起承転結がない感じ
──今回のリリース形態が、作品の内容に与えた影響もありますか?
すごくある。むしろそれが重要。新しいやり方だけあってもダメで、内容含めてすべての整合性がとれてないと意味がないと思うから、そこは今回けっこう考えた。こういう形で出すからこういう内容になったっていうところはかなりある。
──こういう内容というのは例えば全体から漂う猥雑な印象だったり?
そう、プレイリスト感と言うか、起承転結がない感じと言うか。なんだろう、やっぱり10曲なり12曲なり、そういうCDとかLPのボリューム感で作るのとは全然違うものになったと思う。
──この形態と内容が分かちがたく結びついてるんですね。海外の同時代の音楽を意識して、そのシーンに参加していこうという意識もありましたか?
うん、俺の場合エレキギター持ってジャーンしかできないんですってことでもないからね。いろんな音楽が好きで、PC使って作ったりとかもそれなりにできるし。だからオールドファッションなやり方と、現代的なテクノロジーを使ったやり方がミックスされてる。あとアレンジのことだけじゃなく、配信だけで出すのが面白いって感覚もあるし、A面B面で40分くらいがいいよねっていう感覚も持ちあわせてる。どっちが正しいってこともなくてどっちも面白い。それが自分の特徴かな。
最初は配信だけって思ってた
──当初配信でのリリースを想定して作った作品を、今回改めてパッケージ化したのはなぜですか?
そこはけっこう考えたんだけど、最初は確かに配信だけでいいじゃんって思ってた。でもいろんな人に「いつCD出るんですか?」って聞かれるんだよね。
──“CD待ち”の人たちが思った以上にいたわけですね。
うん、だからお客さんのためにはやっぱり盤もあったほうがいいなって。でもこれをそのままCDにしてもつまんないし「じゃあ作り直しだな」ってことでがんばった。だから曲順も違うし、ほとんど全曲ミックスとかもやり直して、それでやっとこの2枚組アルバムの形に落とし込めた。
──じゃあCDはファンサービス的な意味合いが強い?
それはもちろんあるよ。でも自分でも「CDになってよかった」「やっと完成した」っていうのは思うしね。
──曽我部さん自身もそういう感覚があるんですね。
うん、古い感覚だなって思いつつ「やっぱりLP2枚組最高!」みたいなところがどっかにある(笑)。あとレーベルやってる身としてはお金的にもやっぱりね。
──どういうことですか?
盤を出さないと現金収入がないからさ。
──でも定額制配信でも聴かれた回数に応じて収益があるんですよね?
もちろんそうだけど、2500円とかのCDを売るのとは全然違う。今回、瞬間的にはかなり聴かれたと思うし、そういう意味ではすごくよかったんだけど、やっぱりまだこれで暮らしていけるっていうふうにはなんないかな。
──CDが出たあとも配信は継続するんですか?
うん、今までのやつはそのまま聴けて、さらにCDと同じバージョンも追加される。
──じゃあApple MusicやSpotifyで聴いてた人は改めてCDを買わなくても聴けるんですね。
だってそういう人はどっちにしろCD買わないもん。プレイヤー持ってないしね。
サニーデイは気持ちが特別
──レコーディングはどうでしたか? スムーズに進みました?
レコーディングと言うか、今回はスケッチとかメモみたいなものから発展していって全部の作業がずっとレコーディングって感じだったから。iPhoneで録った音がそのまま入ってる曲もあるし。
──でもできあがった楽曲はスケッチみたいな軽いものではなく、1曲1曲ちゃんとコクのある仕上がりになっていますよね。
そうだね。寄せ集めっぽい2枚組じゃなくてThe Beatlesの「White Album」みたいな、とにかくいい曲がいっぱい入ってるものにしたかった。
──サニーデイ・サービスの作品として軽いものは作れないという気持ちがあったんでしょうか?
それはあるんじゃないかな。サニーデイのときはやっぱり気持ちが特別だから。ソロとは全然違う。
──そういうものなんですね。
ソロはなんでもいいの。そのときの自分が出ていれば一筆書きでもいい。でもサニーデイっていうのは自分にとってはすごく大事な、ずっと続いてる青春の物語だし、そのときの気分だけでやるのは何か違う。
──ファンの反応は意識しましたか?
