ナタリー PowerPush - SOIL & "PIMP" SESSIONS

新たなSOILスタイルを構築した2年ぶりオリジナルアルバム完成

今年のフジロック最終日深夜のRED MARQUEEで観たSOIL & "PIMP" SESSIONSのパフォーマンスは、攻撃的な音とアジテートでオーディエンスとの一体感を作り上げる、彼らの更なる進化を感じさせるものだった。そこにあった多幸感と言ってもいいムードには、バンドの内面的な変化が現れていた。

フジロックでも披露されたマイア・ヒラサワをフィーチャーしたシングル「MOVIN' feat. Maia Hirasawa」、そして人気ナンバー「Summer Goddess」の新録バージョン(初回限定盤のみ収録)を含む2年ぶりとなる彼らのニューアルバム「MAGNETIC SOIL」には、生々しい息づかいと、獰猛だけれどどこか聴き手を包み込むあたたかさがあるSOILサウンドが満載だ。メンバーそれぞれがソロ活動を行ったり、カバーアルバムをリリースしたり、「MOVIN'」のようなボーカル曲を導入したりと、やりたいサウンドを貪欲に突き詰めるバンドのバックボーンを改めて感じる仕上がりとなっている。

海外での精力的な活動を続けてきた彼らが、今改めて自国・日本に目を向けて活動している理由からスタートしたインタビューでは、彼らが単なる原点回帰を目指しているわけではないことを感じていただけるだろう。

取材・文 / 駒井憲嗣 撮影 / 中西求

海外での経験を日本で表現したい

──前作「6」から今回の「MAGNETIC SOIL」までオリジナルアルバムとしては2年が空きましたが、その間ソロ活動も活発でしたし、カバーアルバム「SOIL & "PIMP" SESSIONS presents STONED PIRATES RADIO」も発表されました。皆さんにとってこの2年間はどんなものでしたか?

インタビュー風景

元晴(Sax) 僕ら毎年海外ツアーをしているんですけれど、去年は行ったことのないところに行って。南アフリカやカザフスタン、日中関係が緊迫していた時期に上海でもやりましたし、初めて聞くもの、見るものがたくさんあったんです。各地で出会った人も、フレンドリーでパワーを持っている人たちばかりで。それに影響を受けて、今年は自分たちが見てきたものや感じてきたことを日本で表現したいという目標を立てて、今回のアルバムの制作に臨んだんです。

みどりん(Dr) 僕らはこの2年の間に海外にすごく長い期間滞在して、その都度学ぶことがあったんですけど、国内でのレコーディングや対バンツアーでもいろんな人との出会いがあったんです。あと国内外でも環境の違いとかで、今まで経験していたことが通じたり、通じなかったりというのもあって、どんどん経験値が上がっていったんですよね。

タブゾンビ(Tp) 火山の噴火で海外で足止めを食らったり、そのほかにも自然に関する大きなこともあって、意識の変化がかなりありました。例えば僕、物欲がすごく強かったんですけど、これからは自分の中で精神的な豊かさを深めていきたいと思うようになりましたね。音楽ってメンタルな部分と密接につながっていると思うので、そうした気持ちが今回のアルバムに反映されていると思います。

震災で感じたそれぞれの思い

──アルバムの曲はどんな形で集まってきたんですか?

インタビュー風景

社長(アジテーター) 今までどおりアイデアが出次第、それぞれがスタジオに持ってくるというスタイルでしたね。それが最終的に加速していったのは、去年末くらいから。レコーディングは今年の3月くらいから始めました。

──3月11日に起きた東日本大震災が制作に影響を与えた部分はありましたか?

社長 震災を含め、それぞれがいろんな経験を通して日々刺激を受けていると思うんです。でも、あれだけ大きなことをスルーすることはできないし、6人それぞれに考えや意見があって。ただ、それをバンドとして全面的に押し出した作品にはなりませんでしたね。曲を書いた人間がイニシアチブをとって、それを育てていくということは変わってない。アルバムには震災前にできた曲、あとにできた曲の両方が収録されているけど、スタンスとしては常に自分たちが提案すべき一番カッコいい音を追究して、1曲1曲に魂を込めていった感じです。

──なるほど。震災を受けて皆さんの中での変化はありました?

