ナタリー PowerPush - sleepy.ab

新たな手法で紡ぐ12編の音物語 アルバム「Mother Goose」が生まれるまで

「街」をきっかけに手に入れた新しい手法

──そんな山内さんの苦労もありつつ、素晴らしい作品になったと思います。今回のアルバムで新たに挑戦した部分があれば教えてください。

成山 山内が持ってきた「街」っていう曲は、最初はインスト用に作ったもので、それに僕が歌メロをつけるという手法で作ったんです。それがうまくいったんで、その他の曲もインストでも成立するようなオケに歌メロを乗っける形で作っていきました。

──これまではメロディありきだったんですか?

成山 ええ。わりと鍵になるメロディを自分が先に作っていく形が多かったんで。

インタビュー風景

──今回は成山さんがひとりで作曲している曲は1曲だけで、ほかはメンバーとの共作がメインなんですよね。津波さんや田中さんも参加している曲はどんな形で作業したんですか?

成山 ベースの田中が作るものは、わりとアレンジも含めてでき上がってましたね。だからそれをバンドに置き換えつつ、メロディを僕がつけていきました。

──津波さんが作曲された「Maggot Brain」と「ドングリ」はいかがでしたか?

山内 津波から「こういうリズムの曲をやりたい」ってリズムの音が送られてきて、それに対して「こういうのどう?」ってギターを重ねて送り返して。それを津波がさらに編集して、ある程度形になったら成山に渡す形でした。

成山 だから今回はメンバーが作ってきたものに対して、僕が歌ってメロディをつけるっていうやり方が多かったですね。そういうコンセプトで作ったわけではないんですけど、いつの間にかそうなってました。

──ということは、アルバムの出発点は「街」になるんでしょうか?

成山 曲の作り方についてはそうですね。

──ではアルバムのコンセプトはいつ頃固まったんですか?

成山 「マザーグース」っていう曲ができたのをきっかけに、アルバムを小説っぽくしたいなっていう思いがでてきて。「かくれんぼ」のジャケットが文庫本をイメージしたデザインだったんで、その流れを汲むような形になったんです。コンセプトが決まったのが11月あたりだったんで、ぎりぎりでつじつまが合った感じですね。

──いつもアルバムを作るときは早めにテーマを決めることが多いんですか?

成山 初めからっていうのはほとんどないですね。今回はシングルが先にあったので、決めるのが特に難しかったです。シングル曲がちゃんとフラットに聴こえるか、うまくアルバムに混ざるかが大事だったんで。シングルが入ってることによって世界観が変わっちゃったり、浮いちゃうのはイヤだったんです。そこを気にしながら作ってました。

暗黒系サウンドも自分たちの一面

──サウンドについて伺いたいのですが、今回はこれまでとはひと味異なる音が多いと思うんですね。特に激しい音像の「Maggot Brain」と、エレクトロ的なアプローチを取り入れた「トラベラー」が出色で。

成山 「Maggot Brain」に関しては、自分たちでは今までの流れの中だなっていう感覚があるんですよね。暗黒系というか(笑)。たいていリズム隊が持つ世界観が出てる曲なんですけど。そういうのは今まで田中が作ってたのが、今回は津波が作ってきたところが新鮮でしたね。

インタビュー風景

──暗黒系は暗黒系でも、いつになくゴリゴリしてますよね。眠れるロック、優しいサウンドっていうsleepy.abのパブリックイメージを覆される雰囲気で、驚く人もいるかと思うんですが。

成山 確かに客観的に見たら「なんでわざわざこういうことするんだろう?」っていうのはありますよね。“冬に贈る珠玉のバラード”ってキャッチコピーがついてる「かくれんぼ」の後に、「Maggot Brain」が始まったら「何がしたいんだろう?」って戸惑うかもしれない。でもバックグラウンドが違う4人が集まってsleepy.abをやってるわけだし、その個性が伝わったらいいなって。

──ちゃんと成功してると思います。「トラベラー」についてはいかがですか?

山内 これは4月頃にすでにオケを録っていて。ひっくん(ベース田中の愛称)から送られてきたんですけど、今までとは違うものにしたくて。1回ひっくんがイメージする仕上がりを想像して作ったんですけど、違うなと思って。これまでにない音色を試していったら、結果的に鮮やかで派手な感じに仕上がりました。これもsleepy.abの新しい側面が出せてると思います。

歌詞は日常的な感情から生まれる

──歌詞について成山さんにお訊きしたいのですが、今回のアルバムでは“日常”をテーマにしているように感じたんです。成山さんが今そういう部分を大切にされているということなんでしょうか。

成山 そうですね。今回のアルバムは、生活の一部になるようなものをイメージして作っていたので、それが反映されてると思います。僕の場合、曲を作ったタイミングにも影響されるんですよ。「君と背景」を書いたときは冬から春にかけてだったので、季節感に合わせて開けた思いを言葉に落とし込んだ。でも次は心を閉じたくなって心の内面に触れるような「かくれんぼ」を書いて。かと思えば、アルバムレコーディングも後半になると締め切りも厳しくなってくるので、日常を離れてフィクションの世界にいっちゃったり。「シエスタ」なんてサボりたい、昼寝したいっていう願望から生まれましたもん。

──現実逃避したい思いがそのまま曲になった?

成山 ええ。

──(笑)。成山さんは歌詞を書く上でのポリシーはありますか?

成山 自分の言葉が心の琴線に触れるっていうのが一番大事ですね。「かくれんぼ」だったら「本当は誰にも言えなかったんだね」とか「そっと誉められたかっただけなんだ」とか、自分が言われたかった言葉を歌詞にしてる。そういう感情を聴き手と共有できてると感じたときが一番グッときますね。

ニューアルバム「Mother Goose」 / 2011年2月23日発売 / 2500円(税込) / ポニーキャニオン / PCCCA-03352

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CD収録曲
  1. ドングリ
  2. 君と背景
  3. マザーグース
  4. かくれんぼ
  5. Maggot Brain
  6. エトピリカ
  7. シエスタ
  8. way home
  9. トラベラー
  10. 夢織り唄
  11. アルフヘイム
sleepy.ab(すりーぴー)

札幌を拠点に活動する、成山剛(Vo, G)、山内憲介(G)、田中秀幸(B)、津波秀樹(Dr)の4人からなるバンド。抽象的で曖昧なことを示す接頭語「ab」が示すように、やわらかく浮遊感あふれる音楽で多くのリスナーを魅了。その独特の音楽性はアーティストからの支持も高く、草野マサムネ(スピッツ)、山口一郎(サカナクション)、菅原卓郎(9mm Parabellum Bullet)らもファンを公言している。1998年に音楽専門学校の仲間で結成され、2002年に1stアルバム「face the music」でインディーズデビュー。その後もライブ活動と並行してリリースを重ね、2008年2月にそれまでのバンドの集大成となる初のベストアルバム「archive」を発表した。2009年にポニーキャニオンに移籍し、同年11月にアルバム「paratroop」をリリースした。2010年6月に1stシングル「君と背景」を、同年11月に2ndシングル「かくれんぼ」を発表。