skillkills|“KING OF BEATS”として挑み続ける姿勢

2011年に結成され、変拍子を駆使したテクニカルな演奏で唯一無二のサウンドを生み出し続けているロックバンドskillkills。これまでヒップホップレーベル・BLACK SMOKER RECORDSから作品をリリースしたほか、向井秀徳(ZAZEN BOYS、KIMONOS)とK-BOMBを客演に迎えた楽曲「The Shape of Dope to Come」を発表するなど、ジャンルを超えた活動を展開してきた。近年ではバンドのブレインを務めるスグルスキル(B)が「ケンタッキーフライドチキン」や任天堂「Miitomo」などのCM曲を制作したり、リズムキルス(Dr)がドレスコーズにドラマーとして参加したりと、メンバーそれぞれが活躍の場を広げつつある。

音楽ナタリーでは昨年10月にベストアルバム「THE BEST」がリリースされたことと、間もなくスタートするレコ発ツアーの開催を記念してスグル、リズム、マナブスギル(Mic)にインタビューを実施。バンド結成からベストアルバム「THE BEST」発表までを振り返ってもらいつつ、“KING OF BEATS”として挑み続ける姿勢について、たっぷりと語ってもらった。

取材・文 / 高橋拓也 撮影 / 後藤倫人

俺ら音源出し過ぎなんじゃね?

──まず昨年10月発表のベスト盤「THE BEST」についてお話を伺いたいのですが、本作はリズムキルスさんが新しいドラムセットを購入し、その使用感を試すために過去楽曲を録音したことがそもそものきっかけになったそうですね。

スグルスキル(B) そうですね。ドラムとベースだけで15曲ぐらい録ったんですけど、特に使うことなくしばらく経って。それで5枚目のアルバム「The Shape of Dope to Come」を2017年2月にリリースしたあと、もっとミックスの勉強をしたいと思って、その音源を使った配信シングル「FLASH BACK CONTINUE」シリーズを作ったんです(参照:skillkills、大胆アレンジした再録曲を6カ月連続リリース)。

リズムキルス(Dr) 実は「The Shape of Dope to Come」を出したあと、「俺ら音源出し過ぎなんじゃね?」ってスグルが言い出して(笑)。それでしばらく新作は出さないことにしようって決めたんですけど、けっこう早く「やっぱ作りたい」って話になってね。

マナブスギル(Mic) もう禁断症状じゃん(笑)。

リズム それで過去曲を新たにアレンジして再録する「FLASH BACK CONTINUE」の制作が始まったんです。でもこの頃、ベスト盤を作る予定はなかったんですよ。

スグル 当初は新しいアルバムを出そうと思ったけど、だんだん「FLASH BACK CONTINUE」シリーズのミックスをさらにやり直してみたくなってきて。で、ミックスをやり直すだけじゃなく歌もまた録り直して、曲を追加したのが「THE BEST」。歌詞も相当変えたよね?

──例えば「G.S.K.P」は冒頭4行目以降、すべて変更されていますね。

リズム 「Debut」は全部変わってるし。

マナブ いい機会だと思ってね。俺も歌とかグルーヴに対する捉え方が変わってきたから。どの楽曲も歌い方がなじんでるかと思ったんですけど、全然身に付いてなかったから大丈夫でした(笑)。

──このベスト盤の収録曲はどういった基準で選ばれたんでしょう?

スグル 最初の試し録りのとき、ドラムとベースの重ね方が今聴いてもいいと思うやつを選んだんです。まずはそれを候補に入れて、そこにベスト盤に合いそうなものを加えました。

「動き出したら絶対なんか起きんぞ!」skillkills始動前夜

──ベスト盤が完成したこの機会に結成から現在までを振り返ってみたいのですが、もともとスグルさんとリズムさんがAlan Smithee、マナブさんがAtoZusaЯiというバンドで活動していて、のちに活動拠点となる東京・吉祥寺WARPで競演したことがskillkills結成のきっかけになったそうですね。この2組の音源を聴いてみたのですが、どちらもskillkillsとはかなり異なるサウンドでした。

スグル 当時はとにかく実験的なことを試してたんです。

マナブ AtoZusaЯiではギターとボーカルをやってたけど、あくまでギターがメインで「別に歌うことねえな!」って思ってたし。

──そこからskillkillsの前身にあたる、GeGeGeGeQuartetとしての活動を2006年にスタートさせました。当時のライブ映像がYouTubeに残っています。

リズム (ライブ映像を観ながら)うわー懐かしい!

