椎名林檎「椎名林檎と彼奴等がゆく 百鬼夜行2015」 PR

椎名林檎「椎名林檎と彼奴等がゆく 百鬼夜行2015」インタビュー|12年ぶりツアー、リオ閉会式、カルテット主題歌 マルチに活躍する“プロお母さん”の本音

皆さんの人生を入れたんだよ! 私のじゃないからね!

──「雇われ仕事をしないでほしい」という言葉を聞いて、「まだそうなっちゃうのかあ」と?

そう。その誤解をどう解けばいいのか。「おとなの掟」(参照:椎名林檎書き下ろし曲を松たか子×満島ひかり×高橋一生×松田龍平“カルテット”が歌う)についても「ここまで林檎の色が出せるの、すごい!」みたく言ってくださる意見も目にしましたけど「オーダー通りにやってるだけです!」「むしろ色を出すってどうやるの?」って。

──デビュー19年目とはいえ、いまだそういう葛藤ってあるんですね。

お恥ずかしい。というか、ここ最近が一番高まっているかもしれません。まあそういう方がご覧になれば、理屈の通る材料がそろっていて、こちらにはこちらの理屈の通る材料がそろっているというだけの話ですよね。

──でも「おとなの掟」はともかくとして、「目抜き通り」の歌詞については、僕もやっぱり椎名さんらしさというか、椎名さんだからこその金言があふれているなあと感動しましたけどね。人生訓と言っちゃうとちょっとおっさんくさいけど。

……ただ「目抜き通り」だって、別に私自身が不特定多数の方々へ宣言したいことを書いたわけではありませんもの。そう思われていたらすごく恥ずかしい!「違うよ? 皆さんの人生を入れたんだよ! 私のじゃないからね!」と叫びたい。

──仮にそう思われたとしてもいいじゃないですか? だめ?

だめ。やだ。

──即答だ(笑)。つまりもう完全にプロの職業作家として、椎名さんと作品を別のものとして捉えてほしいんですね?

そう。

──ピンクレディーの「UFO」を書いたからって、誰も阿久悠のことを宇宙人だとは思わないだろうと?

そうそれ! 阿久先生と都倉先生のような人材が切実に必要ですよね。私は現代の阿久悠もしくは都倉俊一に出会うべく、10代の頃から暫定的に両方担当しつつ勉強しているようなつもりですもの。

キャリアのほとんどがお母さんだった

──ただ椎名さんは非常にアイコニックなシンガーでありパフォーマーでもあるぶん、ある程度まで同一視されるのは仕方がない部分もあるのでは?

だって素晴らしい歌手が歌ってくださっている曲についてまで言われちゃうのは残念ですよ。だいたい私、キャリアのほとんどがお母さんだったんですよ?

──お母さん?

そう。お腹空かせた人に「チンして食べなさい」とか、台所で何か見繕って“あり合わせ”を食卓に出すとか。それを家でも仕事場でもずっとやってきたつもりですよ。「今、足りない栄養素は何なのか?」「今、何がおいしいのか?」と食べる人の健康を考えている。そういうとき、お母さんっていちいち「うちのはお隣と違うんだから!」「ほらお母さんのこだわり、見とき!」なんて言わないじゃないですか?

──そんなお母さんの“あり合わせ”は重過ぎて嫌だ(笑)。

でしょ?(笑) せいぜい「味、足りない? 何か足す?」程度でしょ? 別に己の味を見せつけたいなんて思っていないんですよ、お母さんだから。そんなのどうでもよくて、そのときお腹いっぱいになってくれたらそれで十分なの。「そんな。お母さんの人生のことはもう言わないで?」って。

──ちょっと意外でした。というのも「百鬼夜行」の「熱愛発覚中」では「本能」のMVで世間に広まったナース姿を披露していたじゃないですか。ある種のセルフパロディと言うか、ブームを巻き起こした当時のルックをあそこまで痛快に相対化できるなんて、「もう椎名林檎、無敵だなあ」と思っていたので。そういう葛藤は予想外だったというか、むしろとっくに超越しちゃっているのかと思っていました。

あれはお客さんが指を指して「あはははは!」ってあざ笑ってくださったらいいなあと思っただけなので。ライブにいらっしゃるお客さんのことは信頼しているし、何も心配していないから、誤解を恐れず“プロお母さん”としてああいうプロレスなり劇中劇ができるんです。心配なのはライブに来てくださる以外のお客さんですね。

いっそもうヤンキーでいい。いや、ヤンキーで行こう

──まあそれほどの不特定多数に作品が聴かれるようになったという証でもあるわけで。

だから単発で曲を評価してくださる声の中には「あんなに私生活では悪い女だけど仕事はしっかりしてるよね」みたいなバイアスもありますよね。救いようのないヤンキーが、人知れず川で溺れている子犬を助ける瞬間みたいな評価でしょう。

──(笑)。

「本当は中身、ただのお母さんです」と。昔だってスターとチョメチョメみたいなでっち上げ記事書かれても、あまりに慌てて否定するとお相手の方を「大っ嫌い!」と主張するみたいで気が引けたから何も反論しなかっただけだし、あと妊娠後期にも……。臨月あたりになると足元が見えないから、よく怪我しちゃうんですよ。で、私もあるとき、怪我のせいで足が痛くて靴が履けなくなって、片足を引きずって家の前を歩いていたら写真を撮られて、「林檎、住宅街で奇行」みたいな記事にされちゃって(笑)。裸足よりまずお腹が大きいのを突っ込んでください!と。

