ナタリー PowerPush - スネオヘアー
ベストアルバム発売記念 誕生10周年を振り返る
振り返ればブレイクポイントだったと思います(笑)
──2003年になると、2ndアルバム「a watercolor」をリリースして、「ウグイス」や「セイコウトウテイ」といった、ライブでもハイライトになるような楽曲が次々と生まれてるんですけど、この時期は結構忙しかったんじゃないですか?
デビューのときとか、この時期あたりがひょっとしたら一番忙しかったかもわからないですね。わりと最近はまとまった曲作りの期間を設けてもらってるんですけど、当時はあまりもらった記憶がなくて。一応期日みたいなのがあって、「いつまでに聴かせてくれ」みたいなのがあって……ある程度は並行してやってたような気はするんですけどね。毎回毎回、「あれ? 前のときってどうやって作ったっけ?」って感じになっちゃうんですよね。ほんとに毎回「ああ、できるかな?」みたいな感じで「あ、またできた、もうちょっとやれそうだ」っていう。
──それはけっこうシリアスなものだったんですか。
シングルが持ってる意味合いっていうか、役割を果たす曲みたいなことを考えると、やっぱりスタッフとか周りのチームが盛り上がれる曲を上げたいなって思ってたんで。
──うんうん、この「ウグイス」とか「セイコウトウテイ」のあたりっていうのはどうですか? ご自身の中では。
振り返ればブレイクポイントだったと思います(笑)。
──振り返ればって(笑)。ライブでのお客さんとの向き合い方も徐々にまた変わっていく時期だったんじゃないかなと思うんですけど。
そうですね。変な義務感とかしょうもないしゃべりとか、まあでもその実、音楽はわりとまともなことやってるっていうか。そのへんの認知がされてきたっていうか、そういう時期だと思います。
──2003年は「東京ビバーク」もリリースされてます。インディーズ時代の「冬の翼」も収録されていて、一度振り返る作業をされてると思うんですけど、それはどういうきっかけだったんですか?
「a watercolor」ってすごくポップないいアルバムができたなと思って。その一連の流れでスネッパだったり、スネオヘアーっていうビジュアル的な映り方として……何て言うんですかね、芸能的な……いつも「ツルツルしてる」って言い方するんですけど、なんかキラキラしてるっていうか。で、「1回これ戻しとかないとな」って。「もっと内面的なものをやりたい」って言って。「東京ビバーク」はそういうアルバムでしたね。
──でも、すごくいいポイントになりましたよね。また改めて「スネオヘアーってこうなんだよ」っていうのを、ちゃんと芯の部分で届けられたというか。ご自身の中でも、「このままじゃいけない」っていう危機感があったんだろうなって思うんですけど。
そうですね、この時期になるとやっぱりそういう気持ちはありますね。自分が客観的にスネオヘアーっていうのをどうプロデュースしていくか、どう見せたいかだったり、そんなにうまくはできなかったですけど(笑)、でもその都度その都度やっぱり考えてましたね。
「フォーク」はすごくプライベートなアルバム
──で、2004年。「東京ビバーク」の後だということも大いに影響してると思うんですけど、3rdアルバム「フォーク」は、けっこう心の底にある吐き出したいものとか、吐き出さなきゃいけないものを全部出していくような、そういう時期だったように思うんですが。
まったくそうですね。「フォーク」は自分にとってすごくプライベートなアルバムだと思っていて。ジャケットのアートワークも含めて、一番好きなアルバムなんですけど。でも個人的にはすごくダメな時期だったんです。すごい落ちてて。誰かに何かを伝えていくとかって気持ちよりは、ただ自分の中にあるものを出したかった。だから個人的なアルバムになったけど、いいのができたなって思ったんですよ。でもこれはなんかあんまり売れなくて。それがすごくショックだったのは覚えてますね。
──この時期、取材していてよく覚えているのが、小さい頃によく食卓でご両親がケンカしてるのを見てて嫌だったというお話をされていましたよね。
