sumika|唯一無二の僕らの“MUSIC”

sumikaが3rdフルアルバム「AMUSIC」を3月3日にリリースした。

約2年ぶりとなるアルバムには「イコール」「センス・オブ・ワンダー」「ハイヤーグラウンド」「願い」「絶叫セレナーデ」「本音」といったタイアップ付きのシングルヒット曲に、メンバー全員がそれぞれ書き下ろした新曲を加えた全16曲を収録。「最高傑作ができた」とメンバーも胸を張る、1時間超えの大作となっている。

音楽ナタリーではメンバーにインタビューを行い、それぞれの挑戦が詰まったバラエティ豊かな楽曲について話を聞いた。

取材・文 / 宮本英夫 撮影 / 後藤壮太郎

2020年は決して止まっていた年ではなかった

──前作「Chime」からおよそ2年ぶりのアルバムですね。コロナの影響で制作が押すことはなかったんですか?

片岡健太(Vo, G)

片岡健太(Vo, G) そもそもアルバムを作るタイミングというのが決まっていたわけではなかったので、押し巻きみたいなものはなかったです。「アルバムを出すならこの時期にしよう」と決めたのは、去年の夏過ぎぐらいでしたね。

──意外と最近なんですね。

片岡 わりと最近です。夏を過ぎた頃からアルバムの話をして、新曲は11月の中旬ぐらいから録り始めて。だから、1カ月半で9曲録ったことになるのかな。

黒田隼之介(G, Cho) 「本音」(2021年1月発売の両A面シングル「本音 / Late Show」収録)を入れたら、2カ月で10曲だね。

──それはかなりのハイペースですね。

片岡 ところどころ記憶が抜け落ちています(笑)。でもそれも含めて、スピード感とライブ感のあるアルバムになったなと思います。収録時間は長いですけど。

──1時間超えのアルバムですからね。新曲に加えて「イコール / Traveling」(2019年6月発売の両A面シングル)からのシングルもしっかり入っていて。全員が作曲に参加したこともあって、バラエティ豊かなアルバムになっていると思います。まずは1人ずつ、アルバムが完成した手応えを聞かせてもらえますか?

荒井智之(Dr, Cho) 本当にいいアルバムができたなと思います。昨年コロナ禍でいろいろあった中で、個人的には「アルバムを作る」ということが1つの希望だったし、「これがあるからがんばろう」と支えになっていた部分がありました。無事にここまでたどり着けてうれしいです。

──これまで以上にサウンド豊かなアルバムになっていると思うのですが、演奏している側としてはいかがですか?

荒井 僕もそう思います。2020年は音楽を鳴らせない時間が少なからずあったことで、音楽に対する欲求の原点を確認できたような気がしていて。「やっぱり音楽をやりたいんだな」ということを確認することができたので、そのぶん……という言い方が正しいかはわからないですが、今回のアルバムではサウンド的に振り切れたし、攻め込めたのかなと思ったりします。

──片岡さんはどのようなアルバムができたと思っていますか?

片岡 「最高傑作ができたな」と思います。

──まったく同意しますけれども、それは新しい引き出しを開けたという感覚ですか? それとも、もともと持っていたものを出し切ったという感覚が強いですか?

片岡 「もともと持っていたけど、開けていなかった引き出しを開けた」という感覚が正しいかな。たぶん、引き出しの中でもいろんなことが起こっているんですよね。メンバーの中で進化している部分があったり、引き出しの中の物が増えていたり。閉じているうちはわからないけれど、それぞれが音楽に対して向き合っていたものが、引き出しを開けた瞬間に爆発した感じがすごくあったので。開けるべくして今開けたというタイミングだったし、開けようという気持ちになれたのも、2020年があったからこそだと思っています。

──なるほど。

片岡 コロナ禍でバンドのすべての動きが止まってしまったとき、いろいろ制約もある中で「自分たちは何をしようか?」と考えて……最初に「Dress farm 2020」(今年5月にsumikaが設立した医療従事者とエンタテインメント業界の活動支援のための基金)を設立して、夏にデジタルシングル「絶叫セレナーデ / 唯風と太陽」を出して、秋には初めてのオンラインライブ「Little Crown 2020」を開催して、今までやってないことをやっているという感覚がバンドの中に芽生えていたからこそ、「もっと新しい引き出しを開けていこう」という気持ちになれました。不自由な環境の中から自由を見つけたことが、この「AMUSIC」というアルバムにつながっている。2020年は決して止まっていた年ではなかったということを、アルバムを聴くと改めて思います。

sumika

──黒田さんはいかがですか?

