ソニン|「カレーライスの女」から18年 アンサーソングで見せる彼女の今

アンサーソングで見せる彼女の今

今年10月18日で芸能活動20周年を迎えるソニンが、ニューシングル「ずっとそばにいてね。」を10月14日にリリースする。

「ずっとそばにいてね。」は、2002年発表の代表曲「カレーライスの女」への18年の時を経たアンサーソング。本人の強い希望によりつんく♂を迎え制作された本作には、“成長した私を見てほしい”というソニンの思いが込められているという。近年は舞台女優として高く評価されるソニンが、なぜこのタイミングでふたたび歌手として楽曲をリリースすることになったのか。そして「カレーライスの女」から18年の時を経て彼女に訪れた変化とは。20周年を迎えるソニンの現在の心境に迫った。

取材・文 / 秦野邦彦

「カレーライスの女」のアンサーソングをお願いします

──芸能生活20周年おめでとうございます。近年は第41回菊田一夫演劇賞や第26回読売演劇大賞優秀女優賞を受賞されるなど舞台での活躍めざましいソニンさんですが、今回はひさしぶりにアーティストとしてニューシングルをリリースされるということでうれしく思います。

ソニン

ありがとうございます。今回20周年記念で何か特別なことをしたいねと事務所のスタッフさんが考えてくださった中で、CDを出すというアイデアはけっこう早いうちから出ていまして。ただ、今のこの時代、CDというものにこだわるべきなのかどうかということも考えたんですね。私がデビューした頃は、小さいシングル(8cm盤)からようやく今のマキシシングル(12cm盤)になったくらいの時期で、DVDもそんなに普及していないから初回限定盤にプロモーションビデオが入ったVHSが付いてくる、みたいな時代。

──EE JUMPの「おっととっと夏だぜ!」や「WINTER -寒い季節の物語-」がそうでした。

あれから私がしばらくCDを出していない間に世の中はすっかりデジタル化されてしまったわけなんですけれども、周年の記念だし、ありがとうという意味も込めて手に取れる形にすればファンの方にも一番喜んでもらえるんじゃないかとスタッフのみんなも言ってくれたので、「じゃあ、CDで出そうよ」ということになりました。

──やっぱり盤になると愛着が湧きますから。新曲「ずっとそばにいてね。」は、ソニンさんの強い希望で、つんく♂さんとの再タッグが実現したそうですね。

そうなんです。やっぱり20周年だから特別な曲にしたいということで、私の原点であるつんく♂さんにぜひお願いしたいと思いました。スタッフの皆さんも水面下で同じことを思っていたらしいです。ただ、つんく♂さんは今ハワイに居住されていると聞いてましたので、もしかして楽曲提供とかされないのかなあと思いながらお願いしたんですけれども、快く受けてくださいました。

──楽曲について、ソニンさんからつんく♂さんに何かリクエストされたんですか?

「『カレーライスの女』のアンサーソングをお願いします」とお伝えしました。私の代表曲でもありますし、最近ミュージカルを観てファンになってくださった同世代の方も、あのイントロが流れた瞬間「知ってる!」と思うみたいなんですね。あと、マツコ・デラックスさんがテレビ番組で「カレーライスの女」が大好きだとおっしゃっているのをよく耳にしていて。去年「アウト×デラックス」(フジテレビ系)でようやくお会いできたときも、「カレーライスの女」についてお話しさせていただきました。私も「長年愛されている名曲だな」と改めて痛感したので、つんく♂さんに書いてもらうなら、私の代表曲のアンサーソングという形で、しかもあの頃のイメージで止まっている人に「ここまで私は成長したんだよ」と感じてもらえる曲にしたいと思って提案しました。

