音楽ナタリー PowerPush - スキマスイッチ
デビュー10年でたどり着いたセルフタイトル作の真意
スキマスイッチを「壊せ」
──「ゲノム」の歌詞についても聞かせてください。サビのフレーズは“壊せ”という強い言葉から始まりますが……。
常田 「(積み上げたもの)ぶっ壊して」(「全力少年」)以来ですね(笑)。
──あのときとは違う意味の“壊せ”なんでしょうね、きっと。
大橋 違いますね。「ゲノム」を作った今となっては、「全力少年」のときはまだ壊せてなかったんじゃないかって……。
常田 「全力少年」のときは“環境を変えてみないか”という意味合いが大きかったんですよ。でも今回は“キャリア”というか……。
──デビューからの10年間で作り上げてきたものを壊す、ということ?
常田 10年なのか、(結成からの)15年なのか。もっとデカく言うと、自分自身が生きてきたキャリアまで含まれるかもしれないですね。
大橋 10年間、すごく恵まれた環境だったし、ひとまずは音楽をやる場所を自分たちで作れたとも思うんですよ。しかも、10周年でたくさんの人にお祝いしてもらって……そのときに「これをキープすれば、20周年にたどり着けるのかな」って思ってしまったんですね。要領も得てきたし、立ち振る舞い方もわかってきたから、同じことをやっていればある程度は大丈夫じゃないかって。自分がそんなふうに思ったことがすごく嫌だったし、そんな感じで20周年を迎えても、ぜんぜんうれしくないだろうな、と。
──なるほど。
大橋 僕自身、自分をストイックに追い込んでいかないとすぐに甘えてしまうタイプなんですよ。だから作ってきた場所を1回壊して、あえて新しいところからスタートすることが必要なんじゃないかって。壊すっていっても全部なくしてしまうってことではなくて、積み上げてきたパーツ、アイテムは、そのへんに散らばっていてもいいんです。それを拾い集めて、また同じものを作るのか、それとも違うものを作るのか。そういう選択肢を入れたかったんですよね。
──その意思を象徴するのが「ゲノム」なのかもしれないですね。
大橋 スキマスイッチとしては新しいサウンド感だし、新しい世界観の曲だと思うんですよ。それが1曲目にすることで、「あれ? ちょっと変わったかな」という印象を持ってこのアルバムを聴いてほしかったんです。もちろん、アルバムを聴いていけば「いつものスキマスイッチだな」と思ってもらえるような曲もあるんですけど。
──そうですよね。「life×life×life」のThe Beatlesっぽさも、「蝶々ノコナ」のファンクサウンドも“スキマスイッチらしさ”につながってると思うし。
大橋 うん、そうですよね。そういう感じは黙っていても出てくると思っていたので。
──特に意識しなくても“らしさ”は自然に出てくるだろう、と。
大橋 “らしさ”みたいな意識はなかったよね?
常田 うん。インディーズのときと変わらないテンションだったんですよ。何も考えてなくて、「こういう曲をやりたいね」「面白い、やろう!」っていうだけで。「こういう曲が足りない」みたいなことも考えてなかったんですよね、今回は。やってないことを探すのって、ちょっとだけマイナスなイメージになってきたんです。もともと持ってるものなんだから、あえて探さなくてもいいんじゃないかって。それよりも、今スキマスイッチでやりたい曲を作るということですよね。
アルバム6枚目にしてセルフタイトル
──6枚目のアルバムがセルフタイトルというのも、スキマらしいですよね。「え、今?」っていう。
大橋 そうですよね(笑)。いろんなことを想像してくれたらいいなって思うんですけど、僕らとしては、そこまで強い思いを込めてるわけではなくて。10周年の集大成みたいなことでもなくて、このアルバムができあがった経緯を考えると、このタイトルが似合うと思ったんですよね。
常田 ほかのタイトルも考えたんですけど、なかなかしっくりこなかったんですよ。
大橋 作業工程を含めて、今のスキマスイッチが、ちゃんと2人で作ったアルバムですからね。
──今まで以上に“2人で作った”という手応えがある?
大橋 そうですね。いろんな音楽を聴いて、自分の中のライブラリーを増やしてきて。そこで培ってきた音楽観をフルに使って作れたというか。
常田 ここは卓弥が作ったとか、こっちは自分で作ったときか、そういうことも関係なくなってるんですよ。1つの人格としてやってる感じは今まで以上に強いですね。
「僕、ここに住みます」
──もうひとつ、アルバムのジャケットについても聞かせてください。何のストレスもなく、今のスキマスイッチのよさが存分に発揮されたアルバムのジャケットが、なんで“孤島にそびえ立つ城”なんですか?