してましたね……プライベートでの、個人として向き合うところでは家族とかってやっぱり出てきますし。音楽的にも「なんで伝わっていかねえんだろうな?」「なんであんなのがワーキャー言われて、この心の、魂の叫びが届かないんだろう?」みたいな気持ちもありました。それは「フォーク」という曲でも歌ってるんですけど、そのコミュニケーションの部分の「ありゃりゃ、おかしいな?」っていうところを切り取った感じで。矛盾する2つの裏腹な気持ちを歌ったんですけど、「すんなりもっとわかりあってもいいじゃない」っていう気持ちもあるし、明らかにこれが正しいだろうっていう方向に100人が100人、そっちに偏る怖さみたいなのもあるし。
──なるほど。でも、今回のベストのDISC1が「フォーク」の時期までで終わってるのはすごく象徴的な感じがするんですよね。1枚目は個性を打ち出していくような時代、そしてDISC2になるとより普遍的に、よりじっくり自分の音楽と向き合っていく感じがしますね。
そうですね。ここまでは葛藤が強かったですね。あとはやりたいことがいろいろあって、それができない自分に対するもどかしさみたいなところもありました。
人とのつながりでできた作品
──というわけで、アルバム「フォーク」のセールスが思うほどではなかったという気持ちを引きずりながら2005年に突入するわけなんですけど。でも「ワルツ」という今までの幅を広げるような華やかで温かい楽曲が生まれましたね。
まあ、「ビバーク」から「フォーク」ってアルバムで内面を吐き出せて、自分の中で1つ区切りができたんです。で、そんな中「ワルツ」は、より人とつながることをやりたいということでプロデュースもしてもらい、バンドが持ってるグルーヴ感みたいなのが欲しいなと思ってスタジオでジャムりながらアレンジを決めていったりもして。そこでもまあ、そんなに人好きじゃないんで(苦笑)、バンドを組んだりはできないんですけど、そのプロデューサーにメンバーもエンジニアも決めてもらって。そういうつながりでできたアルバムですね、この作品は。
──そして2006年の「headphone music」や「スプリット」といったシングル曲は、もう明らかにデビュー当時の精神性とは違ってきていて。大人の魅力が楽曲の中に深みとして加わってる感じもするんですけど。
作家的に「もっともっと成長したい」みたいな気持ちも強いですし。シンプルで、わかりやすい日本語の鼻歌で歌えるみたいな歌というか。音を足すんじゃなくて、音をどんどん引いていって立体的にしたいなというところがあったんです。それに自分たちが音楽を楽しんでる、その延長がお客さんに伝わっていけばいいなっていう非常にいい状態ですね。
──あと、フェスとかでもすごく盛り上がる状況が作れていて。
そうですね。お客さんとのやりとりも、もう十分楽しめてる時期ですね。
──MCでもドカンドカン沸くようになってきて。
曲やると下がるみたいな。
──そんなことはないです(笑)。
「歌わないでしゃべれ!」みたいなね(笑)。でもお客さんも安心して見てられるような状況になってきたんじゃないですかね。
DISC 1
- アイボリー
- 訳も知らないで
- Over the River
- 現在位置 ~You are here~
- 自問自答
- ウグイス (album mix version)
- セイコウトウテイ
- ピント
- スピード
- 冬の翼
- ヒコウ
- ストライク
- 会話
- フォーク
DISC 2
- ワルツ
- 悲しみロックフェスティバル (album version)
- フューチャー
- headphone music
- スプリット
- ターミナル
- やさしいうた
- スカート
- 太陽
- 気まぐれな季節のせいで
- 言いたいことはいつも
- 共犯者
- バースデー
- スターマイン
- ロデオ
- ナロウカーヴ
DISC 3 (初回盤のみ)
- JET
- 打ち上げ花火
- The end of despair
- 空も忙しい
- ランドマーク
- happy end (feat. azumi)
- NO.1
- ちっぽけな感傷
スネオヘアー
1971年新潟生まれのシンガーソングライター、渡辺健二によるソロプロジェクト。1999年にカフェオレーベルからアルバム「SUN!NEO!AIR!」をリリースし、2002年5月にシングル「アイボリー」でメジャーデビュー。その後多くのヒットチューンを含むシングル、アルバムを多数リリースしている。その他、YUKI、新垣結衣、ザ・コレクターズへの楽曲提供や、U.N.O.BANDのプロデュースなどでも幅広く活躍。2009年9月には、10周年記念ベストアルバム「ベスト」をリリース。