──そう言えばそんな記事もありましたねえ。

真に受ける方もいらっしゃるんですものね。やっぱり面白いですものね。むしろそういう記事を楽しむ方々に対しては、いっそもうヤンキーでいいやって。いやヤンキーで行こう、と。それでむしろご贔屓さんが「私はわかってる! 林檎のこと誰よりも知ってる!」って応援してくださるという循環につながるのでは?と。それ最高に幸せじゃんと思って(笑)。

──今のくだりを聞いて改めて「百鬼夜行」を観直すと、音楽とは別の理由で胸にこみ上げてくるものがありますねえ。

あはははは!(笑)

──「百鬼夜行」は2枚組です。DISC 2「陰翳礼讃」には、DISC 1収録の公演と同じメンバーで行われたライブセッションが収録されています。

折角のスタメンだったので、ツアーが始まる前からこのセッションをやろうとマネージャーから提案されていました。ツアーでこぼれた曲の中から、弊社調べでお客さんのニーズが高いと思われる10曲を選びました。

──ああいうジャジーなノリもその時点で決めていたのですか?

最初は何1つ想像していなかったかな。ただ彼奴等(バンドメンバー)の美点をいろんな側面から残そうとは考えていました。結果、視覚的にも聴覚的にも、全員いつものリハスタの雰囲気に近くなりましたよ。

──地上波では「SONGS」こそ放送中ですが「僕らの音楽」はだいぶ前に終了してしまったし、こうした試みが10曲分も観られるのはぜいたくですね。

ああたしかに。そう捉えて楽しんでいただけたらうれしいです。

椎名林檎
「椎名林檎と彼奴等がゆく 百鬼夜行2015」
2017年5月31日発売 / EMI RECORDS
椎名林檎「椎名林檎と彼奴等がゆく 百鬼夜行2015」Blu-ray

[Blu-ray2枚組]
7020円 / UPXH-20053~4

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椎名林檎「椎名林檎と彼奴等がゆく 百鬼夜行2015」DVD

[DVD2枚組]
5940円 / UPBH-20186~7

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DISC 1 収録内容

椎名林檎と彼奴等がゆく 百鬼夜行2015

  1. 凡才肌
  2. やさしい哲学
  3. いろはにほへと
  4. 尖った手□
  5. 労働者
  6. 走れゎナンバー
  7. 神様、仏様
  8. 現実に於て
  9. 現実を嗤う
  10. SG ~Superficial Gossip~
  11. 熱愛発覚中
  12. とりこし苦労
  13. 至上の人生
  14. ブラックアウト
  15. 迷彩
  16. 罪と罰
  17. 夢の途中
  18. Σ
  19. 警告
  20. マヤカシ優男
  21. 名うての泥棒猫
  22. 真夜中は純潔
  23. きらきら武士
  24. 御祭騒ぎ
  25. 長く短い祭
  26. 群青日和
  27. NIPPON
  28. 逆さに数えて
  29. 虚言症
DISC 2 収録内容

椎名林檎と彼奴等による 陰翳礼讃2016

  1. 青春の瞬き
  2. 歌舞伎町の女王
  3. ちちんぷいぷい
  4. 密偵物語
  5. 殺し屋危機一髪
  6. カリソメ乙女
  7. おいしい季節
  8. 女の子は誰でも
  9. ありあまる富
椎名林檎(シイナリンゴ)
椎名林檎
1978年生まれ、福岡県出身。1998年5月にシングル「幸福論」でメジャーデビュー。1999年に発表した1stアルバム「無罪モラトリアム」が170万枚、2000年リリースの2ndアルバム「勝訴ストリップ」が250万枚を超えるセールスを記録し、トップアーティストとしての地位を確立する。2004~2012年に東京事変のメンバーとしても活躍したほか、2007年公開の映画「さくらん」では音楽監督を務めるなど多角的に活躍。2013年11月にデビュー15周年を記念してコラボレーションベストアルバム「浮き名」とライブベストアルバム「蜜月抄」を、2014年5月にはセルフカバーアルバム「逆輸入 ~港湾局~」を発表する。11月には椎名林檎名義では約5年半ぶりのオリジナルアルバム「日出処」を、2015年8月には15枚目のシングル「長く短い祭 / 神様、仏様」をリリース。10月からはソロ名義としては12年ぶりの全国ホールツアー「椎名林檎と彼奴等がゆく 百鬼夜行2015」を開催した。2016年8月にはリオデジャネイロオリンピック・パラリンピック閉会式のフラッグハンドオーバーセレモニーにて演出 / 音楽監督を担当。2017年1月からスタートしたTBS系ドラマ「カルテット」では、キャストの松たか子、満島ひかり、高橋一生、松田龍平が歌う主題歌「おとなの掟」を制作し大きな話題を集める。4月には椎名林檎とトータス松本名義の楽曲「目抜き通り」を発表。5月には全国ホールツアー「椎名林檎と彼奴等がゆく 百鬼夜行2015」の映像がBlu-rayおよびDVD化された。