マナブ 俺めっちゃギター弾いてんじゃん! アームまで使ってる。

スグル 一番の迷走期ですよ(笑)。

──この頃は皆さんのほか、サックス奏者を加えた4人体制だったんですね。

マナブ 即興音楽みたいなことやってたよね?

スグル そうやね。だんだん変な感じになって、結局2010年に解散したんです。

──GeGeGeGeQuartet解散を経て翌2011年、ヒカルレンズ(Key)さんを迎えた4人体制でskillkillsが結成されました。

スグル ヒカルも前のバンドのメンバーだったんですよ。GeGeGeGeQuartetはサックスが抜けたあとしばらく3人で活動してたんですけど、最後の最後でヒカルが加入して。そこから名前を変えて仕切り直すことにして、1年ぐらいスタジオに入って練習してました。

──今ではスグルさんがすべての楽曲を手がけていますが、当初は皆さんでアイデアを出し合っていたそうですね。

スグル そうそう。skillkillsを結成してからは全部自分が作曲する形が定着したんです。

──そして2011年12月には初のアルバム「skillkills」をヒップホップグループTHINK TANKが主宰するBLACK SMOKER RECORDSから発表します。現在のskillkillsはヒップホップ調のサウンドを生音で表現し、そこにラップスタイルのボーカルを乗せた作風ですが、この頃はバンド色の強いアプローチになっています。

1stアルバム「skillkills」
2011年12月24日発売
収録曲
1stアルバム「skillkills」
  1. skillkills
  2. Nui
  3. aba4 ☆
  4. MxFxNxGxU
  5. 19999
  6. Re:bug
※☆は「THE BEST」収録

マナブ 今聴くとロックなサウンドだよね。ギターの音も入ってるし。

──マナブさんはこの頃ボーカルとギターを兼任してましたね。

マナブ でもギターのフレーズは複雑じゃなかったから、そこまで大変じゃなかったですよ。

スグル 俺が考えたフレーズを弾いてもらうようお願いしてたんですけど、ギター初心者だから簡単なものしか作れなくて。

──歌詞についてもまだラップ調ではなく、シンプルに単語を列挙するようなものでした。

マナブ 単語をスパスパッとリズムに当てはめていく、みたいなね。あとは気合い入れて叫んでました。なんせ楽器隊の音がデカかったから。

リズム 結成までの1年間、週5回ぐらいで毎回4時間近くスタジオに入ってたんですよ。もう周りが見えてなくて、とにかく初期衝動が詰まってた。

スグル 「俺たち、スゲーことはじめたんじゃね?」「動き出したら絶対なんか起きんぞ!」って感じでね。

シンセ&キーボード4台でも
音が足りない

──皆さんの気合いが反映されたため、1stアルバムは勢いのある作風に仕上がったんですね。翌2012年には2ndアルバム「BLACK MUTANT」をリリースしましたが、この時期のライブはマナブさんがシンセも兼任するようになって。

2ndアルバム「BLACK MUTANT」
2012年12月26日発売
収録曲
2ndアルバム「BLACK MUTANT」
  1. skillillkills
  2. Chloroform
  3. Teenage Mutant
  4. π
  5. Count 2.9 ☆
  6. P.N.P.
  7. Back Spin ☆
  8. Hungover ☆
※☆は「THE BEST」収録(「Hungover」は「Hangover」に改名)。