黒田 フルアルバムを作る機会というものは、そうたくさんあるものではないと思っていて。今回が最後かもしれないという気持ちで毎回作っているんですけど、今作もそうでした。悔いの残るものは作りたくないと思いながら、本当にこれ以上は何も出てこないだろうというぐらい、いいものができたなという実感があります。

──このアルバムには黒田さんが作曲した楽曲が5曲もあって、今までで一番多いですよね。もしかして、片岡さんが「書きなさい」とおっしゃったんですか?

片岡 いやいや(笑)。基本的にsumikaはみんな並列で、リーダーがいないバンドなので。なんていうか、スポーツでもそうですけど、コンディションのいい人が点を取るべきだと思うんですよ。そこで今回、隼ちゃん(黒田)の調子がよかったということですね。

黒田 満身創痍でしたけどね(笑)。

片岡 それは隣で見てました(笑)。でも、調子はよかったと思うよ。

──小川さんにとって「AMUSIC」はどんなアルバムになりましたか?

小川貴之(Key, Cho) 本当にいいアルバムができたなと思っていますし、聴いてくださった方の感想を早く聞きたいです。タイアップ曲も多いですが、ノンタイアップで自分たちが作りたいように作った楽曲もアルバムだからこそ入れられました。メンバー全員が生き生きしながら作曲やレコーディングができた気がします。フルアルバムというのはバンドの力が試されると思うし、このアルバムを作り切ったことが、今後のsumikaにとってとても大きなことなんじゃないかなと思います。

──片岡さんにもバンドの力を見せるようなアルバムにしたいという思いはありましたか?

片岡 そうですね。自分たちはライブバンドだと自負していますが、2020年は全然ライブができなくなって……どうやってモチベーションやクオリティを保ち続けていくか、すごく難しい部分があったんですけど、新曲を制作していく中でちゃんとテンションを上げながら、sumikaを次のレベルへ持っていくことができたのは大きなことだと思っています。外に出られない、人に会えない中で、これだけバラエティ豊かなアルバムを作れたのは、メンバーみんなの想像力のおかげだし、いろいろ試行錯誤した成果ですね。

忘れもしない夜

──ここからは新曲を中心に、それぞれの作曲者をフィーチャーして掘り下げていこうと思います。まずは荒井さんが作曲した「Jamaica Dynamite」についてお伺いさせてください。おしゃれでカッコいいフュージョン、AOR風の楽曲になっていますが、この曲はどのように思いついたんですか?

荒井智之(Dr, Cho)

荒井 これは曲作りを始めた最初の段階からあった曲です。とりあえず曲をたくさん作ろうとしていたときにパッと出てきました。

──こういうシティポップ感のある曲って、過去のsumikaにはあんまりなかったですよね。

荒井 そうですね。自分の好きなように作りました。僕が曲を作っていることはメンバーにも言っておらず、曲が貯まったら「実は作ってたんだ」と言おうと思っていて。5、6曲貯まったときに、この曲が一番よくなりそうだったんです。それでしっかりデモを作り上げて、「この曲があれば大丈夫」というものができたので、ほかの曲もまとめてメンバーに送りつけました(笑)。

黒田 あの夜は忘れもしない(笑)。

片岡 うれしいサプライズだったよね。メンバーにとってギフトでした。

黒田 荒井さんが曲を作っていることを全然知らなかったんですよ。荒井さんらしいなと思います。今まで3人で作ってきたデモとは方向性が違う、幅が広がる可能性を持った曲がたくさん送られてきて、「これからバンドが楽しくなるぞ」とワクワクしました。

──パーカッションが効いていたり、サックスのソロがいい味を出していたり。懐かしさ、いなたさ、カッコよさ、演奏の楽しさを前面に出した曲だと思いました。

荒井 sumikaはボーカルや歌詞が武器のバンドですけど、個人的には演奏という部分にもっとスポットライトを当てたいなという思いもあったので。歌の分量と演奏の分量を、等分ぐらいにしたかったんですよ。普段は歌を引き立てるために演奏をどうするかというやりとりがあるんですけど、「この曲はどっちも並び立っているからいいんだよ」という気持ちで作っていました。

──片岡さんが付けた歌詞も、意味があるというよりは音楽的ですよね。なぜジャマイカなのか、特に意味はないといいますか。

片岡 「Jamaica Dynamite」は僕が考えたタイトルではないです(笑)。デモのタイトルだったんですよ。

荒井 この曲で最初に降りてきたのが、「Jamaica Dynamite♪」というフレーズだったんですよ。僕も意味わかんないなと思って、別の言葉を当てはめてみようとしたんですけど、何をはめても気持ちよくない。それを健太が「そこは変えないほうがいいと思う」と汲んでくれて、残してもらいました。

小川 それ以外考えられなかった。

黒田 誰も反対しなかったよね。

片岡 スタッフも含めて、いいバンドだなと思いました(笑)。