須田景凪|濃密な1年で新たに得た音楽性、ドラマに導かれ生まれた「はるどなり」

須田景凪が1月24日に新曲「はるどなり」をリリースした。

「はるどなり」はドラマ「アライブ がん専門医のカルテ」主題歌として制作された楽曲。R&Bやチルの要素にストリングスアレンジを取り入れたトラックとドラマチックに展開するメロディ、そして“普段の日常の中にある美しさ”をテーマにした歌詞を軸にしたミディアムチューンで、ドラマに彩りを添えている。2月末からは全国7カ所のワンマンツアー「須田景凪TOUR 2020 はるどなり」を開催するなど活動の規模を広げ続ける須田に、「はるどなり」の制作、今後の音楽的ビジョンなどについて聞いた。

取材・文 / 森朋之

刺激的だった香取慎吾との楽曲制作

──まずは2019年を振り返ってみたいと思います。1月発売の「teeter」、8月発売の「porte」がヒットし、中野サンプラザホールでの単独公演を成功させるなど活動の規模が広がりましたが、須田さんにとってはどんな1年でしたか?

怒涛の1年でした。2枚EPを出したこともそうだし、「炎炎ノ消防隊」というテレビアニメのエンディング主題歌として「veil」、映画「二ノ国」の主題歌として「MOIL」を作らせてもらうなど、タイアップも増えて。あとは香取慎吾さんのアルバム「20200101」に参加させていただく機会もあって、初めて経験することがすごく多かったです。半分くらいは記憶がおぼろげというか、気付いたら2019年が終わっていました(笑)。

──それほど濃密な年だったと。音楽的な変化も感じていますか?

そうですね。「porte」ではそれまでやったことのない要素も取り入れて、例えば「MOIL」にはR&Bのテイストを強く入れているし、「語るに落ちる」という曲は全編にわたってしっとりしたサウンドになっていて。どちらも以前だったらもっとたくさんの音色を入れて、音圧を上げて、ロックバラードにしたと思うので、自分にとっては新しい感覚だったんですよね。「そのことで今までの音楽像からかけ離れ過ぎたら嫌だな」という怖さもあったんですが、結果的には「実験的なことをやっても、自分の音楽性は自然と担保できる」という確信を得られて。そこは安心できたし、さらに新しいことをやっていきたいと思うようになりました。音楽的な選択肢も広がりましたね。

──制作においてリスナーの反応は意識しましたか?

作るときはそんなに意識してなかったですね。「どう受け止められるか」を第一に考えているのではなくて、まずは自分がやりたいこと、気持ちいいと感じるものを作っていたので。まあ、そこまでポップスとかけ離れた突飛なものを作っていたわけでもないですし。

──須田さんの音楽の根底にあるのはポップスですからね。

はい。そこに関してはよくも悪くも変わらない部分なのかなと。ある程度振り切ったことをやってもポップスになるというか。そこから思い切り外れたことをやろうとしたら、どうなるかわからないですけどね。

──先ほども話に出ていた、香取慎吾さんとのコラボレーションも刺激になったのでは?

そうですね。小さい頃から「らいおんハート」「オレンジ」などのSMAPの名曲を聴いていましたし、香取さんの楽曲を作らせていただけたのはすごくうれしくて。1対1で「どんなテーマにしようか?」「どういうふうに歌おうか?」と密に話したんですが、そうやって一緒に制作できたのも刺激的でした。

須田景凪

ドラマのイメージを落とし込んで

──では、新曲「はるどなり」についても聞かせてください。ドラマ「アライブ がん専門医のカルテ」の主題歌ですが、どんなテーマで制作されたんですか?

ドラマの主題歌の話をいただいて、まず、第1話の脚本を読ませてもらいました。その後ドラマのチームと打ち合わせしたのですが、そこでヒントになるような題材をもらったんです。このドラマには“限られた時間の中で、どう過ごすか”というテーマがあって。主題歌に関しても先方から「“残された時間が限られている”という背景によって、当たり前の日々がより美しく感じる。そういうところを切り取ってほしい」という話があったんです。以前から自分はそういう部分にフォーカスして曲を書くことが多かったから、価値観が近いのかなと思いました。

──“メメント・モリ”的な感覚ですか?

まさに。あとはその人が抱えている心情や経験によって、同じ景色でも見え方が違うということだったり。刹那的というか、その瞬間だけの光景や感情を切り取って音楽を作ることが多いので。ドラマの脚本を読んだときにしっかり救いを描く一方で救いのない場面が入っているのも印象的だったんです。いい意味で生々しくて、奇麗事にしないというか。そこは楽曲を作るときも意識していました。

──歌詞が先行だったんですか?

そうですね。サビの「昨日よりも深く呼吸をしていた」という一節から広げていきました。メロディやサウンドに関しては、サビを開けたものにすること、耳にした瞬間にハッとしてもらえるような感じにすることを意識して。あとは淡々と過ぎていく時間を表すために時計の針の音を入れたり、街の雑踏に溶け込むような音なども入ってますね。

──ドラマの世界観やストーリーとも強く重なっているんですね。

はい。ただ基本的にはすべて任せていただいたんです。ドラマのプロデューサーの太田大さんはこれまでの僕の曲をすべて聴いてくれて「好きなように作ってください」と言ってくださったので。

次のページ »
曲名に込めた思い