音楽ナタリー PowerPush - スガシカオ
メジャー復帰でつかんだ確信
スガシカオがナタリーに登場するのは「FUNKASTiC」のリリースタイミング以来、実に約4年半ぶり。前事務所から独立し、インディーズでの活動を経て、今年5月にメジャー復帰したスガはどんなことを思いながら音楽と向き合っているか? その答えは配信でリリースされる新曲「モノラルセカイ」にも示されている。ポップで踊れるサウンドと生々しい歌の融合。そこに今のスガシカオが体現するポップミュージックのリアルを見る。インタビューでも率直な言葉で語ってくれた。
取材・文 / 三宅正一(ONBU)
インディーズで学んだことを生かしてメジャーへ
──ナタリーにご登場いただくのが「FUNKASTiC」以来約4年半ぶりということで(参照:スガシカオ「FUNKASTiC」インタビュー)。
え、そんなに前になるんだ! まあ、最近はあまりインタビューとかも受けてないですからね。
──この4年の間にスガさんはインディーズに拠点を移されて、耳のご病気もあったり、いろんな困難や葛藤と対峙しながらも精力的な活動を展開していましたよね。そういう時間を経て、今、再びメジャーのフィールドに戻ってきてどんなことを思ってますか?
どんどん時代は変わっていくんだなって思いますね。インディーズでやってた時期は自分でいろいろやってたからなんとも思ってなかったんだけど、やっぱりメジャーにきたら関わる人も多いし、「俺はこう思ってるからこうしたい」って提案してもなかなかそれ通りにはいかないんですよね。そういう流れに自分が追いついていくことも求められてるなって思う。インディーズのときは曲ができたら次の週に配信するような感じだったんですよ。その鮮度って自分にとってもリスナーにとっても新鮮だったし、そこにすごくやりがいを感じていて。お互いエキサイティングだと思えるというか。
──「Re:you」のタイトル公募とかもそうですよね。
そうそう。ああいう企画もすごく刺激的だったなと思っていて。だけど、メジャーにきてチームが大きくなればそういう鮮度とかスピード感はどうしても落ちてしまうところがある。ただ、それでもエキサイティングな感じは残したいから。「パッケージされた商品」という感じも、できるだけなくしていきたいですね。俺はそれが嫌で1回メジャーから離れたので。パッケージされた商品っていう見え方が目立っちゃうとリスナーとの間に距離が生まれるんですよね。だからこそ、「これはスガシカオが作った曲なんだ」っていうことをちゃんと感じてもらえる作品を提示することにこだわりたい。
──自分の人肌の温度感をいかに下げずに、あるいはスガシカオの音楽という個の色を漂白せずにパッケージできるか。
そうそう。俺が曲を作ってから、デザイナーさんがジャケットを作って、CDを工場でプレスして、1カ月後に手元にきたりするわけじゃないですか。その間に俺が曲を作って歌ってるという熱がどんどん下がっちゃうのが怖い。漂白されてどんどん自分の色が消えていくのが一番嫌だから。インディーズの活動を通してそういうことを学んだので。なるべく生臭いまんま届けられるようにビクターのチームとみんなで考えてるところです。シンガーソングライターとかバンドなんて生々しい感触が命だと思うから。「あいつ、こういうことがあったからこんな曲を書いたんだな」ってダイレクトに感じてもらわなきゃ。
──例えば歌詞の筆致においても、インディーズからメジャーに移ってもそういう生々しさは楽曲に通底してますよね。
うん、そこは意識していて。その生々しさを残しつつメジャーでがんばりたいってすごく思ってます。
ただ好きだから音楽を聴く
──先日、Twitter上で、配信だとなかなかアーティストに対価が還元されないからCDを買ってほしいというような趣旨のつぶやきがありましたが、今回は配信シングルですよね。配信かCDシングルかのジャッジをする上でスガさんの中で明確な線引きってあるんですか?
