サニーデイ・サービスのニューアルバム「Popcorn Ballads」がCDとアナログレコードで12月25日にリリースされる。この作品は今年6月に定額制音楽配信サービスのApple MusicとSpotifyのみで突如配信され、ファンに驚きと喜びを与えた話題作。今回のパッケージ化に際しては「はつこい feat. 泉まくら」など新曲4曲が追加され、計25曲100分超という大ボリュームでのリリースとなった。
そして何より特筆すべきはその内容。“戦時下の恋人たち”をテーマにしたというどこか不穏で猥雑な世界が、ファンキーかつサイケデリックなサウンドで描き出される様は圧巻だ。この独特すぎるアルバムはいったいどのように作られたのか? 曽我部恵一(Vo, G)にじっくりと話を聞いた。
取材・文 / 大山卓也 撮影 / 西槇太一
- サニーデイ・サービス「Popcorn Ballads」
- 2017年12月25日発売 / ROSE RECORDS
- DISC 1
-
- Tシャツ
- 東京市憂愁(トーキョーシティブルース)
- 青い戦車
- きみの部屋
- 泡アワー
- 炭酸xyz
- 街角のファンク feat. C.O.S.A. & KID FRESINO
- きみは今日、空港で。
- 花火
- クリスマス
- 金星
- DISC 2
-
- 抱きしめたり feat. CRZKNY
- 流れ星
- すべての若き動物たち
- summer baby
- はつこい feat. 泉まくら
- 恋人の歌
- ハニー
- クジラ
- 虹の外
- ポップコーン・バラッド
- 透明でも透明じゃなくても
- 花狂い
- サマー・レイン
- popcorn run-out groove
※アナログ盤(2枚組LP)も同様の25曲を収録。
このアルバムに全部詰め込んだ
──ニューアルバム「Popcorn Ballads」はボリューム的にも内容的にも、これまでのサニーデイ・サービスとは一線を画す意欲作になりましたね。
うん、内容的にはわりと雑多で、どこかサウンドトラックみたいな感じもあって。これ大丈夫かなって思ってたんだけど、ライターの北沢夏音さんが「やっぱり曽我部くんの音楽って情熱的だよね」って言ってくれて「あっ、だったらよかった」「情熱的でさえあればもうどんな曲でもいいな」って思った。
──前作「DANCE TO YOU」(2016年8月リリース)が9曲入りのコンパクトなアルバムだったので、なおさら今回の曲数の多さには驚かされました。
「DANCE TO YOU」はたくさん曲を作って、それを削って削って捨てていって結果ああいう形になったんだけど、このアルバムには全部詰め込んだ。2枚組アルバムってそういう面白さがあるし、今回はそれをやりたくて。普通だったら削るようなところも全部入れてある。
──「Popcorn Ballads」はこのボリュームにもかかわらず、前作から約10カ月という短いスパンでリリースされました。前回のアルバムに入らなかったボツ曲が大量にあったと聞いていたので、それらのアウトテイクをさらっと配信で出しておこうという企画なのかと思ったんですが、そういうことではないわけですよね?(参照:サニーデイ・サービス「DANCE TO YOU」インタビュー)
うん、そういうことではまったくない。「DANCE TO YOU」のアウトテイクから作った曲も1曲入ってるけど、それ以外は全部書き下ろしの新曲で、まあアウトテイクはいっぱいあったから入れたかったんだけど結局入らなかった。自分自身があの頃より先に進んじゃってて、テンションが全然違ってたから。
──確かにこのアルバムの感触は「DANCE TO YOU」とはずいぶん違います。
「DANCE TO YOU」を作った直後、去年の夏にちょっと新しい感触の芽生えみたいなものがあって。「こういうものを作りたいな」っていう漠然としたイメージが見えたんだよね。
やったことないことをやりたい
──アルバムのイメージを決めるきっかけになった曲はありますか?
最初の頃に「青い戦車」っていう曲ができた。その頃「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」とか「ニューロマンサー」みたいな、そういうSFっぽい感覚がいいなって思ってて、あと「この世界の片隅に」とか戦争の映画を観てたから、そういうのが頭の中で混ざり合って、今か未来かわかんないけど“荒廃した戦時中”と言うか、ディストピア的なテーマがぼんやり出てきた。それで「青い戦車」を作った。
──曽我部さんがそういう世界観ありきで曲を作ることは、過去にはあまりなかったですよね。
うん、いつもはテーマとかコンセプトみたいなことは全然考えないんだけど、今回はボリュームがあるし、多少なりとも軸があったほうがいいなと思って。
──じゃあテーマ設定以前から、ボリューム感のある作品を作ろうと思っていた?
