sumika「Starting Over」インタビュー|喜びも悲しみもすべて引き連れて結成10周年のその先へ

sumikaがニューシングル「Starting Over」を6月7日にリリースした。

sumikaは結成10周年ツアー終了後、2月にメンバー黒田隼之介(G, Cho)の急逝という想像だにしない出来事に直面したが、「隼ちゃんからもらったもの、過ごした時間、全ての思い出。全部持って、前に進んでいきたいと思いました」とバンド活動の継続を決意。5月14日には神奈川・横浜スタジアムで結成10周年ライブ「sumika 10th Anniversary Live『Ten to Ten to 10』」を開催し、約3万3000人の前で約4時間にわたって熱演を繰り広げた。横浜スタジアムでも披露された新曲「Starting Over」は、テレビアニメ「MIX MEISEI STORY ~二度目の夏、空の向こうへ~」のオープニングテーマ。喜び、悲しみ、苦しみなどをすべて引き連れて、未来に向かって進んでいく決意を歌った高揚感あふれる楽曲だ。

音楽ナタリーではsumikaにインタビューを行い、彼らにとって横浜スタジアム公演がどのようなものであったか、そして「Starting Over」を機に始まる新たな活動について話を聞いた。

取材・文 / 森朋之撮影 / 梁瀬玉実

「ここに帰ってきてくれ」というMCは、お客さんのためでもあるし、僕たち自身のためでもあった

──まずは5月14日に神奈川・横浜スタジアムで行われた結成10周年ライブ「sumika 10th Anniversary Live『Ten to Ten to 10』」について話を聞かせてください。本当に素晴らしいライブでしたが、皆さんはどう捉えていますか?(参照:sumikaが雨降る横浜スタジアムで4時間熱演、空の向こうまで届けた3万3000人の“伝言歌”

片岡健太(Vo, G) まだライブのモードが抜けてないというか、あのときのアドレナリンが出続けている感じですね。なんかボーッとしてます(笑)。すごい1日だったなと思うし、僕個人としては……ライブに順位をつけるのは難しいですが、「あれを超えるライブをやるのは難しいだろうな」と確実に言い切れるライブでした。

荒井智之(Dr, Cho) すごく楽しかったですね。今までやってきたライブとは違って、エンタテインメント性もあって。ステージの上で演奏するだけではなくて、センターステージに移動したり、ハマスタの規模だからこそできたこともたくさんありました。

sumika

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──スタジアムライブでありながら、近さを感じる場面も多かったです。オーディエンスの表情もよく見えたのでは?

荒井 そうですね。雨が降っていたし、条件としてはつらいといいますか、始まる前もライブ中も「みんな大丈夫かな?」と心配にはなっていたんですよ。でも、お客さんの表情や声、レスポンスを含めて、すごく楽しんでくれているのが肌で感じられて。それがとてもうれしかったですね。

小川貴之(Key, Cho) 「すごかった」「いいライブだったね」という感想をたくさんもらったし、今までのライブで一番多くの人と感情を共有できた実感がありました。お客さんはもちろん、スタッフやチームの皆さん、友人、家族を含めて、僕たちに関わってくれている人たち全員の思いが集まって、本当にいろんなものが詰まっているライブだったと思います。サポートのミュージャンの人たちとも、曲と曲のつなぎ方とか、アレンジもいろいろ考えて。スタジアムだからこそ表現できるものを発表できる場でもあったし、新しいチャレンジを通して見つけられたものもあったんですよ。それは間違いなく次につながるだろうし、素敵な節目でもあり、1つのステップでもあったんじゃないかなと。

小川貴之(Key, Cho)

小川貴之(Key, Cho)

──“次につながる”と思えたことはすごく大きいですよね。

片岡 そうですね。例えば冒険モノのマンガとかで、伝説の剣みたいなものがあるとするじゃないですか。今年僕らに起きたことは、誰がどう見ても「剣が折れた」という瞬間だったと思うんです。みんなが「これはもう厳しいだろうな」と感じる状況だったと思うんですけど、折れた箇所から光が出てきて、光の剣になったというか。それが5月14日の横浜スタジアムだったんじゃないかなって。ポイントはやっぱり“人”だと思います。ゲストミュージシャン、スタッフやチーム、もちろんリスナーのみんなも含めて、全員で合奏している感覚があって、そうやって何かを作っていくことの楽しさを改めて感じたし、「もしかしたら、これこそが本質かもしれないな」と思えたんですよね。めちゃくちゃつらい状況ではありましたけど、ネガティブなことばかりではないと実感できたのはすごく大きかったです。