ずっと聴いてくれてる人のことを俺は本当に信頼してるのね。だからこそ、その人たちに向けて「サニーデイが今どういうことをしてたら一番カッコいいのか?」っていうのはいつも問いかけてる。サニーデイには自由奔放にワガママにやっててほしいなっていう気持ちが、昔からのファンの人にはやっぱりあると思うから。それに応えるためには、このアルバムを作らなきゃならなかった。
──じゃあ新しい若いリスナーのほうばかりを向いてるわけじゃないんですね。
実はそうなんだよね。昔からのファンも新しい価値観や新しい喜びを求めてると思うから、自分自身のそういう姿をちゃんと見せたい。
──サニーデイっぽいものを再生産しても意味がない。
それはすごく思うよね。やっぱり四十代も半ばになってくると、いろんなことが億劫になるし、ちょっと臆病になってくるとこはあるんだよ。新しいトライをする前に結果がわかるようになって、その結果を見てから動くこともできる。でもそういう人生はつまんない。もっとパッパラパーでいいから今日楽しいと思えることをやりたい。俺はそっちのほうがいいと思うんだよね。
次のページ »
感情と歴史を積み重ねていきたい
- サニーデイ・サービス「Popcorn Ballads」
- 2017年12月25日発売 / ROSE RECORDS
- DISC 1
-
- Tシャツ
- 東京市憂愁(トーキョーシティブルース)
- 青い戦車
- きみの部屋
- 泡アワー
- 炭酸xyz
- 街角のファンク feat. C.O.S.A. & KID FRESINO
- きみは今日、空港で。
- 花火
- クリスマス
- 金星
- DISC 2
-
- 抱きしめたり feat. CRZKNY
- 流れ星
- すべての若き動物たち
- summer baby
- はつこい feat. 泉まくら
- 恋人の歌
- ハニー
- クジラ
- 虹の外
- ポップコーン・バラッド
- 透明でも透明じゃなくても
- 花狂い
- サマー・レイン
- popcorn run-out groove
※アナログ盤(2枚組LP)も同様の25曲を収録。
- サニーデイ・サービス「クリスマス -white falcon & blue christmas- remixed by 小西康陽」
- 2017年12月13日発売 / ROSE RECORDS
-
[7inchアナログ]
1620円 / ROSE-216
- SIDE A
-
- クリスマス -white falcon & blue christmas- remixed by 小西康陽
- SIDE B
-
- Rose for Sally(クリスマス・ソング)
- サニーデイ・サービス「サニーデイ・サービス in 日比谷 夏のいけにえ」
- 2017年12月25日発売 / ROSE RECORDS
-
[DVD]
2700円 / ROSE-215
- 収録内容
-
- 今日を生きよう
- あじさい
- 八月の息子
- 江ノ島
- スロウライダー
- 経験
- さよなら!街の恋人たち
- 恋におちたら
- 苺畑でつかまえて
- 96粒の涙
- 海へ出た夏の旅~それから
- セツナ
- 白い恋人
- シルバー・スター
- 花火
- 時計をとめて夜待てば
- 24時のブルース
- 週末
- サマー・ソルジャー
- 海岸行き
- 忘れてしまおう
- 夜のメロディ
- 青春狂走曲
- 胸いっぱい
- One Day
- サニーデイ・サービス
- 曽我部恵一(Vo, G)、田中貴(B)、丸山晴茂(Dr)からなるロックバンド。1994年にミニアルバム「星空のドライブep」でデビューし、1995年には1stアルバム「若者たち」をリリース。フォーキーなロックサウンドと文学的な世界観が音楽ファンの間で好評を博し、7枚のアルバムを世に送り出すも2000年12月に解散。2008年8月に再結成を果たして以降は2015年までにオリジナルアルバム2枚とライブアルバム1枚を発表し、2016年8月に通算10枚目のオリジナルアルバム「DANCE TO YOU」をリリースした。2017年6月に予告なしでアルバム「Popcorn Ballads」をApple MusicとSpotifyにてストリーミング配信して大きな話題を集める。同年12月「Popcorn Ballads」をCDおよびアナログ盤でリリース。それに先がけアルバム収録曲「クリスマス」の小西康陽によるリミックスを収めたアナログ7inchシングル「クリスマス -white falcon & blue christmas- remixed by 小西康陽」をリリースした。