俺たちはメジャーデビューを追いかけた
──活動自体の実感がなくなっていた?
山内 事務所に入ってから、今まで俺らがやってきたことをマネージャーがやってくれはるんで、自分たちがやることが少なくなっていって。それはもっと売れてる人からしたら当たり前のことかもしれないけど、そういう過程の中でどんどん自分がバンドを動かしている実感がなくなってて、ヤバいなと思ってました。
──なるほど。
山内 もっと言うと去年の俺らの勢いって、周りが勢い付かせてくれたものにすぎないと思ってて。今はメジャーデビューの敷居がすごく低くなっていると思うんです。俺らが音楽に携わるより前の時代は、メジャーデビューしてるバンドは売れてるバンドだった時代。でも今はバンドマンの友達を何人か挙げたらそのうち何人かはメジャーにいる、みたいな感じだと思うんです。CDのセールスが数千枚レベルのバンドでもメジャーデビューができて、敷居が昔ほど高くない。そんな中で、周りの大人は俺たちが“十代でメジャーデビューした”ということに、スペシャリティを持たせてくれすぎたんだと思うんです。そこは完全に周りに任せていた俺にも非があると思うし、自分の持ってる力以上に振舞ってしまっていた部分があります。
──そうだったんですね。
山内 たぶん去年までの俺らの勢いって、なんか知らないものが出てきたから面白かったんですよ。でも今どれだけ、俺ら自身があの頃より面白いことをして、それを周りの大人が面白がってプッシュしてくれても、俺らは“名前を知ってるバンド”になってしまった。サーキットイベントでお客さんが来てくれるのも、名前を知ってるから。一歩入り込むときの“得体の知れないもの感”がないんですよね。「ああ、なんかいろいろやってるバンドやろ」「なんか知ってる」みたいな。きっと俺らはすでに1回花が咲いてしまったから、さらにもう1回花を咲かすハードルはものすごく高いんです。だからそこをどうするかっていうのが今後の命題だと思ってます。
細川 俺もまったく同じ考えです。完全にそれに尽きますね。「未確認フェスティバル」(2015年)で優勝して、そこからだいたいこんな感じでバンドが進みますよっていう道筋があって。そんな中、俺たちはすごくふわふわしてたと言うか。バンドが大きくなっていく状況にメジャーデビューが付いてきたんじゃなくて、俺たちはメジャーデビューを追いかけた。
山内 そう。周りが用意してくれた状況を追いかけ続けたっていうのがめっちゃ悪いと思うんですよ。ただこれまでは「用意してくれた状況に追い付くためにどうすればいいんだろう」とばかり考えていたんですけど、今は自分たちの状況を俯瞰で見られるようになったのが一歩成長したなと思っていて。今俺は新しいCDを作ってるんですけど、今までだとそういう状況に対して自分の制作自体も焦ってしまってたんですよ。「次のCDで、今の自分たちが置かれている状況に追い付かないといけない」みたいな。でも今は「追い付かなきゃ」って言うんじゃなくて「周りがそんなこと考えてくれてるんやったら、俺もそれだけ面白いことしなきゃな」っていう感じ。そういうふうに、ラフに考えられるようになりました。
ちゃんと俺らがモノを言えるようになった
──“周りが用意してくれた状況を追いかける”という状態から抜け出せた要因はなんですか。
山内 メジャーデビューから時間が経ったからじゃないですかね。20歳を迎えたとかそういうことは関係なく、やっとメジャーデビューして気持ちが落ち着いたってことなんかなと思いました。
細川 俺もそうですね。今はけっこう、自分たち発信で活動できるようになったし、ちゃんと俺らがモノを言えるようになったと言うか。
山内 俺たちのマネージャーは、今までバンドを担当したことがなくて、ライブハウス文化に触れてこなかった人だったんですよ。アイドルとか、いわゆる芸能現場をやってきてて。だからこそ俺らとの考えのズレがたくさんあった。でも逆に違う畑の人がこういうジャンルに来るのは面白いなって思って組んだのが最初なんです。まあ、ある程度ズレがあることは覚悟してたんですけど、今思うとそこへの葛藤はすごくデカかったなあと思いますね。
──ということは、一緒にやってて面白い部分も大きいってことですよね。
山内 そうですね。これはうれしいことでもあり、悔しいことでもあるんですけど、俺たちのお客さんは同世代とか自分たちより年下が多くて。その中にはあまりライブハウスに行ったことがない人も多いんです。
細川 「ライブハウスデビューはShout it Outです」みたいな人もいるし、そこの層に届けることのできるプロモーションはすごいなって。Twitterとかで、全然音楽に興味がない人がShout it Outのことを知ってくれてると感じることがあるんです。例えばプロフィールに「RADWIMPSとShout it Outが好き」って書いてある人がいて、「そこと並ぶ!?」っていう(笑)。俺らってたぶんそこまで売れてないのに、めっちゃ売れてるって勘違いしてる人がいたりだとか。
山内 俺は高校生の頃から「今までCDやテレビ、ネットでしか音楽に触れてこなかった人を現場に連れてくるにはどうすればいいのか」ということを考えていて。今はYouTubeに違法でアルバムがまるまる上がってることもあって、無料で音楽が聴けてしまう時代ですよね。もちろん音楽をやってる以上そこに対してアンチでいたいですけど、俺らしかり、そういうアプリケーションに負けてライブに足を運ばせられないのはバンドに力がないからだと思います。時代的にこれまでのやり方じゃダメだなと思ってるからこそ、芸能現場の人と手を組んだっていうのもあって。「現場に来てもらうためにはどうすればいいか」を考えて、今の道を選んだんです。
