちのこれまでを重ねられるところが多くて。「誰かのために」という気持ちが強烈に出ている物語なんですが、それはSUPER BEAVERがずっと歌い続けていることでもあるんですよね。それを改めて歌うことで、自分たちの軌跡を落とし込めるんじゃないかなと。あと、「東京リベンジャーズ」には過去と現代を行き来するタイムリープの要素もあって。そのことを考えてたときに、「以前作ろうとして、形にならなかった曲のフレーズを入れてみよう」と思ったんです。インディーズ時代、初めて全国流通したミニアルバム(2007年12月発売の1stミニアルバム「日常」)に収録しようと思ってできなかった楽曲があって、その曲のイントロがずっと自分の中に残っていて。そのフレーズを曲に取り入れることで、当時の若くて強い気持ちだったり、価値観を刻み込めるのかなって。自分としては「時空を超えてつながった」というか、1本筋を通せたなと思っています。

自分たちが歌うから、強い意味が出る

──渋谷さんは「名前を呼ぶよ」という楽曲をどう捉えてますか?

渋谷 テーマに感銘を受けたというか、「その通りだな」と納得できるところが大きかったですね。もともと僕は、名前を記号として捉えていたんです。例えば(目の前の紙コップを指して)これがコップという名前じゃなかったとしても、役割や機能は変わらないので。でも、バンドを17年続けてきて、たくさんの人と出会って、ただの記号だったはずの名前にいろんな思いや記憶が重なり、すごく大切な意味を伴うようになった。その名前を呼ぶことで、自分にしか想起できないことが増えていくのはすごく素敵だし、うれしいことだなと思うようになったんですよね。なので「名前を呼ぶよ」に関しても、「自分たちが歌うから、強い意味が出る」という実感があって。それは最初の段階から感じていました。

──「知らないことがほとんどの世界で 互いに名前を呼び合っているなんて」というフレーズが象徴的ですよね。皆さんはもともと「他者とつながりたい」という思いが強かったんですか?

渋谷 昔からそういう思いはあったと思いますけど、活動の軌跡の中で得たものが大きいでしょうね。つまずいたり、うまくいかないこともある中で、「いったい何が大事なのか?」という本質を叩き込まれたというか。

藤原“33才”広明(Dr)

藤原 そういう意味でも、この曲は自分たちと重なるところがめちゃくちゃありますね。SUPER BEAVERとしてお会いできた人、思い出す名前や顔は無数にあるし、自分たちの音楽を聴いてくださった方にも当然それぞれに名前があって。SUPER BEAVERらしい曲だと思うし、演奏するときも背伸びしないで、等身大でいいと思っていました。

上杉 そう、楽曲の世界観に引っ張られたというか。当初「こういう感じで弾きます」と言ってたものとは全然違うんですけど(笑)、それくらい入り込んで演奏できたし、それがうまくハマって。

藤原 プリプロでぶーやんが歌入れしたときの印象も強いですね。「なんだ、この曲。すげえのができてしまった」という感覚があったし、現場のスタッフも「すごくいいんじゃない?」とザワザワしていて。その後、もっとアップデートさせたいという欲が出て、いろいろ試してみたんですけど、うまくハマらなかったんですよ。最初に出てきた表現が一番よくて、結局プリプロのときの音に戻しました。

柳沢 今、藤原が言った通り、渋谷の歌がすごくよかったんですよ。デモ音源の仮歌は僕が歌ってるんですけど、渋谷が歌った瞬間に「すげえいい」という感じになって。同じ言葉であっても、誰が表現するかによってまったく違うものになるんだなって……当たり前のことなんだけど、ここ数年、「それってすごく重要だよな」と思うようになったんですよね。「名前を呼ぶよ」は、その最たるものだと思います。渋谷だけではなくて、自分たちが演奏することの意味合いを感じられるというか、メンバー全員がやるべきことをやったことで、さらに強くなった曲だと思います。「どうしてそうなったのか?」と聞かれてもわからないんですけどね(笑)。制作のタイミングだったり、自分たちの状態もあるでしょうけど、意図せず出てきたものが大きいんじゃないかなと。だからこそ、これまでの活動の歩みだったり、思想みたいなものも刻まれているんだと思います。そういう音楽を目指してきたところもあるし、自分たちしかいないスタジオの中で、それを感じられたのは純粋にうれしいです。

──ステージで演奏している姿が思い浮かぶサウンドメイクも魅力的でした。音源にもライブ感があるというか。

渋谷 確かにそういう感じはありますね。「アイラヴユー」(2021年2月発売のアルバム「アイラヴユー」のリードトラック)という楽曲もそうだったんですよ。レコーディングしてしばらく経ってからスタジオで演奏したときに、体に沁み込んでる感覚があって。それも理屈では説明できないんですけど、喜ばしいことだなと思います。