sumika|唯一無二の僕らの“MUSIC”

やっとこの時が来た!

──「わすれもの」では、ひさびさに小川さんがリードボーカルを務めています。どういうきっかけがあったんですか?

小川貴之(Key, Cho)

小川 僕はいつも思いついたことを携帯に残してるんですけど、そこに「俺は歌いたいんだ」という、自撮りの動画が残っていたんですね。僕は「鍵盤は楽曲をよくするためにいる存在だ」と、ずっとそういう考え方をしてきたんですけど、もうちょっと自分が前に出てもいいんじゃないか?と考えるようになって……そのうえで「1回歌ってみたら何か変わるかもしれない」ということで、メンバーに相談したのがきっかけです。しかも自分が作曲したものじゃなくて、作ってもらったものを歌いたかったんです。みんなも「おがりんのボーカル曲を絶対入れるべきだ」と言ってくれたし、本当に幸せな状態で臨めました。

──片岡さんはどのような気持ちで、小川さんの思いを受け止めたんですか?

片岡 小川くんは前に「enn」という曲でメインボーカルをやったことがあったし、そもそも彼の歌声が好きでメンバーに誘ったところもあって。小川くんの声はリスペクトしている“楽器”だから、それは前に出すべきだとずっと思っていたんです。ただ、sumikaというバンドとして、僕のボーカルのイメージが付いてしまっているし、タイアップの話をいただいたときも、歌うのはいつも必然的に僕に決まっていて。でも、アルバムの中でなら新しい武器が出せる。この数年間ライブをやってきて、おがりんの歌も変わってきているし、「あの武器をまた新しい形で出せる」と思ったときに、純粋にワクワクしましたね。「やっとこの時が来た!」と思って、すごくうれしかったです。

──しかも片岡さんが「歌ってくれ」とお願いしたわけじゃなくて、小川さんが自分から言い出したことも大きいですよね。

片岡 そうそう。おがりんのボーカルも、荒井くんの作曲も、欲求があるのは素晴らしいことだと思うんです。「これがしたい」というものをメンバー内で提案し合える関係性が、もともとあったとは思うんですけど、2020年を経て、よりそういう空気になったと思いますね。2020年をみんなで乗り越えたことが、バンドにとって自信になっているからこそ、こうして言い合えるんだろうなと思います。

──「歌いたい」というのは、小川さんの中でどういう衝動だったんだと思いますか?

小川 なんでしょうね? でも本当に、何を投げてもメンバーが全部受け止めてくれるだろうなという信頼関係は、間違いなくあったと思います。ここで自分の気持ちを打ち明けても、sumikaという家は崩れないという安心感が、より高まったのかもしれないですね。2020年を生きてきて、確信めいたものがあったのかもしれない。

バンドの役に立ったらいいな

──「わすれもの」の作曲は黒田さんが手がけています。さわやかなピアノポップが、小川さんの声にとても合っていますね。

黒田 「わすれもの」は、おがりんが歌ってくれることが決まってから作り始めました。お風呂の中で、おがりんが歌っている姿を想像して、すぐに書けましたね。おがりんにお風呂を覗かれてるような感覚でした(笑)。

小川 それはもう被害妄想(笑)。

黒田 とにかく、おがりんの歌う声が聞こえてきたので、お風呂の中でガッツポーズしました。稀にそういうこと、あるんですよ。片岡さんに歌ってもらう曲も、片岡さんの声で聞こえてきたもので作ることがあるんですけど、そういうときは「よし行けるぞ」という気持ちになります。

──今回黒田さんが作曲した楽曲は、「わすれもの」のようなピアノポップから「白昼夢」のようにヘビーなロック、「アルル」のようにノスタルジックなギターポップまで、曲調が幅広いですよね。

黒田隼之介(G, Cho)

黒田 個人的な話で言うと、実は作曲というものに対する野心がそんなになくて。「バンドの役に立ったらいいな」程度のもので、困ったときに「こういうのもあります」ぐらいのつもりで取り組み始めたんですよね。それは今も変わらず、「役に立ったらいいな」と思って作っています。

──「白昼夢」みたいなダークで激しい曲は、sumikaの中ではけっこう珍しいですよね。

黒田 もしかしたら反動みたいなものはあるかもしれないです。例えばタイアップ曲をたくさんやらせていただいて、ひさしぶりにノンタイアップの曲を作るときに、「歪みのツマミを上げてみようか」とか。「白昼夢」は、やっててすごく気持ちよかったです。ボーカル泣かせですけど。

片岡 これはね、キーが高い! たぶん人生で一番高い声を出しました。大変でしたけど、新しい可能性を開けたと思います。

黒田 普通はトップを決めてから作るんですけど、もう、ぶっちぎりまくっちゃって。まさか採用されるとは思ってなかったんですよ(笑)。

父との記憶から生まれた「Happy Birthday」

──アルバムの1曲目には、片岡さんが作詞作曲した「Lamp」が収録されています。昨年行う予定だったアリーナツアーのタイトルが「Daily's Lamp」でしたし(ツアーは中止となり、2月にオンラインライブとして行われた)、「Lamp」というのはこの頃のsumikaにとって1つのキーワードになっていると思うんですが、どのようなイメージで作った曲ですか?