──ではその頃の思いは叶っているんですね。
山内 はい。普段ライブハウスに足を運ばないような人が来てくれてるので。そこに関しては芸能のノウハウってすごいなって思いました。事務所に入る前は自分の中に新しいアイデアが浮かんだとしても、ちょっとでも「今まで自分が作り上げてきたものに反するな」と思ったらやりたくなかった。でもマネージャーはそれを無下にするような勢いで新しいアイデアをぼんぼん言ってくるんですよ(笑)。
面白い化学反応が生まれるから一緒にやってる
──マネージャーさんの考えるアイデアの1つひとつが、Shout it Outの名前をここまで広げたと。
山内 それは絶対にそうですね。別にほかと違う大きなことをしたわけじゃなくて、ちっちゃな方向転換の1つひとつがその結果につながったんだと思います。
細川 俺はメディアにたくさん出させてもらったことも要因だと思います。テレビやラジオとか、プロモーションのためのスケジュールがめちゃくちゃ多かった。去年はリリースタイミングでツアーを回りながらも、ラジオに出る機会やインタビューをしてもらえる機会があって。プラスのことやとは思うんですけどね。
山内 去年はほんますごかったよな。1日ラジオ収録7本、取材2本みたいな。ライブの日も、朝ラジオを3本収録してから会場入りでしたし。その結果半年間ぐらい休みが全然なくて、精神的にも肉体的にもしんどくなってしまって……去年の末に「バンドを辞めたいです。つらすぎます。もう曲出ません。ライブもしたくなくなりました。大人のペースに巻き込まれるのはもう散々です」っていうことを伝えて、でかい話し合いをしたんですよ。
細川 俺もその頃はつらかったですね。
──去年はメンバーが2人脱退するというバンドにとって大きな出来事もありましたけど、そこで辞めずに踏ん張れたのはなぜですか。
山内 序盤の話に戻りますけど、友達にツアーの地方公演に呼ばれるようになったのがその頃なんです。アイツらのツアーに穴を空けるわけには絶対にいかないし、メンバーが抜けたから解散して「やっぱ出れへんごめん」っていう結果には絶対にしたくなかった。俺、普段こんなこと思わないんですけど、今思い返すと「やっぱ仲間の存在ってすげえな」って感じますね。主に同い年のバンド仲間に関してなんですけど、そう思わせてくれる存在はほかにはいないなって。俺、周りの友達に恵まれすぎて……千弘もそうですけど、前のメンバーもめっちゃいいヤツだったから今でも感謝してるし。もし人間関係が一新して恵まれなくなった瞬間、俺はもう樹海にいますよ。
細川 それもうダメなヤツやん(笑)。
──今のような自分たち発信の活動ができるようになったのはなぜですか?
山内 どこからかキレるようになったからです。俺キレたらめっちゃ性格悪いし、めっちゃ言うんですよ。
細川 なかなか……そうですね(笑)。
山内 でもキレてるぐらいがちょうどいいと思うんです。だからこそ、今はマネージャーともお互いに言い合えてますし。マネージャーは“見え方”を気にする人なんですけど、俺“見え方”っていう言葉が嫌いでめっちゃ反応するんです。「俺らがやりたいことやって、見えるものが見え方やろ!」と思うんですけど、そんなマネージャーと俺らがぶつかり合った結果、めっちゃ面白い化学反応が生まれたりもするんです。そういう、おもろいことがあったから一緒にやってます。そんなすぐに「はい、さようなら」ってするような関係性ではないですし。
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バンド結成以来の“めっちゃ吸収する期”が来た
- Shout it Out「青年の主張」
- 2017年3月8日発売 / ポニーキャニオン
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[CD]
2800円 / PCCA-04474
- 収録曲
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- 大人になれない
- 17歳
- 雨哀
- 道を行け
- DAYS
- 夜間飛行
- トワイライト
- 青春のすべて
- 影と光
- 青年の主張
- エンドロール
- 灯火
- Shout it Out(シャウトイットアウト)
- 2012年4月に高校の軽音楽部に所属していた山内彰馬(Vo, G)らを中心にバンドを結成し、ライブ出演やコンテストへの出場で注目を集める。2015年8月には「未確認フェスティバル」で初代グランプリを獲得。同年10月に細川千弘(Dr)が加入した。12月にはタワーレコード内の新レーベル・Eggsから第1弾アーティストとしてミニアルバム「Teenage」を発売。2016年7月にはメジャーデビューシングル「青春のすべて」をポニーキャニオンよりリリースした。9月にはギタリストとベーシストがバンドを脱退し、山内と細川の2名体制にサポートメンバーを迎える形で、新体制での活動をスタートさせる。2017年3月に初のフルアルバム「青年の主張」を発売。12月9日には大阪・BIGCAT、2018年1月20日には東京・LIQUIDROOMで自身最大規模のワンマンライブ「GOODBYE MY TEENS」を開催する。