つんく♂が作るあの頃のJ-POPの雰囲気

──「ずっとそばにいてね。」は、「カレーライスの女」から一転して柔らかな空気感のある優しいバラードになりました。

それも私の希望で「明るい曲にしてください」とお願いしたんです。私自身、女優業を始めてから成長しましたし、曲の中でカレーライスを作っていた女の子もいろいろあったけど「今は元気でやってるよ」というお互いの変化を重ねたい思いもあって。つんく♂さんらしく「不安だったけどようやく会えたよね」とか、たまに寂しいときもある感じを匂わせながら、すごく温かい曲にしてくださいました。何度かやり取りをさせていただいたんですけれども、最初に届いたものは想像していた以上に曲調が明るかったんです。歌詞も、メロディも、トラックの雰囲気も今と全然違って、もっと若い感じでした。

──完成までの間に変遷があったんですね。

つんく♂さんとも17、8年会っていない状態なので、今の私の声がどんな感じで、どれぐらい歌えるかわからないから、まずレンジを教えてくださいって言われたんです。「どこまで出ますか?」「ファルセットに切り替わるところはどこですか?」「地声で行けるのはどこですか?」って。レコーディングのやり方もずいぶん変わりましたね。以前つんく♂さんにプロデュースしていただいていた頃は、どのキーが自分に合っていて、どういうニュアンスができるかみたいな相談なんてなかったですし、もらったものをそのまま歌うのがアイドルでしたから。そもそも自分のデータをそこまでわかってなかったと思いますし。それで今の私に合うレンジで一度作ってくださったんですけど、実際歌ってみると少し若く聞こえたから、キーを下げて、テンポも少し変えて、大人っぽくしてもらいました。この曲の世界観だったら落ち着いていたほうがいいなと思って。

──レコーディングはいかがでしたか?

実は今回のレコーディングはハモリもダブルも一切なく、私の声1本だけで何にも足されていないんですね。トラックもすごくシンプルだから逆に怖くて、ブレスが目立たないよう隠しブレスして、工夫しながら歌いました。今回初めてミックスにも参加させてもらって、ボーカルの音質やトラックのシンセサイザーなどのバランスも、全体通していろいろ調整していただいたんです。これだけ月日が経ったんだから、私もある程度は自分のことをわかって、プロデュースまではいかなくとも、音にこだわっていかないとなと思って。レコーディング現場には、つんく♂さんの音楽マネージャーの方が来てくださったんですけど、「どうなるかなと思っていたけど安心しました」と言ってくださいました。当時一緒に仕事したスタッフの方も10数年ぶりに集結してくださったので感慨深かったし、楽しかったですね。残念ながらつんく♂さんはいらっしゃることができなかったんですけど、すごく温かいメールをいただきました。

──どんなことが書いてあったんですか?

自分がどういう思いでこの仕事を受けたかとか「ソニンの20周年だったらぜひ書きたいと思った」とか、うれしい言葉がたくさんありました。「全部は観に行けてないけどミュージカルで活躍してることも知ってるよ」って。私はハロー!プロジェクトではなかったですし、書いてもらった楽曲数もそんなに多くなかったのに、今でも私のことを気にかけて、本当に親のような愛情で見守ってくださっていたんだなって。ただ、歌い方に関しては「どうしよう?」と思いました。せっかく成長した大人の姿を見せられる楽曲なのに、昔のニュアンスそのままにしすぎてももったいないし、かといってフェイクを入れたり、崩したりできる楽曲ではなかったので。最初は悩みましたけど、つんく♂さんからいただいたデモの世界観と私が感じたイメージをなるべく再現するようにしました。考えに考えた結果、いい具合のハイブリッドを選んだつもりです。聴いていると「あの平成の頃のJ-POPの雰囲気を再びつんく♂さんの世界で感じられるのって贅沢だな」と思います。

同世代の女性に共感してほしい

──歌詞の中で特に感情を込めたくなったポイントは?

