スカート|デビュー10周年、劇的ではない日々と蛇行の記録

今年でデビュー10周年を迎えるスカートが、3月18日に両A面シングル「駆ける / 標識の影・鉄塔の影」をリリースした。

2006年に、当時大学生だった澤部渡が多重録音によるレコーディングを中心に活動を開始したスカート。自主制作のカチュカ・サウンズ時代やカクバリズムへの移籍を経て、2017年10月にはポニーキャニオンからメジャーデビューを果たした。メジャー進出以降も精力的に活動を続け、持ち前のソングライティングのセンスと良質なポップスを提示して多くのタイアップを獲得してきた。節目の年のスタートを飾るニューシングルには、サッポロビール「第96回箱根駅伝用オリジナルCM」の年始特別バージョンのCMソングとして書き下ろされた「駆ける」、テレビ東京系ドラマ「ドラマ25『絶メシロード』」の主題歌「標識の影・鉄塔の影」を収録。さらにCDにのみ「LIVE & MORE」と題して2014~19年の未発表のライブ音源が収められる。

音楽ナタリーでは澤部にインタビューを行い、ニューシングルについての話題を中心に、デビューからの10年間を振り返ってもらった。

取材・文 / 下原研二 撮影 / 臼杵成晃

劇的ではなかった10年

──まずは“優勝”おめでとうございます。

ありがとうございます。優勝しました(笑)。

──自主制作の頃から数えてCDデビュー10周年ということで特設サイトもオープン(参照:スカートのデビュー10周年記念した特設サイト公開、プレゼント企画第1弾は壁紙2種)して、おめでたい壁紙のプレゼント企画も行われています。

あの写真、撮影したのは去年の年末で。前日にオールナイトのイベントに出ていて、死にかけの状態で撮影しました(笑)。

澤部渡

──澤部さんがスカートを始めたのは大学生のときですよね。そのプロジェクトが自主制作でCDをリリースして10年、今ではメジャーで活躍しているという。

怒涛といえば怒涛の10年でしたね。でも振り返ってみると劇的なことは何もないという気もしていて。やっぱり音楽とかバンドをやっていると、そのアーティスト自身がドラマってくらいの幻想もあるじゃないですか。それはロック幻想なのかもしれないけど、そういう自分が考えていたアーティスト像からは外れた10年になったのかなと。

──この10年間、壁にぶつかることもありました?

挫折はやっぱりありましたね。2015年くらいのことなんですけど、とにかくお金がなくて。あの頃が一番しんどかったかも。

──意外ですね。その頃はすでにスカートの名前はインディシーンで広く知られていましたよね?

そうそう。でもそのタイミング作った「サイダーの庭」(2014年6月発売の2ndミニアルバム)が、評判も売り上げも含めて自分の予想の範囲を出なかったんですよ。それで「これから先どうすればいいんだろう?」と悩み始めちゃって。「CALL」(2016年4月にカクバリズムからリリースされた3rdアルバム)を出すまでは自分の中で悩んでいた時期だったかも。それに喉を壊しちゃったり、プライベートでもいろいろと問題があったりでモヤモヤしていたんですけど、2015年の後半にお釣りがくるぐらいのご褒美が待っていて(笑)。

──ご褒美?

澤部渡

昔から好きだった人たちの仕事に携わる機会をたくさんいただいたんです。例えば鈴木慶一さんの45周年記念ライブにコーラスで呼んでいただいたり、スピッツのレコーディングに参加したり(2016年4月発売の「みなと」)、藤井隆さんと初めてお会いしたのも2015年の12月でした。神様に「この1年、冷たく接してごめんね」と言われているような、たくさんのいい出来事があって、それで「まだ音楽やれるぞ」って気になったんです。あの頃は「本当に自分じゃどうにもできない」と気分が落ち込んでいた時期でしたけど、「CALL」に入っている曲がぽつぽつとでき始めていたのも確かなので、創作面で言うと実りの大きい1年だったのかな。ただ精神的にはしんどかったですね。

──2016年以降は徐々に調子が上がってきたと。

そうですね。「CALL」をリリースしたことで評価もしていただいて、レコードも少しずつ売れるようになったので。あのタイミングでしっかりといい曲を書けたことは重要でした。

作家としての自信

──今回のシングル「駆ける / 標識の影・鉄塔の影」は、表題曲がどちらもタイアップソングです。メジャーデビュー後のスカートはタイアップが多いアーティストという印象があって。それは澤部さんのソングライティングのセンスが評価されている証拠だと思うのですが、タイアップ曲を作るうえでのコツみたいなものってあるんですか?

ないない。「気に入ってくれるかな? もしかしたら気に入ってくれないんじゃ……」って毎回ヒヤヒヤしてますよ(笑)。なので、いただいた資料をしっかりと読み込むようにしています。それに打ち合わせで出た話を参考にしながら曲を作っていく作業って、僕けっこう好きなんですよ。

──タイアップのようにテーマを与えられて曲を作るのと、自分の内側にあるものを曲にする作業、どっちが作りやすいものなんですか?

お題があったほうが圧倒的に作りやすい。やっぱり自発的に作る曲は、よほどいいアイデアが降ってこない限りいつまで経っても納得いくものはできないので。変な言い方ですけど、お題があるほうが楽ではありますね。それにタイアップ曲の場合はクライアントにジャッジを求める場面があるじゃないですか。

澤部渡

──ちなみにタイアップ曲をクライアントに提出してボツになることもあるんですか?

それがほとんどないんですよ。1度提出したものを自分から「ごめんなさい、やっぱりこっちにしてください!」ということはあったけど。歌モノでリテイク食らったことはないかも。アレンジ面だったり劇伴やCM案件とかだとありますけどね。なので少しずつですけど自信は付いてきたかもしれません。今回、「駆ける」を作れたのは相当よかったと思います。お題に対していい球を打ち返せたのかなって。

──ほかのアーティストさんへの楽曲提供はどうですか?

人に対して曲を書くのも楽しいです。向こうも「こういう曲が欲しい」と言ってくれるので、それに向かってがんばるって感じですね。

──なるほど。楽曲提供した作品の中で特に手応えのあったものは?

NegiccoのKaedeさんに提供した「あの娘が暮らす街(まであとどれくらい?)」かな。それとSOLEILに書いた「卒業するのは少しさみしい」も自分では相当気に入ってます。

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納期に追われる