ナタリー PowerPush - スネオヘアー
メジャーデビュー10周年 “エンディング作家”の真骨頂
シングルには求められている役割がある
──今回の新曲「slow dance」も、やはり最初に「エンディングテーマで」という発注を?
そうです。
──楽曲を作る上で意識したことはありますか?
わかりやすくっていうことですかね。先にマンガ原作を読ませてもらった上で、わかりやすくて、テンポ感のある曲がいいかなって。
──「少女マンガ原作」というのは何か特別な部分がありますか? 「荒川アンダー ザ ブリッジ」は元々ちょっと変な作品なので(笑)、自由度はある程度高いと思うんですけど、少女マンガのファン層がターゲットとなると、少し的を絞るようなところもあるのかなと。
「好きっていいなよ。」は純愛というか、今の時代の若い恋っていう感じなんで。よほど意識的に奇をてらったものでない限り、ある意味どんなアーティストの曲が流れてきても何かしらのドラマ性は生まれるんじゃないかなと思うんですよ。まあ自分の曲としては、BPM120くらいのテンポがあって、シンプルでストレートな歌メロがバスッと乗ってる曲がいいかなと思って。
──2曲目の「ユニバース」は、ご自身も出演されている映画「ハイザイ~神さまの言うとおり~」のテーマソングですけど、これも……?
はい。エンディングテーマです。
──本当にエンディング作家ですね(笑)。こちらも非常にスネオさんらしい、歯切れの良い8ビートナンバーで。3曲目には唯一タイアップ曲ではない「スコール」が収録されていますが、この3曲は制作時期としては同じぐらいの頃なんでしょうか。
そうですね。去年の夏にアルバム(「スネオヘアー」2011年8月発売)を出したあと。今年に入ってからぐらいじゃないかな。
──アルバム完成後の次の一歩として、タイアップというお題がなく作られた新曲という意味では興味深いですね。
シングルには求められている役割があって。自分でどうしてもやりたい形というのは、やっぱりアルバムなんですね。組み立てが新鮮なサウンドで、シンプルだけどそれ自体が鳴ってくるような……抽象的でうまく言葉にできないんですけど、そういう曲はアルバムじゃないと難しいんです。そういう意味では「スコール」は前回のアルバムの延長にある、次の一歩という感じですね。
──さらに今作にはボーナストラックとして、i-depとのコラボ曲「鷹の空~ルテルテ主坊~」も収められていて、曲調もサウンドもこれまでのスネオさんの作品にはなかった新たな側面が見られます。この曲は「i-dep feat. スネオヘアー」名義ですが、これは完全にボーカリストに徹して?
そうですね。i-depさんは「鷹の爪.jp」で歌い手を変えた楽曲をマンスリーで発表していて。これはその中の1曲として作られたんです。曲も歌詞もi-depさんで、これはなかなか良かったですよ。
──自作以外のメロディを歌うのはどんな感じでしたか?
やっぱり難しいですよ。この曲は関西弁とか入ってるし。でも客観的に何度か聴いてみると、すげえいいんですよね。さらっと聴けますし、歌詞もこれ秀逸だなと思って。すごく人間くさいけど、それをさらっと聴かせるみたいな。自分では書かない詞ですし、音の配置やトラックダウンも自分とはむしろ真逆の方向になってるんで、すごく新鮮でしたね。
作り手の顔が見える“宅録盤”を
──ちなみに次のアルバムの構想や準備は、もう進んでいたりするのでしょうか?