元晴 地震が起きた日って、僕らが深夜にやっているイベントが予定されていたんですけど、それが中止になったり、そのあとも各々がやってるバンドのツアーがキャンセルになったりした。そのことを通して、みんなでレコーディングしたりライブしたりすることができるのは、今まで当たり前だったけれど実はすごくありがたいことなんだって感じましたね。原発の問題だったり心配事は多いけど、音楽を作ったりライブをしてるときは、そういうことを忘れられたし、幸せを感じられたんですよね。リスナーの方もきっとそうだと思うんです。そういう思いを感じた以上、音楽を作るにあたって嘘なものとか中途半端なものは出てこない。そんな経験を通して、みんなの思いや自分のできることをすべてアルバムに込めましたね。

インタビュー風景

丈青(Piano) 僕は震災直後もライブしてましたが、お客さんが震災直後は普段より音を求めているのを感じながら演奏していましたね。もちろん、自分自身への影響は生活の中であると思いますが、音楽をやる上では何も変わらない。ただ、もし自分が被災地に生まれた子供だったら、計り知れない影響があるだろうなと思いました。誰も普通は見ることのない風景を記憶にとどめるわけだから、例えばすごい歌を歌う人が出てきたりとか。こんな時代だからこそ、音楽の需要は高まるのではないかと思います。

秋田ゴールドマン(B) 震災が起きて、結局僕らにできることは演奏することだけだし、音楽というものがどれだけ自分たちにとって大事か思い知らされて。だからこそ、嘘をつかずに一生懸命音楽をやろうという意識が強くなりましたね。

ニューアルバム「MAGNETIC SOIL」 / 2011年10月5日発売 / Victor Entertainment

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  • 初回限定盤 / 2800円(税込)/ VICL-63787 / Amazon.co.jp
  • 通常盤 / 2800円(税込)/ VICL- 63788 / Amazon.co.jp
CD収録曲
  1. Sexual Hungry
  2. Some Skunk Funk
  3. MOVIN' feat. Maia Hirasawa
  4. JUNK
  5. Do-Re-Mi
  6. Deep Inside
  7. Freedom Time
  8. Above The Crowd
  9. A DECADE
  10. Moon At Noon
  11. ASA
  12. Jazzman In The Rave
  13. Tell Me A Bet Time Story
  14. Awesome Knowledge
初回盤ボーナストラック
  1. Summer Goddess (Son Of Goddess Ver.)
SOIL & "PIMP" SESSIONS(そいるあんどぴんぷせっしょんず)

SOIL &

社長(アジテーター)、丈青(Piano)、元晴(Sax)、タブゾンビ(Tp)、秋田ゴールドマン(B)、みどりん(Dr)からなる6人組バンド。東京・六本木のクラブで知り合った仲間で2001年に結成される。2003年に「FUJI ROCK FESTIVAL '03」に出演して以来、国内外のフェスに参加。これまでにイギリス「GLASTONBURY FESTIVAL」をはじめ、スイス「MONTREUX JAZZ FESTIVAL」やオランダ「NORTH SEA JAZZ FESTIVAL」などにも出演し、海外においても確かな足跡を残し続けている。2004年に1stアルバム「PIMPIN'」でメジャーデビュー。2006年には椎名林檎とともに映画「さくらん」のテーマ曲を担当する。2009年9月には椎名林檎、DJKENTARO、ジェイミー・カラムをフィーチャーしたアルバム「6」で新機軸を打ち出す。2010年には初のコンセプトカバーアルバム「SOIL & "PIMP" SESSIONS presents STONED PIRATES RADIO」を発表した。2011年10月に2年ぶりとなるオリジナルアルバム「MAGNETIC SOIL」をリリース。