ナタリー PowerPush - 柴田淳
「ありのままの自分を出しきった」しばじゅん赤裸々インタビュー
ロックがやりたいのに……
──柴田さんはいつもどうやって曲を作っているんですか?
締め切りを与えられてから「書かなきゃ!」っていう感じで作ります。
──追いつめられてから。
そう。追いつめられながらピアノを弾いたり、お風呂で鼻歌を歌ったりしてるといつの間にかできてるみたいな感じですね。意識するとメロディが出てこなくなってしまうからテープを録音状態にずっとしておいて、自然に出てくるものを全部録っておくんです。で、それをあとから聴き返すことで、ああこういう曲が出てきたんだなっていうことがわかるっていう。
──こういう曲を作ろうみたいな意識を持って作ることはないんですか?
ないですね。そういうことができたらヒットしてると思う(笑)。ただ自分の中ではロックをやりたいっていう気持ちはずっとあるんですよ。これまでにプロデューサーの松浦晃久さんがけっこう聴きやすいロックを作ってくれて夢が実現している部分はあるんですけど、ほんとはもっとたくさんやってみたいんです。吠えるだけがロックじゃないと思うから、私にもできるものがあると思うので。
──リスナーとして聴いてみたいですけどね、すごく。
でもやっぱり作れないんです、そういう曲は。普段から超カッコいいロックバンドを探すのが趣味で、気に入った人たちがいればCDを大人買いして、それを車の中で爆音で聴いてるんですけどね。自分からはそういう曲は出てこない。先輩のバンドマンには「淳ちゃんのすごいところは、いろんなロックを聴いているのにそれが自分の曲に一切反映されないところだよね」って言われますから(笑)。
──ロックな曲を誰かに提供してもらうっていうのはナシなんですか?
そこはねえ、自分の曲でやれるのが一番充実感があると思うんですよ。ここまで自分で作詞作曲をしてきて、ロックな曲のときだけ人に書いてもらうっていうのは説得力がないって言われちゃうような気もするので。理想としてはミュージシャンの人と仲よくなって、その人たちとバンドを組んだりすることなんですよね。でもそういう知り合いもいないですし、そもそもミュージシャンの友達がぜんぜんいないので。あはははは(笑)。
ダークなほうが充実感がある
──柴田さんって面白いですよね。インタビュー冒頭で「私には知名度がない」って力強く言い切る人に会ったのは初めてです。
変でしょ、私。初めて会った人はみんなビックリします。今回のプロモーションからはあんまりしゃべらないようにするつもりだったんですけどねえ。
──もうかなりしゃべってますけど(笑)。
映画の「モテキ」を観てたから、「あのナタリーだ!」と思ってちょっとうれしくなっちゃって(笑)。カバーアルバムでご新規のファンが付いてくれたので、ここがイメージチェンジのチャンスだと思ったんですけど、ちょっとムリみたい。
──いやそのキャッチーなキャラクターはすごく魅力的だと思いますよ。ただ、柴田さんが作る楽曲ってヘビーだったりダークだったりっていう印象が強いんで、ちょっと不思議な感じはします。
そうですよね。ラジオに生出演するとたまに汗かくくらい盛り上がってしゃべっちゃうことがあるんですけど、その後に流れるのがドロッドロな曲だったりして。オチだろうこれ、みたいな(笑)。
──どうしてそういうギャップが生まれるんですかね?
自分の根っこは今しゃべってるみたいにパッパラパーな感じだとは思うんですけど、部屋にこもって曲を作ったりしていると、どうしてもそういうモードになっちゃうんですよね。それに人間って掘り下げていけばみんな暗い部分を持っているような気がしてて。それがあるからこそ笑顔になれるんだとも思うし。
──なるほど。だから心のダークな部分をフォーカスして描くと。
今回のアルバムには「嘘」って曲があるんですけど、それはサウンド的にはものすごくポップなんです。でも歌詞がすごい内容で(笑)。自分としてはそうしないと気持ちを保っていられないというか。
──陰と陽のバランスを取る感覚なんですかね?
そうそう。どっちも私ではあるんですけど、そうやって帳尻をあわせずにはいられないというか。ポップな曲にポップな歌詞を乗せて、それを笑顔で歌うっていうのは私にはムリなんです。小さい頃、男の子のように育てられていたので、ちょっとキャピキャピした感じが苦手っていうのも影響しているのかもしれないですね。
──普通なら隠しておきたい負の感情までをも曲にしてしまう柴田さんのスタイルはすごく人間らしい気がしますけどね。そこが強烈な個性になっているとも思うし。
なるほど。じゃそれでいいのかな(笑)。怖いっていう感想を持たれたとしても、かわいい曲ばかりやるよりもダークな10曲をやったほうが充実感がありますしね。一時期、どこかでいい子になろうとしてた自分もいたんですよ。デビュー当時はバシッと言い切ってたことも、どう受け取られるかっていうことを気にしてオブラートに包むようになったりして、毒が抜けてきたというか。でも今回のアルバムは、そういえば私ってこういう作風だったよなっていろんなことを思い出せた作品にもなった気がしますね。
- ニューアルバム「あなたと見た夢 君のいない朝」 / 2013年3月27日発売 / ビクターエンタテインメント
- 初回限定盤 [CD] / 3780円 / VIZL-525
- 通常盤 [CD] / 3150円 / VICL-64009
収録曲
- ノマド
- あなたの手
- 雲海
- 恋人よ
- 冷めたスープ
- 嘘
- 朝靄
- 魔女の話
- 道
- キャッチボール
柴田淳(しばたじゅん)
1976年生まれ、東京都出身の女性シンガーソングライター。幼少期からピアノを習い、音楽に親しみながら育つ。2001年10月にシングル「ぼくの味方」でメジャーデビュー。2002年3月に1stアルバム「オールトの雲」を発表する。以降もコンスタントに作品を発表し続け、2005年9月には初のシングルコレクションアルバム「Single Collection」をリリース。2008年9月には映画「おろち」のテーマソング「愛をする人」を書き下ろし、音楽ファン以外の注目も集めた。透明感のあるボーカルと、女性の情念を繊細に描いた詞世界が支持されている。CHEMISTRYや中島美嘉らへ楽曲提供を行うなど、作曲家としても活躍中。デビュー10周年を迎えた2012年10月に、初のカバーアルバム「COVER 70's」を発表し、ボーカリストとしても高い評価を得る。2013年3月に9枚目となるオリジナルアルバム「あなたと見た夢 君のいない朝」をリリース。