ファンの思いを守りつつ、川島くんの健やかな歌声を押し出したい
──もう1曲はフジファブリック「若者のすべて」のカバーですが、この選曲はすごく意外でした。
「若者のすべて」は川島くんがよくカラオケで歌っていたんです。母性本能や父性本能をくすぐる、川島くんの実直さが伝わるいいマッチングだなって。各所にカバーの許可をいただけてありがたかったのですが、オリジナルのファンの皆様にはどう思われるか気にしました。オリジナルとは別物にしつつ、ファンの方々が「守ってほしい」と思われるであろう部分はしっかりと守りたい。アレンジャーのPARKGOLFさんにはオリジナルの雰囲気を残しつつ、川島くんの健やかなボーカルを前面に押し出せないか相談しました。
──志村正彦さんが歌ったオリジナルは、複雑な感情をはらんだフジファブリック独特の濁りを含むピュアネスという雰囲気でしたけど、川島さんのカバー版はもっと素直なピュアさを感じるというか。ハウス的な無機質なサウンドが、おっしゃる通りの川島さんの健やかなボーカルをうまく引き立てているように思います。
ああーなるほど! よかったー……。
──「若者のすべて」はアイドルもカバーすることが多く、イノセントの依り代みたいな印象があるんですよね。それを、言ってみれば「おじさん」である川島さんが見事に表現しているのが、選曲、采配も含めてすごいなと。
どんなふうにカバーすればいいかすごく悩んだので、そう言っていただけてうれしいです。
俳優さんが事務所に頼まれて歌った感じ
──後藤輝基さんが歌うのが本田美奈子さんのカバー「悲しみSWING」というのも意外でした。後藤さんは音楽好きで有名ですが、どちらかというとロックが好きな印象があったので。
「悲しみSWING」がリリースされた当時、僕は「本田さんすごくチャレンジなさっているな」って感じたんですね。本田さんはたびたびヒット曲を出しながらも、次の曲ではまったく違うジャンルに挑戦し続けていて、それが衝撃的でした。そのショックを後藤くんにぶつけてみたらどうだろうと思ったんです。
──「悲しみSWING」以外にもカバー曲の候補はあったんですか?
例えば寺尾聰さんの「ルビーの指環」もいいと思ったんですけど、スモーキーな雰囲気に偏っちゃうかなって。もっと色気を前面に押し出したかったんです。後藤くんとは18年間テレビ番組でご一緒させていただいたんですけど、すごく色気のある方なんですね。でも番組ではそういう雰囲気を見せることが少なくて。彼のカバーについては、人気の俳優さんが事務所や音楽プロデューサーから「歌ってください!」と頼まれて発表した曲、みたいなものにしたかったんです。俳優さん本人が別に歌いたいわけじゃないんだけど、やってみたらすごくカッコよかった、みたいな感じ。
──ねじれたイメージですね(笑)。
ただ「ゴッドタン」のマジ歌シリーズでご活躍されているのはもちろん、過去にはGO☆TO(※テレビ番組「ノブナガ」から生まれた音楽活動企画)で作詞や作曲も経験されているので、後藤くんの音楽的な活動を支えているスタッフの方に「藤井、何勝手にやってんねん」とは思われないよう気を付けました。
──編曲は澤部渡(スカート)さんですが、アレンジのやりとりはどんな感じだったんでしょうか?
細かい部分だと、後藤くんの登場イメージをご説明してイントロを伸ばしていただきました。オリジナル曲を作るのと、カバー曲をアレンジするのでは全然手法が違うから大変ですよね。でも澤部さんは過去に僕の曲を作ってもらったり、イベントでもご一緒させてもらったり、すごく頼りになる方で、ダメもとでご相談したらトライしてくださったんです。すっごく悩んで完成させてくださったことがいじらしく感じられるサウンドで、最初は澤部さんのたどった悩みをしっかり汲み取りたいと思ってヘッドフォンで聴きましたね。あと、後藤くんのボーカル録りもスムーズで、ご本人は「これでええんですかー?」とかおっしゃってましたが、澤部さんと「すごくいい!」って何度も言いながら作業したのを覚えています。
暗黒天使の最初で最後のデビュー曲
──「Dirty Angel」は藤井さんの「暗黒天使さんのCDを出したい」という発言から5年を経ての実現となりました。どういう曲にしたいというイメージはあったんですか?
暗黒さんには絶対作詞をしてもらおうと思ってましたね。「文字数は厳密に決まっていなくてもいいですから、自由に書いてもらえますか?」とお願いしたら、次の日にはすごい量のテキストを送ってくれたんです。でもAメロやサビとか、構成がしっかりわかるように組み立ててくれてましたね。それで作編曲のニンドリさんに語順や語尾を変えてもらったり、組み合わせていただいたり、いろいろ手を加えて完成しました。暗黒さんならではのエッセンスが存分に盛り込まれていますし、暗黒さんご自身も満足いくものができたんじゃないかと。
──そもそも藤井さんは暗黒さんのどんなところに惹かれていたんですか?
暗黒さんはとにかく歌が好きそうでしたし、歌ってるときも楽しそうで。オリジナル曲があったらイベントでも歌えますし、ぜひ作って差し上げたいと思ってました。「SLENDERIE ideal」に参加いただいた方の中では、暗黒さんととくこさんが特にオリジナル曲を作りたい気持ちが強かったですね。暗黒さんは“最初で最後のデビュー曲”というコンセプトがありましたから、この先同じことはもうできないんです。だからこそ作詞は絶対やってもらいたかったんですね。同じくとくこさんにも「歌詞を書いてみませんか?」とお願いしたんですけど、「特に歌いたいことがない」とおっしゃってて(笑)。
──(笑)。
でも「こういう曲調でやってみたい」「K-POPの要素を入れたい」とか、どんなものを作りたいかはしっかりお持ちだったんです。アレンジしてくれたPARKGOLFさんに相談しているときもすごく楽しそうでね。最終的に、Twitterでずーっと披露している電車ものまね(参照:とくこ (@tokukoyori) | Twitter)に関連して、「電車をテーマにしたいです」と言ってくれたんです。それはほかの人には絶対書けないテーマだったから、とくこさんにもお願いして正解でした。
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「ギンガイアン」の世界は今も続いている