ナタリー PowerPush - SOIL & "PIMP" SESSIONS
新たなSOILスタイルを構築した2年ぶりオリジナルアルバム完成
「この6人だったら大丈夫」
──前作の「6」はSOILの多様性やベクトルの広がりを表現した作品と感じたんですが、今作の「MAGNETIC SOIL」はジャンルの枠を超えて、SOILの元々のバンド力を再度提示したような印象を受けました。
社長 基本的に我々は、曲に対してベストだと思えるアレンジやテイクを突き詰めていくという作業しかしていないんですよね。でも、そういう風に感じていただいたのであれば、今のバンドが自然とそういう状態になっているのかもしれないですね。
丈青 最近インタビューで「アルバムの良さ」を教えてくださいって言われることが多くて、そのたびに僕は「ジャンルを越えたSOILカラー」って言ってるんです。でも、別に意識してそうなったわけではなくて、どのジャンルをやっても俺たちの呼吸や音色、それぞれの癖とか匂いが反映されて、そういう音になってるんだと思う。ここにきて、バンドとしての個性がより強まったのかもしれないですね。
──曲作りの中で意識したことはありますか?
秋田 俺は今回「SOILだからこういう曲を作ろう」じゃなくて、SOILありきで「こんな感じの曲をSOILがやったらどうなるんだろう」と思って曲を作ってましたね。
みどりん 6人それぞれ聴いてる音楽が全然違うのに、この6人で作る音だったら大丈夫、という思いが作品ごとにデカくなってるんですよ。それが今回のアルバムで確立した感じがあって。
タブゾンビ アルバムの中で「Some Skunk Funk」というフュージョンの名曲のカバーをやっているんですけれど(ジャズ・フュージョンアーティスト、THE BRECKER BROTHERSの楽曲)、今まではフュージョンに多少偏見があって、あまりカッコよろしくないと思っていたんです。この曲もダサいとまではいかなくても「これはなあ」と思っていたんですけれど、今のSOILでやれば絶対カッコよくなる気がして、それで試してみたんです。その結果、原曲とは全く違うものになって。6人にそれぞれ個性があって面白いからこそできるんだなって感じました。そして、原曲のカッコよさも認識しました。
社長 今回のアルバムは「Some Skunk Funk」がキーだと思っていて、これが録れたときにアルバムの全体像が見えたんですよね。この曲のおかげで「ファンク」というキーワードが出てきたし、アルバムの軸になるような曲になりました。
丈青 「Some Skunk Funk」ってカバーとして取り上げやすい曲ではないんですけど、それをSOILとしてナイスアレンジできたという自信があります。
SOILでできることを追求し続ける
──SOIL色に染めてしまうということでは、「Jazzman In The Rave」も打ち込みや4つ打ち的な音色をファンキーにアレンジした曲ですね。
社長 この曲は僕が作っていて、キーボードのリフとテーマ、だいたいの構成を曲出しのときに持っていったんですけど、その時点ではあんまりレイブっぽいサウンドではなかったんです。でも、みんなで音を出していくうちに、中盤のサックスソロの世界が出来上がって、タイトルにふさわしいものに育っていきましたね。仲間内にコンピュータを使ってカッコいい音を作っているアーティストや、DJで打ち込みをプレイしている仲間もいっぱいいるし、一緒に遊んでいる中から影響を受けることも多くて、僕自身もテクノやハウスがすごく好きなんですよ。ただそれをそのままSOILでやろうぜ、というわけではなくて、タイトルにあるとおりジャズマンがレイブの世界に迷い込んだらどういう音を出すんだろうなっていうイメージが浮かんできて、それを具現化した曲なんです。
──そのほかに印象に残っている曲はありますか?
タブゾンビ 「Sexual Hungry」は元さん(元晴)の曲なんですけれど、10年くらい前にライブで頻繁にやっていた曲で、今回音源化するにあたって、アフリカでフィールドレコーディングした音源のサウンドコラージュを社長が加えて、面白く仕上げてます。
──最初からこういったプリミティブなリズムを持つ楽曲だったんですか?