そのあたりは同時進行なんだけど、曲がちょこちょこできはじめた頃に、これは10曲入りのアルバムではなくて、もっとボリュームがあって、PCとかクラウド経由で聴く何かだなって思ったの。で、その形で聴くならディストピア的な世界を歌ったものがいいなと思って。
──10曲入りのアルバムにしようとは思わなかったんですか?
そういうのはすぐ作れるからさ。そういうんじゃなくて、やったことないことをやりたい。
──仮に「DANCE TO YOU 2」みたいなものを作れば、リスナーはみんな喜ぶし「やっぱりサニーデイはすごいね」ということになるわけですよね。
でもそれをやっても自分がつまんないしね。そういうことをしないのがサニーデイだから。
CDプレイヤーを持ってない世代
──新作を定額制配信サービスのみで発表するというやり方は、海外アーティストの間で徐々に増えていますよね。
去年そういう形の素晴らしい作品がいっぱいあったから「これは日本でも負けてられないな」って思ってて。でもやっぱりメジャーレーベルに所属してる人だと、そういうのやりたくてもなかなか難しいみたい。その点、俺とかはやりたいと思ったらすぐやれる、ちょうどいいところにいるからね。もっと売れてる人だと動きにくいし、もっと売れてない人だと話題にもならないし。
──実際この形でリリースしてみてよかったのはどういう点ですか?
まず1個目は単純に話題になるし盛り上がるっていうこと。
──そうですね。
そして2個目は、SpotifyなりApple Musicなりを使って音楽を聴いてる層にアピールしたいっていうのがあって、それについてはある程度できたんじゃないかと思う。
──その層というのは?
うちの子供とかもそうだけど、CDプレイヤーを持ってなくて、かと言って1曲200円でダウンロードして聴くわけでもない。Spotifyの無料会員だったり、YouTubeなんかを使って音楽を聴いてる人たち。
──従来のサニーデイ・サービスのファン層とは違う?
全然違う、もっと新しい世代。だからほら、サニーデイは四十代半ばのバンドだけど、普通は十代の子が四十代半ばのバンドの音楽なんて聴かないわけで。やっぱり何か面白いことをやらないとその層には届かないからね。
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起承転結がない感じ
- サニーデイ・サービス「クリスマス -white falcon & blue christmas- remixed by 小西康陽」
- 2017年12月13日発売 / ROSE RECORDS
-
[7inchアナログ]
1620円 / ROSE-216
- SIDE A
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- クリスマス -white falcon & blue christmas- remixed by 小西康陽
- SIDE B
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- Rose for Sally(クリスマス・ソング)
- サニーデイ・サービス「サニーデイ・サービス in 日比谷 夏のいけにえ」
- 2017年12月25日発売 / ROSE RECORDS
-
[DVD]
2700円 / ROSE-215
- 収録内容
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- 今日を生きよう
- あじさい
- 八月の息子
- 江ノ島
- スロウライダー
- 経験
- さよなら!街の恋人たち
- 恋におちたら
- 苺畑でつかまえて
- 96粒の涙
- 海へ出た夏の旅~それから
- セツナ
- 白い恋人
- シルバー・スター
- 花火
- 時計をとめて夜待てば
- 24時のブルース
- 週末
- サマー・ソルジャー
- 海岸行き
- 忘れてしまおう
- 夜のメロディ
- 青春狂走曲
- 胸いっぱい
- One Day
- サニーデイ・サービス
- 曽我部恵一(Vo, G)、田中貴(B)、丸山晴茂(Dr)からなるロックバンド。1994年にミニアルバム「星空のドライブep」でデビューし、1995年には1stアルバム「若者たち」をリリース。フォーキーなロックサウンドと文学的な世界観が音楽ファンの間で好評を博し、7枚のアルバムを世に送り出すも2000年12月に解散。2008年8月に再結成を果たして以降は2015年までにオリジナルアルバム2枚とライブアルバム1枚を発表し、2016年8月に通算10枚目のオリジナルアルバム「DANCE TO YOU」をリリースした。2017年6月に予告なしでアルバム「Popcorn Ballads」をApple MusicとSpotifyにてストリーミング配信して大きな話題を集める。同年12月「Popcorn Ballads」をCDおよびアナログ盤でリリース。それに先がけアルバム収録曲「クリスマス」の小西康陽によるリミックスを収めたアナログ7inchシングル「クリスマス -white falcon & blue christmas- remixed by 小西康陽」をリリースした。