──sumikaは3人だけでやっているんじゃない、と。

片岡 はい。曲がリリースされたら、それは自分たちだけのものではなくて。受け取ってくれた人が色を塗り直したり、形を変えたりしてもいいものなんじゃないかなと。それぞれに違う聴き方、感じ方をしていて、「自分はこう思うんだよね」というものをぶつけ合う。その違いも美しいと思うんです。それぞれの違いを共有し、受容することはめちゃくちゃ素晴らしいことだなって。特にハマスタのライブは、過去最高の人数のスタッフが関わってくれて。いいライブにしたいという思いは一緒だけど、「sumikaをこう見せたい」「こういうライブを作りたい」というアプローチは全員違うんですよ。準備の段階でいろんな議論があったし、当然、ぶつかることもあって。メンバーの間でも価値観が違ったりしますからね。大人になると、そういうことはめんどくさいし、避けがちじゃないですか。

片岡健太(Vo, G)

片岡健太(Vo, G)

──なるべくぶつからないように気を配ったり。

片岡 そうそう。でも、今年の僕らはまったく余裕がなくて、だからこそぶつかり合うことも多くて。それが楽しかったんですよね。気持ちよくぶつかり合えたというのかな。それはすごいことだなと思ってます。

──ライブのMCでは、それぞれの思いをはっきり言葉にしていました。荒井さんの「悲しいことがあったときは、俺たちのことを思い出してくれ。そして、ここに帰ってきてくれ」という言葉も印象的でしたが、あれは普段から思っていることなんですか?

荒井 普段から思っていることでもあるし、ここ数カ月でより強く感じたことでもありますね。あのときも言いましたけど、僕たちはすごく幸せな時間もあったし、すごく悲しい時間を味わって。それでも音楽をやりたい、バンドをやりたい、sumikaをやりたいと思って、あの場所にいたんですよね。集まってくれた人たちが楽しそうな顔をしてくれていることが本当にうれしかったし、10年歩いてきた確かな足跡、僕たちがやってきたことの素晴らしい答えがあったと思っています。

小川 そうだね。

荒井 僕たちだけじゃなくて、来てくれた方にとってもつらい時間があったと思うんですよ。でも僕たちは、悲しいこともあったけれど、これからも楽しいことを一緒に共有したいと思った。「帰ってきてくれ」というMCは、お客さんのためでもあるし、僕たち自身のためでもあるんですよね。そこで一緒に共有できる感情があるということが、僕たちにとってはすごく励みになるし、救いにもなると思ったので。

荒井智之(Dr, Cho)

荒井智之(Dr, Cho)

スタジアムでみんなで歌える、ホームランみたいな曲を作りたかった

──6月7日にはニューシングル「Starting Over」がリリースされます。制作したのはいつ頃だったんでしょうか?

片岡 曲を作り始めたのがたぶん去年の10月、11月頃で、レコーディングしたのは年明けの1月くらいですね。「MIX」のオープニングテーマのお話をいただいて、書き下ろしという形でゼロから作り始めました。アニメサイドからリファレンスみたいなものは特にもらっていなくて、「とにかくsumikaにお願いしたいです」と言っていただいて。自由に作っていいとなるとプレッシャーを感じるというか、そういうときはだいたい悩むんですよね(笑)。僕らは「MIX」第1期のオープニングテーマとして「イコール」(2019年6月発売の3rdシングル曲)を提供させてもらったんですけど、今回はどうしようかなと思って。同じようなものを作っても超えられないから、違ったアプローチでやろうと思ったんです。まずは自分たちと「MIX」の共通項のようなもの、今俺たちが歌いたいこと、歌うべきことってなんだろうなと考えたんですけど、ちょうどバンドが11年目に入ったところだったんです。10周年を迎えて、「終わらせる」というテーマを掲げて「For.」というアルバムを作って。1回ピリオドを打ったからこそ次に進める、その最初の1歩目で「MIX」と再会した。そこですごくリンクして、「『Starting Over』だな」というところに着地したんです。曲調よりも先にテーマがあったというか、「Starting Over」というワードから作った曲ですね。

──「ここからまた始めるんだ」という意思ですね。

片岡 そうですね。お話をいただいたタイミングで、ハマスタのライブも決まっていて。野球をモチーフにしたアニメ作品に関われることにも縁を感じていたし、あの会場に集まって、みんなで歌えるホームランみたいな曲を作りたいという気持ちもありました。