マナブ そんな時期あったね! 俺の周りむちゃくちゃなことになってた。

スグル 曲作りでどんどん音を重ねていったら、必要な音色が増えたんです。ライブでも演奏できるようシンセを追加したら、ヒカルだけじゃ手が回らなくなっちゃって(笑)。

マナブ あいつ4台くらい使ってたもんね? それで俺も担当することになったんです。

スグル そのあとにはさらにサンプラーも加えたし。

マナブ で、だんだんギターの音が少なくなって。

──マナブさんの歌唱方法も、ラップスタイルに変わりはじめましたね。

マナブ この頃から歌い方を考えるようになったけど、まだ言いたいことがなくて。歌詞を見直してみると、とにかく言葉を羅列したかったってのが見て取れる。(「BLACK MUTANT」のブックレットを見ながら)「こいつ何言ってんだ?」ってことばっかり書いてるな(笑)。

──ある記事でインタビュアーから、このサウンドに歌を乗せるのは難しくないか質問されていましたね。

スグル ラッパーの人からも言われまくりました。よく乗せられるよね。そもそも歌入れること考えて曲作ってないのに(笑)。

マナブ そりゃ最初は考えまくったよ。「とにかくやろうぜ」って気持ちで乗り切ったっす。

──「BLACK MUTANT」は1stアルバムの延長線上にある作品でしたが、2014年に自主レーベル・ILLGENIC RECORDSを立ち上げての発表となった3rdアルバム「ILLGENIC」はより聴きやすい、ポップなサウンドに変わりました。

3rdアルバム「ILLGENIC」
2014年1月22日発売
収録曲
3rdアルバム「ILLGENIC」
  1. (((())))
  2. CHEWING GUM ☆
  3. DON’T THINK
  4. G.S.K.P. ☆
  5. DEBUT ☆
  6. ELECTRIC DANDY BAND
  7. HOODIE HOODIE MEN
  8. CHI-PA-PA
  9. 24-7
※☆は「THE BEST」収録

マナブ このアルバムからギターの音が入ってないんです。

スグル 「ILLGENIC」の曲はiPadで作ったんですよね。MPC(AKAIのパッドコントローラー型サンプラー)のパチモンみたいなアプリがあって、それに内蔵されてる音色がすごいポップで。それで作風もポップになったのかも(笑)。「BLACK MUTANT」まではカセットテープのマルチトラックレコーダーで作ってたんです。

──あえてこのレコーダーで作り続けたのはなぜだったんでしょう?

スグル 当時はそれしか録音機材を持っていなくて。

──スグルさんはソロ名義GuruConnectのライブでもカセットテープを使用していたので、特別愛着があるのかなと思っていたんです。

スグル 全然ないっすね(笑)。ライブはテープを短く切って貼り付けたループ音をたくさん作って、それをスイッチングしていく、っていうものだったんですよ。だけど機材トラブルが多くてやめちゃいました。カセットテープ自体は今も好きですけどね。

──歌詞もこの頃からマナブさんのスタイルが確立され、話し言葉が増えましたね。

マナブ 曲が完成するスピードがすごく早くて、急いで歌詞を作らないといけなかったんです。

スグル 確かに早かった。「BLACK MUTANT」のレコ発ライブで「ILLGENIC」の収録曲を全部披露したし(笑)。それでレコ発のたびに次回作の曲を演奏しようって決まりも生まれちゃって。いつもライブ2週間前に2人に曲を渡してね。

マナブ で、俺がバーっと歌詞を書くっていう。ストックしてた歌詞が使えるってこともあるんですけど、曲をもらったタイミングで思い浮かんだ言葉で一気に書き上げることが多いっすね。だから口癖みたいなワードが出てくるようになったんだと思う。「ILLGENIC」以前はもっと抽象的だったり、聞こえのいい言葉を選んでいたんですけど、ざっくり言ったほうがグルーヴが出るってことがわかって。ライブ中リラックスできるようになったのもそこからかも。

リズム 以前は「力むな、力むな」って呪文のように言ってたよね。