いや、今回はもうただこの「モノラルセカイ」という1曲をリリースしたかったので。それだったら別にCDを出す必要もないし。そこにちゃんと曲と曲のストーリーがあるならCDで出したほうがいいと思うっていうことですよね。
──そこはシンプルな発想で。
そうそう。
──スガさんは常に若手と呼ばれるようなアーティストの作品をチェックしたり、ライブも観に行ったりしてますよね。
ああ、そうですね。好きなんで(笑)。
──そういうスガさんから見て今の音楽シーンはどう映ってるのかなと思って。
シーンに対してはどんなふうにも見てないですよ。ただ好きだから聴いてるだけで。意識的に新人にアンテナを張ってる感じも全然ないし。友達の大御所のアルバムも並列に聴くし(笑)。
──うん、いろんなアーティストの作品を分け隔てなく聴いてる印象がある。
でも、世間的には俺ってあんまりほかの人の音源とか聴いてるイメージはないんじゃないかな。実際はいろいろ聴いてますけどね。YouTubeでPVを観てカッコいいと思ったらすぐに買いに行くし。新しい音楽との出会いは楽しいので。
今の自分にとってカッコいいことをやりたい
──今回の「モノラルセカイ」のサウンドも同時代性に富んでいて。時代にコミットしながら自らの音楽性を貫くことを意識してないとこういう曲は生まれないと思うんですよね。
うんうん。結果論としては、古い音楽があんまり好きじゃないんですよね。ルーツは大事にするけど、別に誰かのマネをしたいわけじゃないので。今の自分が聴いて「わ! カッコいいな!」と思うことをやりたい。「なんだ、このドラムの音!」とか「何この展開!」って自分でもエキサイトできることをやりたくなっちゃうから。
──リスナーである自分を大事にしているからこそ。
そうそう。リスナーである自分はすごく大切にしてる。だから、ライブもよく行くし。あとは、俺はライブがずっと苦手だったから。ライブがうまい人のステージを観て勉強しなきゃなって思いも最初はあったんですよ。トラウマを克服するための。この前もTHE BACK HORNのライブを観に行ったんですけど。
──どうでした?
学べることがいっぱいあったなあ。ちょっとしたステージアクションとか、どういうことでお客さんが興奮するのかってお客さんの立場にならないとわからないから。お客さんと一緒にフロアでライブを観てるときに「あ、今俺はすげえエキサイトしてるな」ってわかるんですよ。「こういうことか!」って。
──ホントに研究熱心ですよね。
だって、自分がこのままでいいとは思わないから。
──スガさんの同期マシンを取り入れた弾き語りライブもすごく刺激的で(参照:スガシカオ、大人な「HITORI SUGAR」で酔わせた記念日)。あのスタイルはまさに飽くなきチャレンジ精神の賜物だと思うし。
そういうトライアルな気持ちがいかに大事かは、海外でライブするとよくわかるんですよ。あっちの人に日本で完成されたスタイルを見せてもあんまり伝わらないんですよ。それよりも、アーティストが必死になりながら何か新しいところを目指そうとしてる姿勢や音に反応してくれる。それって海外だけじゃなくて、日本のフェスとかでもそうなんだろうなって最近思っていて。大事なのはどんなジャンルのどんな曲をやるかとかじゃなくて、そういう姿勢を鳴らさなきゃいけないんだろうなって。
──それもインディーズに戻った時期があるからこその気付きだろうし。
ホントにそうで。前にメジャーでやってたときはそんなこと全然気付かなかったからね。いかに自分の曲をちゃんと演奏するかとか、そういうことばかり気にしていて。姿勢とか意気込みに関しては意識的じゃなかった。
──生き様とか。
そう、生き様とか。それをステージで伝えることの大切さに気付けてなかった。
──それはおのずとソングライティングにも反映するし。
うん。曲を作ったり歌詞を書いたりするときも生き様みたいなものを反映しなきゃいけないと思ってます。
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- ニューシングル「モノラルセカイ」2014年10月22日発売 / 250円 / SPEEDSTAR RECORDS
- レコチョク
収録曲
- モノラルセカイ
スガシカオ
1997年2月にシングル「ヒットチャートをかけぬけろ」でメジャーデビューを果たした、日本を代表するファンクミュージシャン。1998年1月にリリースされたSMAPのシングル「夜空ノムコウ」で作詞を担当したことで多方面から大きな注目を浴びた。また、1999年7月には杏子、山崎まさよしと共に「福耳」を結成。ソロとはひと味違う魅力を見せる。2011年、長年在籍していたオフィスオーガスタを離れて独立し、自主レーベル「UGM」を設立。シングル「Re:you」「赤い実」、ミニアルバム「ACOUSTIC SOUL」といった作品を配信リリースする。2014年5月に両A面シングル「アストライド / LIFE」をSPEEDSTAR RECORDSより発表してメジャーに復帰。10月22日に「モノラルセカイ」を配信リリースし、11月4日から22日にかけて全国ツアー「Suga Shikao ~Next Round Tour 2014~」を開催する。