ナタリー PowerPush - スネオヘアー
ベストアルバム発売記念 誕生10周年を振り返る
「スネオヘアー」の匿名性はもういらない
──2007年は映画「恋するマドリ」のサントラを制作されたのも大きなターニングポイントだったんじゃないですか。
サントラって昔からずっとやってみたかったんですよね。で、たまたまそのお話をいただいたので、「これはうれしいな」と思って。やっぱり、先方から求められるところに対して応えていかなきゃいけないですし。あとはやっぱり、説明しすぎてもいけないというか……音楽が画よりも前に出てきちゃいけないし、っていう。そのへんの難しさにすごく醍醐味を感じてましたね。
──そういう経験の影響も大きかったのかなと思うんですけど、2008年の「共犯者」というシングル曲も非常に印象深くて。架空の物語を歌で演じきるというやり方にも踏み込んでいきましたね。
そうですねえ。もう……日々、いろんな思いが誰しもあるとは思いますけど、そんなにナイフで深く刻まれた傷みたいなものがいつも痛んでるわけじゃないんで。普通にぼんやり幸せに暮らしたいなっていうときもありますよね。そうすると、それこそ今おっしゃったみたいに、作家的な作品もね。客観的に「こういう世界観にして」っていう感じで作ったんです。
──たぶん、DISC1の時期だったらやれてないですよね。
やれてないですね。なんか、登場人物をどうするかとかそういう設定を考えながら「最後この2人どうするんだろうね?」なんて想像しながら作ってました。音楽的にもそれこそ確信的な歌謡曲のテイストというか、ズバリそんなところを狙い撃ちしてどこまでできるんだろうなって楽しみながら。
──やっぱりここ最近は、スネオヘアーで何をやるべきかみたいなものには囚われず自由になってる感じなんですか?
すっごい自由になってますね。もうインストとかでもいいんじゃないかって。「だいたい何よ、“スネオヘアー”って?」みたいな気持ちで。あの、やっぱり曲ですよね。スネオヘアーを売りたいっていうよりは曲を聴いてもらいたい。「あの曲いいね」「あの曲カッコいいね」っていうのが、たまたまスネオというヤツの曲だったってぐらいで。最初はほんと匿名性というか器ってことでやってましたけど、もう匿名性も何もねえだろって。結局本気で向き合ってくのは自分でしかないですよね。
それでもやっぱり希望ぐらいは欲しいと思った
──そういう自由さの象徴でもあると思うんですけど、最新シングル「ロデオ」には映画と関係の深い3曲が入っていて。
そうですね。「ロデオ」は「ウグイス」を緒方明監督が気に入ってくれて。「ウグイス」って僕のバイクの排気音から始まってドラムにドッドッダッダっていくんですけど、そのイメージがあったのか「リズムから始まってほしい」っていうのと、あと「テンポがあってある程度勢いがある曲」っていう注文をいただきました。
──あと「ロデオ」は、ここ最近じゃ珍しいぐらい鋭いメッセージも入ってると思うんですけど、そのへんは映画「のんちゃんのり弁」の内容に触発された部分もあるんですか?
それもありますね。でも最後のほうは、もう自分の気持ちのままです。
──「変わらないは無いだろう いづれ / 報われてゆくんだろう 希望」という強いフレーズが入っていて。
これ、なかなか難しいと思うんですよ。生きていて、自分の思い描くところに最終的に落とし込んでいくっていうのは。でも、人ってそれでもへこたれないというか、匙を投げないしぶとさがあって。そのしぶとさが憎いなと思った時期もあるんですけど。こんなことが起きても、結局またごはんも食べれてんじゃねえか、みたいな。ほんとに自分自身が憎たらしい時期があったんですけど、今は全然そう思わなくて、すげえパワーだなって思えてるんです。ほんとに大丈夫だ、みたいなことは絶対言えないし、自分自身も迷う日々なんでね。でも、やっぱり希望ぐらいは欲しいというか。そんぐらいあってもいいじゃんかっていうのは歌いたかったです。
──そしてベスト盤のラストにはインディーズ時代の「ナロウカーヴ」も新録で収められています。これは当時のことを振り返りながら演奏した感じですか?
そうですね、今回のベストはカタログ的に、初めてこれでスネオを聴くっていう人が聴いても非常にわかりいいものになってると思うんですけど、「ナロウカーヴ」はこれまで応援してくれた、聴いてくれた人たちに対して新録で入れようと思った1曲です。このアルバムは変に意味を出したくないんで、曲間も全部4秒なんですね。だからそういう意味ではアルバム的に聴かそうという気持ちは全然なくて、ほんとに1つのスネオヘアーのカタログっていうところで聴いてもらえばなと思います。
──最後に、スネオヘアーとしてこの10年でやれたこと、そしてこれからやりたいことを教えていただきたいなと思うんですけど。
やれたことは……個人的な話で申し訳ないんですけど、自分自身がすごい変われたなっていうのはありますね。人とやりとりができる人になりました。いろんな捉え方ができるようになったし。まあ、変わらないところはやっぱりいい曲を生み出してみたいってことですね。これからもたぶんそうです。
──今後も楽しみにしています。ありがとうございました。
ありがとうございました!
DISC 1
- アイボリー
- 訳も知らないで
- Over the River
- 現在位置 ~You are here~
- 自問自答
- ウグイス (album mix version)
- セイコウトウテイ
- ピント
- スピード
- 冬の翼
- ヒコウ
- ストライク
- 会話
- フォーク
DISC 2
- ワルツ
- 悲しみロックフェスティバル (album version)
- フューチャー
- headphone music
- スプリット
- ターミナル
- やさしいうた
- スカート
- 太陽
- 気まぐれな季節のせいで
- 言いたいことはいつも
- 共犯者
- バースデー
- スターマイン
- ロデオ
- ナロウカーヴ
DISC 3 (初回盤のみ)
- JET
- 打ち上げ花火
- The end of despair
- 空も忙しい
- ランドマーク
- happy end (feat. azumi)
- NO.1
- ちっぽけな感傷
スネオヘアー
1971年新潟生まれのシンガーソングライター、渡辺健二によるソロプロジェクト。1999年にカフェオレーベルからアルバム「SUN!NEO!AIR!」をリリースし、2002年5月にシングル「アイボリー」でメジャーデビュー。その後多くのヒットチューンを含むシングル、アルバムを多数リリースしている。その他、YUKI、新垣結衣、ザ・コレクターズへの楽曲提供や、U.N.O.BANDのプロデュースなどでも幅広く活躍。2009年9月には、10周年記念ベストアルバム「ベスト」をリリース。