メジャーデビュー10周年ということで本当は今年中に間に合わせたかったんですけど、ちょっと間に合いそうになくて。でも曲は結構作ってるんで、いい形に持っていきたいなと思ってます。
──前作は「スネオヘアー」という、いわゆるセルフタイトルの作品でしたけど、これを出してしまうとなおさら次の一歩には大きな意味がでてきそうな気がするのですが。
そうですね。ここでひとつっていう区切りがあってのその先なんで、ようやく一歩踏み込んだ感じのネクストステージ、って感じが自分の中にもありますね。最近はスネオヘアーと自分個人の境界があいまいになってはきているけど……まあ個人名義で出してもいいのかな。宅録盤を並行して出したいと思ってるんですよ。
──おお。
作り手の表情が見えるものがいいなって思ってて。最近よくある、野菜のパッケージに農家の人の顔があって「佐藤さんが作りました」みたいなの。ネット通販なんかでも「煮物にして食べました」みたいな、作り手と受け手がダイレクトにつながってるような。そういうのがやってみたいんですよね。宅録盤に関しては。
──それは面白いですね。きっちり作り込まれたスタジオ音源を作る一方で、手作り感のある作品も出すという。
ちょっとイビツでも、息づかい、手触り感が残ってるみたいな。音楽は形がないもので、今は伝達の手段もいろいろ変わってますけど、そんな中でも作り手の顔が見えてくるみたいな音楽がやりたいなって。
俳優、スネオヘアー
──前回の特集からこれまでの大きな変化としては……ナタリーでもニュースで大きな話題になりましたけど、映画「アブラクサスの祭」の主演で突然丸坊主になったりとか(笑)。この秋も「ハイザイ~神さまの言うとおり~」がありますけど、活動の幅も大きく広がった数年間だったんじゃないかと。
そうですね。でも10周年とかレーベル移籍を機に活動をちょっと変えていこう、みたいなことではないんですよね。結構前にお話をいただいていて決まってたものが、たまたまそのタイミングだったというか。流れの中でそういうふうになってきたっていう。
──演技に関しては、元々演劇をやられていたという噂も聞きましたけど、本当なんですか?
本当ですね。嘘ではないです(笑)。演劇っていうか、なんかやりたい感じだったんです。そういう人が周りにいっぱいいたんですよ。ちょっと人とは違う、写真がやりたいとか、絵やりたいとかデザインだとか。そういう中でくすぶってる、どうにもならない中のひとりだったんです(笑)。それでたまたまやりたかったのが演劇だったんですよ。
──これだけスネオヘアーとしてのアーティスト活動が主軸になっているところに、突然映画出演のオファーが舞い込んできて、すぐに「やろう」という気持ちになりましたか?
いや、これはビビりましたね。なんで演劇をやめたかって、できないからやめたんですよ。やっぱり。「アブラクサスの祭」のときはまずセリフが覚えられないし、演技もできないんで「やっぱ無理ですよ」って。
──それでも「ハイザイ~神さまの言うとおり~」の出演を断らなかったのは?
「ハイザイ」に関しては音楽をやらせてもらってるので、話の流れで「スネオさんも」って。そんなかたくなに断るのもあれなので……仕事量っていうか、役割も少なさそうだし、と。「アブラクサスの祭」は、音楽的な映画だったんですよ。監督がすごく音響系、現代音楽みたいなのが好きな人で。監督からは「音楽の映画が撮りたい」って言われたんです。原作はお坊さんを題材にしたものだけど、これを音楽の映画にしたいって。サントラをやられている大友良英さんにもお会いしてみたいと思っていたし。で、最終的に「演技できなくても、そのままでいいです」って言われたので「じゃあ」と。
- ニューシングル「slow dance」 / 2012年10月24日発売 / スターチャイルド
- ニューシングル「slow dance」/ 初回限定盤[CD+DVD] 1600円 / KICM-91418
- ニューシングル「slow dance」 / 通常盤[CD] 1000円 / KICM-1418
CD収録曲
- slow dance (TVアニメ「好きっていいなよ。」エンディング主題歌)
- ユニバース (映画「ハイザイ~神さまの言うとおり~」主題歌)
- スコール
- 鷹の空~ルテルテ主坊~ i-dep feat.スネオヘアー
初回限定版DVD収録内容
- 「slow dance」PV(監督:須藤カンジ)収録
スネオヘアー(すねおへあー)
1971年新潟生まれのシンガーソングライター、渡辺健二によるソロプロジェクト。1999年にカフェオレーベルからアルバム「SUN!NEO!AIR!」を発表し、2002年5月にはシングル「アイボリー」でメジャーデビューを果たした。その後多くのヒットチューンを含むシングル、アルバムを多数リリースしている。その他、YUKI、坂本真綾、新垣結衣、THE COLLECTORSへの楽曲提供や、U.N.O.BANDのプロデュースなどでも幅広く活躍。2010年にはアニメ「荒川アンダーザブリッジ」のエンディングテーマ「逆様ブリッジ」でアニメファンからも大きな注目を集めた。2011年8月にはメジャー通算7枚目となるフルアルバム「スネオヘアー」を発表。2012年10月24日にはおよそ3年ぶりとなるニューシングル「slow dance」をリリースした。