須田景凪|「水曜日が消えた」「みんなのうた」提供曲に見つけた 自分の根底にある不変のテーマ

感情の呼び方

──次に「Carol」についても聞かせてください。これはNHK「みんなのうた」に書き下ろされた曲ですが、番組からオファーを受けたときはどう思われましたか?

「マジか」というのが純粋な感想です。「みんなのうた」から自分にお話が来るんだ?って。しかも番組からは「こういう曲にしてください」とか「こういう歌詞にしてください」というリクエストも特になかった。だからどういう曲にしようか時間をかけて考えましたね。

──物語に沿って主題歌を作るようなタイアップものとは違って、何をやってもいいわけですからね。言ってみれば、大きな真っ白いキャンパスを手渡されたようなものですね。

そうですね、何を描いてもいいというか。だからこそ今の自分に何が一番ふさわしいのか、何が描けるのかをすごく考えました。それで自分のことを振り返ってみたときに、幼少期に観ていた「みんなのうた」の印象が大きくて、そこからいろいろ思い出すことがあったんです。

──思い出すこと?

幼少期に自分の感情をうまく言語化できないもどかしさを感じることがあったんですが、それがつらくて悲しかったという記憶が大きくて。そのことをいまだに強く覚えているんです。でも、誰も自分の感情の呼び方なんてわからないじゃないですか。だから僕は、それは間違いではないし、そういう部分も含めて美しいものなんだということを提示したい。今の自分にはそれしかできないと思って曲のテーマにしました。

──自分の感情をうまく言語化できないというのは、具体的にはどんな体験だったんでしょうか?

いろいろありますが、例えば小学校1年生ぐらいのときに、1人で学校で遊んでいたことがあって。急に現れた小学4、5年生ぐらいの集団が僕の靴の片方を奪って池に捨てたんです。別に自分は悪いことをしていないし、でも彼らに対して怒るべきなのか悲しむべきなのかわからない。その人たちがどこかに行ってしまったあと、自分は池から拾ったびしゃびしゃの靴を履いて帰ることしかできなくて。「なんで自分がこんな思いをしなければならないんだ」と思って泣いていたんですけど、母に「どうしたの?」と聞かれても、なんと答えていいかわからなかったんですね。なんでああいうことが起きたのか、自分が今どんな気持ちなのかわからない。何もかもうまく表現できなくてもどかしかったことを、今でもすごく覚えています。

──理不尽な目にあったうえに、自分の中に湧き出る感情に整理がつかないという経験だった。

そうですね。そのときは急に上級生たちがやって来て怖かったし、靴を投げられて驚いたし、多少の怒りも覚えた。それに、その人たちがどこかに行ってしまって空しかったし、そんな気持ちで1人で帰るのも悲しかった。いろいろな感情が湧き上がっていたはずなのに、当時はそのどれも言葉で伝える術が自分の中になくて、ただ泣くことしかできなかったんです。でも今思えば、そういう感情を口に出せないことは仕方がないことだと思うし、絶対に悪いことではないと思う。この曲の歌詞ではそういうことを書きたいと思いました。

──なるほど。そのテーマで実際に作曲するにあたっては、どんなことを意識しましたか?

ある種の讃美歌のようなものにしたいと思って、それが決まってからは早かったかな。というのも、「みんなのうた」の曲っていろいろな人が聴くじゃないですか。小さい子もそうだし、兄弟や親、おじいちゃんやおばあちゃんも一緒に。だから、その全員にちゃんと届く歌詞とメロディにしたかった。そういうことを考えた結果、最終的にシンプルな楽曲になったと思います。

1%でも届いていたらいいな

──「Carol」のMVはアボガド6さんが制作されています。これは楽曲と映像を同時進行で作っていったのでしょうか?

そうですね。まず僕が曲をワンコーラス作って、それをアボガド6さんに送って、いつも通りにPCで画面を共有しながら作業を進めていきました。その場でアボガド6さんが描いてくださったグラフィックを見て、「そのモチーフいいね」みたいにやりとりしながら、だいたいこんな感じの映像にしようと話を固めて。そこからは彼が映像を作ってくれている間に僕がツーコーラス目を作って、その途中でまた相談したり確認したりしながら作っていきました。

──MVではモノクロの世界にだんだんと色が付いていく様子が描かれていますが、その映像が楽曲のサウンドや展開とすごくリンクしていると感じました。そのあたりもお二人でイメージを共有していたのでしょうか?

そうですね。それこそ、先ほどお話した楽曲のテーマをアボガド6さんにも聞いていただきました。そのうえで、あのテーマをどうやって視覚的に表現するか話し合ったときに、いろいろなアイデアはあるけど色彩で表現するのが一番伝わるんじゃないかと落ち着いて。色彩や空間の広がりをどう見せるかという部分を2人で特に意識しましたね。

──MVは6月から7月にかけて「みんなのうた」で実際にオンエアされましたが、反響はいかがでしたか?

身近な人以外にも、お子さんがいる友達や何年も連絡を取っていなかった親戚からひさしぶりに連絡をもらったりしました。いろいろな方から反響があって、どれも印象的でしたね。あとは、曲を聴いたというお子さんからお手紙をいただいたんです。でっかい画用紙に、クレヨンでイラストと「Carol」の歌詞をがんばって描いてくれていて。「ちゃんと聴いてくれていて、ちゃんと伝わっているんだな」と感じて、めちゃくちゃうれしかったです。この曲に込めた思いが誰かに1%でも届いていたらいいなと思っていたので、救われた感覚があったというか、曲を書いてよかったなと思いましたね。

ゼロから音楽を作っているときが一番幸せ

──そういえば、須田さんはこの4月で音楽活動を始めて7年目に突入されましたが、率直に今はどんなお気持ちですか? あっという間という感じですか?

いやあ、早いですね。楽曲制作を始めたのが20歳の頃だったので、「もう27歳か……」と思います。でも、自分の根本は何も変わっていないと思います。

──どんなところが変わっていないと思われますか?

さっきお話しした自分の曲の根底にあるテーマ、日常を歌い続けているところがまさにそうですね。結局「Alba」にも「Carol」にも、同じことが言えるなと。あとは、取り巻く状況が変わっていくにつれて許容できる部分も増えてきてますけど、結局1人でゼロから音楽を作っているときが一番幸せなんです。昔と変わらず純粋に楽しいと感じるし、ワクワクするところも変わっていない。周りの環境や使っている楽器など、そういう根っこではない部分はどんどん変化してるんですけど、純粋に音楽と向き合うことが楽しいという気持ちは、何も変わっていないのかなって思いますね。