歌っていると、いろんな思いがぐるんぐるん巡りますね。つんく♂さんにはもう1つ「私と同年代の3、40代の女性が『……わかる!』と思えるような心情を入れ込んでください」とお願いしたんです。「カレーライスの女」のアンサーソングというところだけにフォーカスしてしまうと広がりづらいだろうなって。あの歌を好きになってくださった女性はカレーライスを作る女の子に共感したんじゃなく、明日を夢見ない限り生きていけないもどかしさや不器用さにドラマを感じたり、自分を重ねたりしたと思うんです。別にカレーライスじゃなく、パスタでもいいし、もっと言うと料理じゃなくてもいいんです。その女性が成長して30代、40代になって、結婚していたり、子供ができていたり、仕事がうまくいっていても、ふとしたときに「私の人生これでいいのかしら?」と思うことが、たぶん一番多い世代なんです。どうしても他人と比べてしまうから。そういう、若い頃とはまたちょっと違うステージにいる人が共感できるような歌にしたいなって。

──同世代の女性へのエールにもなってますよね。

ソニン

特に「愛はどんな風に貯め込んでも 朝には空っぽね」の部分は、私も「ああ、わかるなあ」と思います。愛と言われているものをもらってはいるけど、実はそれは自分が求めてるものじゃないから貯め込めない、みたいな。この独特な感覚に同じ世代の女性は共感するんじゃないかな。「ありがとう いつも」という歌詞も、この年代になってくると何かしらあったら周りの人に「ありがとう」と言いたくなるんです。助けてくれてありがとうって。そこは言葉にしないとダメだし、自分が言われて気持ちいいことを実感する年齢でもあるから、いろんな愛に気付くんですよね。それから歌い出しの「不安だったけどようやく会えたよね ずっと元気にしてたよ あれから 孤独だったけどなおさら 笑顔だけは絶やさないようにしていたよ」というフレーズも大好きです。きっと「あれから」という言葉だけで、いろんなシチュエーションを想像できると思うんですよね。私をイメージして「カレーライスの女」からかなって想像する人もいるだろうし、コロナ禍で会えなかった友達の顔が浮かぶ人もいるだろうし。私自身もずっと応援してくれたファンの方に向けて「これからもよろしくね」という気持ちになりますし、いろんな私の面が表現できる歌になったなと思います。

──個人的に「がんばって来たけれど わかっちゃいるけれど 世間はがんばっている人だらけ」というところもすごく刺さりました。

これはつんく♂さんから私へのメッセージだと思ってます。私はよく人一倍一生懸命とかストイックという目線で見られることが多いんですけど、普通に私自身の人生をがんばってるだけなのにそういうふうに見えちゃうのかなって。でも、「みんなもがんばってるんだなあ」と思うと楽になるし、「もっとがんばろう」と思えるようになる。つんく♂さんに「みんながんばってるんだから」と言われてるような気がして、「はい!」って感じですね(笑)。

──カップリングの「カレーライスの女"2020 Remix"」のお話も聞かせてください。オリジナルの「カレーライスの女」はジャケット写真やミュージックビデオも話題になりました。ご自身にとってもすごく大切な曲だと思いますが、改めて今回"2020 Remix"として向き合ってどのように感じられましたか?

なんていうか……すごく痛かったです。当時19歳の私が切ない声で歌っていて。オリジナルはライブで何度も歌ってますけど、"2020 Remix"にした瞬間、ヒリヒリしました。たぶん「ずっとそばにいてね。」を聴いたあとだったから余計に「涙出ちゃう。かわいそう……」みたいな感じで。でも、そこからもう1回「ずっとそばにいてね。」を聴くと、「ああ、この子も成長したんだなあ、がんばってきたんだなあ」と、ちょっとほっこりして救われた気持ちにもなるので、交互に聴くと面白い相乗効果があるなと思いました。アンサーソングにもいろんな歌がありますけど、今回はあれからリアルタイムで18年経って、あのときの女の子がどういう感じに成長したかというのを明るく仕上げた、成長ソングですね。「私はダメダメ」という自分の世界に籠った感じではなく、「人に感謝できるところまで来ましたよー!」みたいな(笑)。特に今はこういうご時世ですから、明るい曲で皆さんの心を温められたらいいなと思います。

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2人の親友との共演