大橋 なんでですかね?(笑) 僕らが城にしたいと言ったわけではなくて、デザイナーさんが収録曲を聴いて作ってくれたんですよ。ビデオクリップもそうなんですけど、作ってくれる方とのコラボレーションだと思ってるから、パッと見たときに「カッコいい」と思えればそれでいいというか。
常田 確かに面白いジャケットですよね。
──“孤高”みたいなイメージもあると思うんですけどね、このデザイン。
大橋 寂しさは感じてないんですけどね、僕は。
常田 それよりも“潔さ”ですね。「僕、ここに住みます」っていう。
大橋 不便そうだけどね(笑)。
──周りは海ですからね(笑)。でも、スキマスイッチはすごくユニークだと思います。万人に受け入れられるポップスを志向していながら、実は誰もやらないことを追求しているっていう。
大橋 そこを感じ取ってくれるとうれしいんですけどね。クリエイターはみんなそうだと思いますけど、「そんなの誰も気にしないよ」ということにこだわっているので。それに気付いてもらえるのはうれしいけど、説明しちゃうと元も子もないから、何も言わないっていう。これからも、そういう関係が続いていくんだと思います。
常田 うん。
大橋 スキマスイッチって、曲のクレジット(作詞・作曲)は2人の連名なんですよ。今は「あの曲はシンタくんが叩き台を作って……」って振り返ることもできますけど、当時はそれも言いたくなかったんですよね。「どの曲も2人で作りました。あとはそちらの想像にお任せします」って。
常田 今回のアルバムは、どっちがどこを作ったかホントに覚えてないけどね。大事なのはそこじゃないと思うし……。比べてはいけないですけど、The Beatlesみたいな体系を作りたいんですよね。The Beatlesの曲はどんな聴き方もできるじゃないですか。曲自体もいろんな聴き方ができるし、メンバーの生き方に影響される人もいるし、音やエンジニアに興味を持つ人もいて。そういうことをやりたいんですよね、自分たちも。
- ニューアルバム「スキマスイッチ」 / 2014年12月3日発売 / アリオラジャパン
- 初回限定盤 [Blu-spec CD2+DVD] / 3996円 / AUCL-30028~9
- 通常盤 [CD] / 3186円 / AUCL-172
CD収録曲
- ゲノム
- パラボラヴァ
- 僕と傘と日曜日
- life×life×life
- Ah Yeah!!
- 夏のコスモナウト(album ver.)
- 蝶々ノコナ
- 思い出クロール
- 星のうつわ(album ver.)
- SF
初回限定盤DVD収録内容
- Ah Yeah!!(Video Clip)
- パラボラヴァ(Video Clip)
- 星のうつわ(Video Clip)
- Special Interview
- おまけ
- ニューシングル「星のうつわ」 / 2014年12月3日発売 / アリオラジャパン
- 「星のうつわ」初回限定盤
- 初回限定盤 [Blu-spec CD+DVD] / 1944円 / AUCL-30026~7
- アニメ盤 [CD] / 1404円 / AUCL-170
- 通常盤 [CD] / 1296円 / AUCL-171
CD収録曲(共通仕様)
- 星のうつわ
- 快楽のソファー(仮)(2014 ver.)
- ミッドナイト・グッドモーニン!!のテーマ(instrumental)
- スキマスイッチのミッドナイト・グッドモーニン!!
- 星のうつわ(backing track)
初回限定盤DVD収録内容
- スキマスイッチのミッドナイト・グッドモーニン!!THE MOVIE
スキマスイッチ
大橋卓弥、常田真太郎のソングライター2人からなるユニット。2003年7月にシングル「view」でデビューして以降、「奏(かなで)」「全力少年」 などヒット曲を次々と生み出す。2013年7月9日にデビュー満10周年を迎え、同年8月には初のオールタイムベストアルバム「POPMAN'S WORLD~All Time Best 2003-2013~」を発表した。2014年には「Ah Yeah!!」「パラボラヴァ」「星のうつわ」とシングルを立て続けに発表し、12月にはセルフタイトルを冠した約3年ぶりのオリジナルアルバム「スキマスイッチ」をリリース。2015年1月からは全国28カ所32公演の全国ツアーも決定している。