須田景凪|「水曜日が消えた」「みんなのうた」提供曲に見つけた 自分の根底にある不変のテーマ

6月5日に映画「水曜日が消えた」の主題歌「Alba」、7月15日にNHK「みんなのうた」への提供曲「Carol」と、2カ月連続でデジタルシングルをリリースした須田景凪。新型コロナウイルス感染拡大の影響から日常生活においてさまざまな変化を強いられる中、須田はこの2曲を制作しながら逆に自らの根底にある不変のテーマを再認識したという。音楽ナタリーでは須田にリモート取材を行い、新曲を制作した経緯を振り返りながら、幼少期からの変化やキャリアスタートから現在まで自身の中に変わらずにあり続けるものについて語ってもらった。

取材・文 / 柴那典

半分新しくて半分懐かしい

──新型コロナウイルスの影響で外出自粛期間がしばらく続いていましたが、その間はどのように過ごしていましたか?

正直、日常がめちゃくちゃ変わったかって言われると、そうでもなかったです。もとからそこまで外に出るタイプでもないので。むしろ打ち合わせやライブがなくなったことによって家にいる時間が増えて、楽曲制作にさらに集中することができましたね。

──須田さんはもともとボカロPとして音楽活動を始めていますし、そういう意味では、外出できないからといってアウトプットに支障が出るタイプのミュージシャンではないかもしれないですね。

そうだと思いますね。影響は受けにくいかと。変化があったとすれば、最近自宅のベランダにベンチを置いたことぐらいですね(笑)。もともとベランダでじーっと考えごとをするのが好きだったんですけど、今までは地べたに座ってて……ベンチを新しく買ってからは快適で、毎朝2時間ぐらいそこで過ごしています。

──なるほど、そんなところに変化が(笑)。須田さんは以前からほかのクリエイターとリモートで共同制作をされていたそうですが。

そうですね。その形式で楽曲を作ったことはありませんでしたが、例えばこれまでボカロP時代から何度もご一緒させてもらっているアボガド6さんとは、いつもリモートで画面を共有しながらミュージックビデオを作っていたので、リモート作業自体には慣れていたと思います。

──ここ数カ月の楽曲制作も、そうやって進めていたんですか?

そうですね。それこそ「Alba」や「Carol」の制作時にはリモートで録って送っていただいたギター、ベース、ピアノなどの音源を僕のスタジオで編集していました。しばらく自分の曲ではそうやって皆さんの宅録素材を使って曲を作る作業をしていなかったので、半分新しくて半分懐かしいような感覚があって楽しかったですね。

自分なりの“当たり前”をいかに愛するか

──ではさっそく作品の話を聞かせてください。まず「Alba」は中村倫也さん主演の映画「水曜日が消えた」の主題歌として書き下ろされた曲ですが、最初にお話をもらったときはどんなことを思いましたか?

もちろんうれしかったです。でもお話をいただいたときは映画を観る前の段階だったので、どんな曲を書いたらいいのかまったく想像できなかったんです。“主人公の人格が曜日ごとに変わる”という物語の設定だけでは、イメージを膨らませるのが難しかった。でもいざ映画を観させていただいたら、自分の中ですごく腑に落ちる部分があって、そこから主題歌では「主人公にとっての“当たり前の日常”を描きたい」と思いました。サウンドに関しては、吉野耕平監督と打ち合わせをしたときに「洋楽っぽいトラックで」というリクエストをいただいたので、そういう要素を少しずつ混ぜていきました。

──腑に落ちた部分というのは?

映画の主人公は曜日ごとに入れ替わる7つの人格を持っているんですけど、その中でもメインキャラクターとして描かれている“火曜日の僕”にとっては、寝て起きたらまた火曜日の繰り返しで、普通の人とは毎日を生きるスピード感が違うんですね。客観的に見たら突飛な話だし、ほかの人からしたらファンタジーではあるんですけど、それが彼の中ではごく当たり前の日常なんですよ。これは僕にとっても同じことが言えると思っていて、今こうやってインタビューでしゃべっている自分と親としゃべっている自分、友達としゃべっている自分とは、人格とまでは言わないですけど自分の中のスイッチを切り替えているところがある。でもそれは僕にとっては当たり前のことだから、そういう意味でこの物語は僕らの日常にリンクする部分があるなと思って。

──そこから“当たり前の日常”が曲のモチーフになったわけですね。僕はこの曲の中に「どんな“当たり前”があってもいいんだよ」という優しさや包容力のようなものを感じたんですが、須田さんとしては多様な日常のあり方を肯定するイメージを持たれていたのでしょうか?

改めて考えてみると、音楽活動を始めた2013年から僕はずっと“当たり前の日常”を歌い続けてきたと思うんです。自分の根底にある「自分なりの“当たり前”をいかに愛するか」というテーマは変わっていない。そして昔の自分だったら悲観的に見ていたかもしれない日常に対しては、だんだん「もう付き合っていくしかない」と自然に受け入れられるようになったというか。この映画を観て、改めてそのことを思いました。

──では「Alba」は映画の主題歌として書いた曲ではあるけれども、須田さんがずっと追求してきたテーマやメッセージに別の角度からアプローチできた曲でもあると。

そうかもしれないですね。

──であれば、映画を観ていろいろなインスピレーションが湧いたのではないでしょうか?

そうですね。それに映画では主人公にとっての“当たり前”が描かれているんですが、それをいろいろな角度から鮮やかに彩る演出がたくさんちりばめられていて、楽曲制作にも通じる部分があるなと刺激を受けました。例えば新しい曲を作るときには、こういう状況下だからレコーディングをオンラインでやってみようとか、いろんなアプローチの方法を考えるようになったと思います。

物語とリンクする映像

──「Alba」のMVのディレクションは、映画を監督した吉野耕平さんが担当されています。吉野さんとはどのようにMVを制作していったのでしょうか?

まず吉野監督から絵コンテをいただいて、そこに自分のリクエストを盛り込んでいただきました。そのあと監督からほとんど完成した状態で映像をいただいたんですが、すごくカッコよくてうれしかったです。それにこのMVは解釈の幅が広い作品だと思っていて。もちろんこのMVだけでも楽しめるし、物語とリンクする映像として映画と一緒に楽しむこともできる。映画を監督されたご本人ということもあり、誰よりもそういった部分を理解してくださっていると思ったので、MVのディレクションも安心してお任せすることができました。

──MVは全編CGで、アニメーションとも実写ともまた違う不思議なテイストの作品になりましたね。

自分のMVとしては初めてのアプローチだったので、まずは純粋に面白かったです。吉野監督はもともとCGクリエイターとして素晴らしい作品をたくさん作られてきた方なので、自分の楽曲をCGで表現したらこういう景色になるんだなと驚きました。

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