ナタリー PowerPush - sleepy.ab

新たな手法で紡ぐ12編の音物語 アルバム「Mother Goose」が生まれるまで

昨年は初のシングルリリースや2度にわたる全国ツアー、アコースティック編成のsleepy.acの初ツアーなど、かつてないほど精力的な活動をみせたsleepy.ab。そんな彼らが1年2カ月ぶりとなるフルアルバム「Mother Goose」をリリースした。

本作には、聴き手の眠りを誘う王道のsleepy.abナンバーはもちろん、自ら“暗黒系”と位置づける激しいロックチューン、疾走感にあふれたエレクトロナンバーなどバラエティに富んだ12曲を収録。1年間の経験を経て培った豊かなバンドサウンドがあますことなく詰め込まれている。

ナタリーではアルバムの完成を記念して、成山剛(Vo, G)と山内憲介(G)の2人にインタビューを実施。制作中のエピソードやこれからのバンドの目標について語ってもらった。

取材・文/中野明子 インタビュー撮影/中西求

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シングルを出すのが怖かった

──アルバム完成おめでとうございます。完成までの道のりを振り返ってみていかがですか?

成山剛(Vo, G) 今までに比べて早かったですね。

──前作の「paratroop」から今作に至るまで1年2カ月なんですが、その間にシングルを2枚出して、2回の全国ツアーとsleepy.ac(アコースティック編成の名義)のツアーを開催して、フェスにも出演してとずいぶん多忙な日々だったと思います。その間にアルバムを作るのは大変だったのでは?

インタビュー風景

成山 そうですね。ツアーの合間を縫って、4月、9月、11月の3回に分けてレコーディングしてましたね。しかも最初から青写真的なものがあったわけではなかったんで、最後の最後までどうなるかわからず……。

──でも無事完成したと。

成山 ええ(笑)。

──今回のアルバムには、昨年リリースした2枚のシングルが収録されています。6月に発表した「君と背景」はキャリア初のシングルというだけでなく、「朝から聴けるsleepy.ab」というコンセプトが印象的でした。

成山 「君と背景」を作ってるときは北海道は雪解けの時期で。その時期って、夏に向かっていくまでの短い時間なんですけど、キラキラしてて僕はすごく好きなんです。初めてのシングルってことで怖さもあったんですけど、新しいことに挑戦する思いや季節感を表現したいなと思って、アレンジした山内に「ちょっと光の量多めに」とお願いました。

──シングルを出すのは怖かったんですか?

成山 はい。どうやってシングルを作ったらいいのかわからなくて。アルバムってある程度曲が揃ってストーリーがあったり、聴く側もそれを意識して聴いたりできるんだけど、シングルはその曲がバンドのイメージになってしまう。だから慎重にならざるを得なかった。

──シングルを出したことで得たものはありましたか?

成山 自分たちを客観的に見るようになりましたね。シングルだからただポップにするっていうのは違うって思ってたし、自分たちらしさも入れたかったし。そもそも自分たちらしさっていうのは何なのか、どうやって入れたらいいのかを考えて。良いものができても、聴き手に誤解されたまま受け取られたらその後はないし。だから、自分たちが納得できるところはどこなのか考えながら作ってました。

──「君と背景」は開けたイメージの曲でしたが、2ndシングル「かくれんぼ」は閉塞感のある曲ですよね。そのへんのバランスは意識されました?

成山 ええ。「君と背景」は外に向いて動き出す感じとか、変わりたい思いとか、躍動感を出したんですけど、その分次は閉じたくなっちゃったんですね。開きっぱなしじゃいれなくなったっていうか。そうやってバランスを保たないと、音楽を作り続けていけないなって思っちゃうんです。

プロデューサーは責任重大で苦労の連続

──2枚のシングルを経てアルバムに続いたわけですが、シングルの影響もあってバリエーションに富んだ作品になりましたね。

成山 シングルによって開いたものと閉じたものっていう2つのレンジができたんで、さらに外に広がっていった感じですね。それを作っていったのは山内なんですが。実は今回、山内がプロデューサーに格上げになったんですよ。レコーディングが終わった後で(笑)。

──それはどういう経緯で?

インタビュー風景

山内憲介(G) がんばったで賞的なものなんです(笑)。細かい部分での演出とか、曲の音色を決めるとかっていう作業は前からやってたんですけど、その役割がどんどん増えていって。サウンドに対する提案だったり、みんなに作業を振るような役割をするようになったんで、プロデューサーっていう肩書きがついたんです。

──プロデュース業はいかがでしたか?

山内 いやぁ、責任重大で大変すぎました。sleepy.abにはびっくりしたりワクワクしたり、もっと聴いていたいなって思えるような部分が必要だと思ってるんですけど、そういうのって過剰に入れ過ぎると逆にぼやけてきちゃうし。かといって入れないと面白くないし。そのさじ加減が難しかったですね。

──プロデューサーとして特に意識したことはありましたか?

山内 前から作ってるときに「なんかいいな」って感じることがすごく大事だって思ってたんですけど、全体を見る上では「それをいいと感じるのはなぜなのか」って理由を考えながらレコーディングをしてましたね。

──中でも大変だった楽曲は?

山内 「君と背景」ですね。これからのバンドの方向性とか見え方を考えて作ったんで。どんな音がsleepy.abらしい音なんだろうって考えて、みんなの音を再確認しました。今まで一緒にやってても、深く考えることが意外となかったんで。

──これを機にほかのアーティストをプロデュースしてみたいという意欲が芽生えたりは?

山内 いや当分いいです(笑)。

成山 だってレコーディング中に全員に「もうギリギリです」っていうメール送ってたもんね。

山内 だけどサポートキーボードの人しか返事くれなくて。しかも「もう少しだ、がんばれ」みたいな内容で。ものすごい孤独感を味わいました(苦笑)。

ニューアルバム「Mother Goose」 / 2011年2月23日発売 / 2500円(税込) / ポニーキャニオン / PCCCA-03352

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CD収録曲
  1. ドングリ
  2. 君と背景
  3. マザーグース
  4. かくれんぼ
  5. Maggot Brain
  6. エトピリカ
  7. シエスタ
  8. way home
  9. トラベラー
  10. 夢織り唄
  11. アルフヘイム
sleepy.ab(すりーぴー)

札幌を拠点に活動する、成山剛(Vo, G)、山内憲介(G)、田中秀幸(B)、津波秀樹(Dr)の4人からなるバンド。抽象的で曖昧なことを示す接頭語「ab」が示すように、やわらかく浮遊感あふれる音楽で多くのリスナーを魅了。その独特の音楽性はアーティストからの支持も高く、草野マサムネ(スピッツ)、山口一郎(サカナクション)、菅原卓郎(9mm Parabellum Bullet)らもファンを公言している。1998年に音楽専門学校の仲間で結成され、2002年に1stアルバム「face the music」でインディーズデビュー。その後もライブ活動と並行してリリースを重ね、2008年2月にそれまでのバンドの集大成となる初のベストアルバム「archive」を発表した。2009年にポニーキャニオンに移籍し、同年11月にアルバム「paratroop」をリリースした。2010年6月に1stシングル「君と背景」を、同年11月に2ndシングル「かくれんぼ」を発表。