元晴 作曲した時点ではリズムに関してはあまり想定していなかったんです。どこの国ともわからない雰囲気や前のめりなエロス、乱痴気騒ぎのお殿様をイメージして作った曲で。だから変化が起きたのは、ライブでやるようになってからですね。リズムとテンポが変わるだけで全然違う曲になるんですよ。
秋田 余談ですけどドラムセットを使わずカホンを使った「Awesome Knowledge」は、ベースの音がよく聴こえます(笑)。これまでSOILの楽曲はほとんどドラムセットを使っていたんですけれど、初めてドラムセットを使わずにレコーディングして。これはリズム隊の新しい一面が出てますね。
──ゆったりしていますけれど、すごいグルーヴを感じます。ラストにふさわしく、気持ちいい曲ですね。
元晴 常にドラムとベースは試行錯誤してるんですよね。グルーヴが新しければ上に乗る音が一緒でも新鮮に聴こえるし。曲の骨格、曲を司るのはリズムですから、そこで新しいバリエーションが出てくると僕らもうれしいんですよ。言葉ではなかなか表現しづらいんですけど、常に挑戦を繰り返してます。
リテイク版「Summer Goddess」でつかんだ手応え
──そのほかにオススメの曲はありますか?
秋田 「Freedom Time」は土着的なブラジリアンという発想で、ブラジリアンのリズムをどうやって出していくか考えた曲ですね。
元晴 いつかブラジル行きたいねえ。
一同 (笑)
丈青 僕のイチオシは「Summer Goddess(Son Of Goddess Ver.)」ですね。これは初回限定盤にしか入っていないんですけど、すごく気に入っているテイクで。この曲もそうですけど昔の曲がライブで演奏する中で育ってきて、それぞれがリアレンジしてどんどん進化していっているんですよ。「Summer Goddess」はBPMやアレンジも以前とは変わっているから、それを音源化したいなと思って、今回再録することを僕から提案したんです。
元晴 実は今年の頭にPE'Zとツーマンライブをやったときに、彼らが「Summer Goddess」をカバーしてくれたんです。PE'Zが僕たちの曲をやってくれるというのにも感激したし、頭をキックにするアレンジにも驚いて。だから、今回の音源は「PE'Zサンクスバージョン」みたいな感じになってます(笑)。
──今後「Summer Goddess」以外の曲もリアレンジする予定は?
丈青 具体的にはないんですけど、やりたいとは思っていて。ひとまず、今回「Summer Goddess」ですごくいいテイクが録れたので満足してますね。
CD収録曲
- Sexual Hungry
- Some Skunk Funk
- MOVIN' feat. Maia Hirasawa
- JUNK
- Do-Re-Mi
- Deep Inside
- Freedom Time
- Above The Crowd
- A DECADE
- Moon At Noon
- ASA
- Jazzman In The Rave
- Tell Me A Bet Time Story
- Awesome Knowledge
初回盤ボーナストラック
- Summer Goddess (Son Of Goddess Ver.)
SOIL & "PIMP" SESSIONS(そいるあんどぴんぷせっしょんず)
社長(アジテーター)、丈青(Piano)、元晴(Sax)、タブゾンビ(Tp)、秋田ゴールドマン(B)、みどりん(Dr)からなる6人組バンド。東京・六本木のクラブで知り合った仲間で2001年に結成される。2003年に「FUJI ROCK FESTIVAL '03」に出演して以来、国内外のフェスに参加。これまでにイギリス「GLASTONBURY FESTIVAL」をはじめ、スイス「MONTREUX JAZZ FESTIVAL」やオランダ「NORTH SEA JAZZ FESTIVAL」などにも出演し、海外においても確かな足跡を残し続けている。2004年に1stアルバム「PIMPIN'」でメジャーデビュー。2006年には椎名林檎とともに映画「さくらん」のテーマ曲を担当する。2009年9月には椎名林檎、DJKENTARO、ジェイミー・カラムをフィーチャーしたアルバム「6」で新機軸を打ち出す。2010年には初のコンセプトカバーアルバム「SOIL & "PIMP" SESSIONS presents STONED PIRATES RADIO」を発表した。2011年10月に2年ぶりとなるオリジナルアルバム「MAGNETIC SOIL」をリリース。