ナタリー PowerPush - sleepy.ab
新たな手法で紡ぐ12編の音物語 アルバム「Mother Goose」が生まれるまで
どんなことをしてもsleepy.abらしさは残る
──今回のアルバムはサウンド、歌詞ともに新しいsleepy.abが出ていると思うんですが、あえて変えようと意識しましたか?
成山 前作の「paratroop」は具体的に「水に潜っていく」「降下する」っていうイメージがあったんだけど、コンセプトを決めちゃった分そこに執着するところがあって。客観的に見たときに振り幅が小さいなって作り終えた後に感じたんです。だから今回は振り幅を大きくしたいなと思ってましたね。
──それでもsleepy.abらしさは残ると?
成山 そうですね。軸はブレないだろうという自信はありました。
──その軸とは?
成山 例えば北海道に住んでいる中で身についたテンポ感とか、ゆったりしてるところとか。それが音に反映されているところですかね。そういうところって作ろうとして作れるものでもないし。
──自然とにじみ出てしまうもの?
成山 ええ。
──山内さんはsleepy.abらしさってどんなところだと思いますか?
山内 僕は成山の声かな。サウンド的にマニアックなことしても、成山の声があれば気になんないんですよね。普通はグシャグシャなことをやっちゃうと、それが目立ち過ぎちゃうんですけど。成山の歌を中心にボンと置いておくと、何をやってもアリになるっていうか。それを大切にしながら新しいことをやっていくと、また違う音楽が作れるんじゃないかなって。
──sleepy.abはインストゥルメンタルナンバーもありますけど、歌のない曲における“らしさ”ってなんでしょう?
山内 実はインストを作るときも結構成山の声を意識して作るんですよね。あといろんな音が混ざって、濁っているんだけど、どこかキレイに聴こえるとか。轟音の中でも凛としたメロディがキレイに響くとか、歌のあるなしを含めてそこも僕ららしさだと思ってます。
夢は真冬に北海道で野外ライブ!?
──sleepy.abはこのアルバムを出したあとは、どこへ向かっていくんでしょうか?
成山 北海道を拠点にしていくというのはもちろん変わらないでしょうね。札幌が好きだし、ほかの地域といい距離感が保てるし、適度な閉塞感もあるんで。だから僕らのいる空気を楽しむために、みんなが北海道に来てくれるようなバンドになりたいという思いがあります。
山内 僕は夏にいろんなフェスに出て、大きな会場ならではの面白みを味わえたし、いろんな人に僕らの音楽に出会ってもらうことができたんで、これからもいろんなライブに出演したいですね。あとは自分たちの世界観をハッキリ出せるユニークなハコでライブしてみたい。
──具体的には?
成山 昔真冬に(札幌)大通公園で野外ライブをしたことがあって、それが苛酷だけど楽しかったんですよね。冬って寒くて空気が澄んでるから、音がすごいクリアになるんです。ディレイの音とかもすごい遠くまで響いて。大通公園ってステージに立つと端から端まで見えるんだけど、僕らの音がちゃんと伝わってるのがわかった。結局寒くて途中で中止したんですけど、もう1回やってみたいですね。
──成山さんと山内さんの話を総合すると、真冬に北海道で大規模な野外ライブをすると夢が叶うんでしょうか?
成山 そうかもしれない。お客さんの震えっぷりを考えると躊躇しちゃうんですけど(笑)。
sleepy.ab(すりーぴー)
札幌を拠点に活動する、成山剛(Vo, G)、山内憲介(G)、田中秀幸(B)、津波秀樹(Dr)の4人からなるバンド。抽象的で曖昧なことを示す接頭語「ab」が示すように、やわらかく浮遊感あふれる音楽で多くのリスナーを魅了。その独特の音楽性はアーティストからの支持も高く、草野マサムネ(スピッツ)、山口一郎(サカナクション)、菅原卓郎(9mm Parabellum Bullet)らもファンを公言している。1998年に音楽専門学校の仲間で結成され、2002年に1stアルバム「face the music」でインディーズデビュー。その後もライブ活動と並行してリリースを重ね、2008年2月にそれまでのバンドの集大成となる初のベストアルバム「archive」を発表した。2009年にポニーキャニオンに移籍し、同年11月にアルバム「paratroop」をリリースした。2010年6月に1stシングル「君と背景」を、同年11月に2ndシングル「かくれんぼ」を発表。