片岡 「Lamp」は、2021年に新しくアルバムを出すのであれば、こういう曲で幕開けをしたいなというイメージで作った曲です。音楽的にはアイリッシュ、ケルトの要素が入っていて、それは自分の血に合っているというか、自分の中からすごく自然に出てくるものなんですよ。こういう曲は、無理せずナチュラルに、聴いてくださる方々の目線になって作ることができる。sumikaはリスナーの方々と同じ目線で曲を作ることを大切にしていて、自分たちでもそこがすごくいいところだと思っているんです。みんなで目線をそろえて一緒に歩いていきやすいのは、この歌詞、このメロディ、このテンポ感、このサウンドなのかなと思って作った曲ですね。

──小川さんが作曲、片岡さんが作詞を手がけた「Happy Birthday」は、バックがピアノとアコースティックギターのみのバラード曲です。歌も息づかいが聞こえるほど生々しくて、とても素敵ですね。

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片岡 これは3人で一緒に録っています。普段はドラムやストリングスを録ったりする、スタジオの一番大きい部屋に僕がいて、グランドピアノの部屋におがりんがいて、もう1つの部屋に隼ちゃんがいて。クリックも使わずに一緒に録りました。あの録り方、初めてだったよね?

小川 初めてだった。

片岡 それがすごく面白かったよね。曲が生まれたときのストーリーとしては……それはおがりんから話してもらったほうがいいかな。

小川 個人的に、すごく心に残っている父親との記憶があって。幼い頃、僕の誕生日に父親がアコースティックギターを弾いて歌ってくれたんですよ。たぶん父の自作の曲だったと思うんですけど、それを母親に抱っこされながら聴いたのを覚えていて。思い出すたびに泣いてしまうような、心とリンクしているような曲で……その“楽曲と心の距離感”がすごくいいなと思ったんですよね。そんなふうに変に難しくない、コンパクトな、誰かが誰かのために歌う曲を作りたいと思ったのがきっかけでした。

片岡 そういう話をしてくれたので、難しい言葉を使わず、曲の長さも短く、日常に生きてくれる曲になってほしいなという気持ちで、僕は歌詞を書きました。あと、ライブで歌ったら、誰かしらその日が誕生日の人がいると思うので、ずっと祝い続けられるだろうなって(笑)。誰かが「この曲は私のためにあったんだ」と思う日が、ライブをやるたびに増えていけば、これは最高だぞと。

小川 祝われて嫌な思いをする人はいないだろうしね。

片岡 今までsumikaにそういう曲がなかったので、「見つけた!」と思いました(笑)。

「AMUSIC」の3つの意味

──こうして話を聞いていると、2020年のライブができない状況をはさんで、むしろリスナーとのつながりを求める気持ちがさらに強くなった……そんな歌ばかりだなという気がしますね。そしてアルバムタイトルが「AMUSIC」ということで。読み方は“アミュージック”でいいですか?

片岡 はい。これは「AMUSIA」「AMUSEMENT」「A MUSIC」を合わせた造語で、3つの意味があるんです。まず2020年に世界は大混乱に陥って、僕たちも活動ができなくなって、音楽を失うことで、喜怒哀楽が抜け落ちてしまった。「AMUSIA」には「失音楽」という意味があって、そのときに“失った音楽”の時間を感じてしまったことを指しています。そして、そこから日常に戻ってくる中で、やっぱりメンバーがまず音楽を楽しむことがすごく大事だと思ったんですよね。音楽は誰かにやらされてるわけではなく、やりたくてやっているものなので、ここで改めて原点回帰しようという思いがあって。去年やった「Dress farm 2020」も「Little Crown 2020」も、2020年に初めてやったことではなくて、以前にやったものをアップデートしたものなんです。それを改めて楽しんでやることによって、音楽は自分たちの「AMUSEMENT」=娯楽であって、そもそもバンド活動は楽しいものだよねということを自覚できた。そしてもう1つの意味は、そうやってできあがったものが「A MUSIC」=1つの音楽である、ということ。“MUSIC”は“SONG”と違って数えられるものではないですけど、僕らのMUSICが唯一の音楽であることは確かだと思うし、sumikaが作っている音楽はsumikaの音楽でしかないから、ちゃんと誇りを持って活動していきたい。それで「AMUSIA」「AMUSEMENT」「A MUSIC」を全部合わせて「AMUSIC」というタイトルにしました。

──素晴らしい。

片岡 完璧なプレゼンだったんじゃない?(笑)

全員 パチパチ(拍手)。

片岡 毎回こういうプレゼン大会をやるんですけど、そういえば今回はなかったよね。みんなでどういうところに向かってアルバムを作るか、目標になる旗を立てるつもりでアルバムを作る前に「AMUSIC」という仮タイトルを決めたんですけど、作っていく中で「やっぱり『AMUSIC』だな」ということになっていったから。今初めてやりました(笑)。

小川 いつも片岡さんが意見を述べて、みんなで拍手をするんですよ。

黒田 今、いつもみたいな感じだった。

──音楽シーンに限らず、まだまだ大変な時期は続きますが、sumikaの「AMUSIC」には音楽で心を豊かにするような力があると思います。

片岡 新曲もたくさん入っているんですが、初回生産限定盤Aには「Little Crown 2020」、初回生産限定盤Bにはアコースティックセットでの「[camp session]」のライブ映像がそれぞれ収録されているので、音だけじゃなくて映像で、僕らがどういうふうに音楽を楽しんでいるかを見せられると思います。全然似ていない2本のライブなので、どっちを入れようかという話もあったんですけど、せっかくだから両方入れました。ライブがない今だからこそ、僕らがどういう表情で演奏しているのかも、見てもらえたらいいなと。

荒井 純粋に音楽を楽しむ気持ちがいつも以上に入っている作品だと思うので、それが伝わったらすごくうれしいですね。

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