ナタリー PowerPush - スネオヘアー

メジャーデビュー10周年 “エンディング作家”の真骨頂

「旦那さんです」みたいな

──それからもうひとつ、最近の活動で驚いたのは先日放送された日本テレビ系「おしゃれイズム」ですね。あの放送は大きな波紋を呼びました(笑)。

ああ。あれは音楽的……じゃないですからね(笑)。まあ奥さん(ともさかりえ)が出演するときに、結婚したっていうんで「ついでに」みたいな。あれはもうスネオヘアーっていう音楽表現を全く背負ってないので「旦那さんです」みたいな感じで出ましたけど。

──アーティスト的にNGとか、そういうのはなく?

スネオヘアー

そうですね。ほかの人はやらないでしょうね。あの番組を観て音楽を聴いてみようとは思わないですもんね。全然いいんです。

──スネオさんはどこか謎めいた、つかみどころのないイメージがあったんですけど、ああやって「旦那さん」としての素の表情が見えると、それはそれで別のつかみどころのなさが発生したというか(笑)。

つかみどころがない、実態のないものへの憧れがあるんですよ。知識もないまま演劇に興味を持ったのも、実態としてつかめてないものに惹かれてのことなんですよね。自分が音楽でスネオヘアーと名乗ってること自体も、そもそもそういうものにしたいという、どこか物事を斜に構えたとこころがあって。でも、年齢も40歳を越えて、ややこしいことに飽きてきたんですよ。めんどくせえなと思って(笑)。震災もありましたし、原発だなんだと不確かなものが増えすぎて、世の中もシンプルな方向に向いているなと思うんですけど。プライベートの自分と音楽が同軸でありたいなってなんとなく思ったんですよね。わかりやすいほうがいいなって。そういう気分だったから……あんなことに(笑)。

──あははは(笑)。その気分はすごく共感できます。でもアートワークやPVは、新作「slow dance」でも独特のねじれた感じは健在で。

デビュー当初とはもうちょっと自分の中のねじれ感とか、そういうものを意識せずともきっちり表現しようとしてたんですよ。でも、ある時期からそれも一緒に崩れたような気がしていて。大きく変わってはないと思うんですけど、違うところがあるとすれば、今はそれを普通にやってますね。おかしなことを、確信的にというよりは。

──計算しておかしなものを作るんじゃなく、すっと自然に。

うん。理由とか、その先の映り方とかを考えなくなりましたね。何をやっても自分でしかないだろうっていうのがより強くなって。ブレがなくなったってことですよね。ここまで来るとブレようがないっていうか(笑)。

いつでも100万枚行きたいと思ってます

──「10周年」というくくりは、スネオさん自身の中で大きいものですか? 区切りの年に大きな展開をする方もいれば、比較的軽く流しちゃう方もいますけど。

10年を音楽的に振り返ると、よく今もこうしていろいろやらせてもらってるなと思うんですよ。単純にうれしい、ありがたいですよね。「10年かあ」っていう感慨はあんまりないんですけどね。ただ、まだまだ全然評価されてないと思うし、もっと届かないもんかなという思いがあるんです。もっとやりたいことはたくさんあるし、考えるのは先のことばかりで、振り返ってもあまり何もないな、という感じですかね。

──だいぶ先のことまで考えてます? 20周年、30周年……50歳、60歳になってからのことなど。

たまに考えますね。一瞬ですけど(笑)。でも考えてもわかんないですよ。「多分死んでるな」っていうのがだいたい出てくる答えです。

──あはははは(笑)。

そろそろ閉店セールをやりたいな、とも思ってて。そろそろ死ぬんじゃないか、これがラストツアーなんじゃないか、ってのは普段活動してても考えますよ。

──「もっと届かないもんかな」とおっしゃいましたが、もし仮に大多数に届いた場合、つまり「めちゃめちゃ売れた」場合について考えたことはありますか? それこそCDが100万枚売れて、ドームクラスの会場でワンマンをやるような売れ方まで。例えば「そこまで売れなくてもいいよ」と思っているのか、「行くなら行ったでその景色を見ておくか」みたいな気持ちもあるのか、どうなんだろうなって。

僕はもう全然、このCDが売れない売れないって言われてる時代でも100万枚行きたいですね。そういう音楽性じゃないっていうのはわかってるんですけど、いつでも100万枚行きたいと思ってます。ドームも全然やりたいですし。追加で武道館2DAYSとか(笑)。そういう気持ちは変わってないんですけどね。理想と現実っていうわけではないですけど。

──「そういう音楽性じゃない」というのもニュアンス的にわかりますけど、何がきっかけの100万枚、何がきっかけのドームなのかって考えると正解はわからないですよね。ただ「100万枚売れるスネオヘアー」はすごく見たいです。

うん。「いやいやこれはそういったものじゃなくて」って言うのはつまんないなと思うんですよ。嘘でもそういう気持ちを持っていたほうが面白いなとは思ってます。音楽やるのに夢がないなんて、やる意味ないですよ。自分としては。だったらちゃんと定職に就きたかったなと思うし。正社員なりたかったなって思うんで。

──正社員(笑)。

音楽やってる以上は夢がないと。いい車に乗れるとか、すげえ家建てるとか。そういうの欲しいですね。デカい話が好きなので。欲に直結するのは音楽として純粋じゃないとか思われるかもしれないけど、僕らの先輩たちはもっと、そういう意味で下世話な感じがあったと思うんです。「やっぱ音楽やるとモテるんだ」みたいな(笑)。

──あははは(笑)。確かに。今は音楽をやる方法も裾野がどんどん大きくなってると思うし、メジャー所属じゃなければ音楽が広がらないということもないですけど、そのぶん「ここまで評価されたら十分」みたいなところがあるかもしれませんよね。昔のようにデビューするしないで100か0かみたいな極端な差はなくて。でも、そんな意見をスネオさんから聞くとは正直思いませんでした(笑)。

いやいや。なんかド派手な車乗り回すとか、いいですよねえ。

──ド派手な車からスッと顔を出した人がスネオさんだったら、すごくいいですね(笑)。

こういう世の中なんで、ワーッといかないとなと思うんですよね。そっちのほうが、すごくいいパワーをみなさんに与えると思うので。

スネオヘアー
ニューシングル「slow dance」 / 2012年10月24日発売 / スターチャイルド
ニューシングル「slow dance」/ 初回限定盤[CD+DVD] 1600円 / KICM-91418
ニューシングル「slow dance」 / 通常盤[CD] 1000円 / KICM-1418
CD収録曲
  1. slow dance (TVアニメ「好きっていいなよ。」エンディング主題歌)
  2. ユニバース (映画「ハイザイ~神さまの言うとおり~」主題歌)
  3. スコール
  4. 鷹の空~ルテルテ主坊~ i-dep feat.スネオヘアー
初回限定版DVD収録内容
  • 「slow dance」PV(監督:須藤カンジ)収録
スネオヘアー(すねおへあー)

プロフィール写真

1971年新潟生まれのシンガーソングライター、渡辺健二によるソロプロジェクト。1999年にカフェオレーベルからアルバム「SUN!NEO!AIR!」を発表し、2002年5月にはシングル「アイボリー」でメジャーデビューを果たした。その後多くのヒットチューンを含むシングル、アルバムを多数リリースしている。その他、YUKI、坂本真綾、新垣結衣、THE COLLECTORSへの楽曲提供や、U.N.O.BANDのプロデュースなどでも幅広く活躍。2010年にはアニメ「荒川アンダーザブリッジ」のエンディングテーマ「逆様ブリッジ」でアニメファンからも大きな注目を集めた。2011年8月にはメジャー通算7枚目となるフルアルバム「スネオヘアー」を発表。2012年10月24日にはおよそ3年ぶりとなるニューシングル「slow dance」をリリースした。