他人に言えない愚痴を歌にした「めんどくさいのうた」
──2曲目「めんどくさいのうた」は長く歌ってきた曲ですよね。
大学生のとき、入賞したらお金をもらえるというコンテストがあって「これでお金もらえたらバイトしなくていいんだ」と思って応募した曲です。以来ずっとライブでは演奏してたんですけど、「朝」をシングルで出すときに、カップリングもさわやかな曲だと嘘くさくなるなと思って。「君の住む街」もカップリングに「べつに」を入れてて、CD1枚で「こいつ情緒ヤバくない?」と思われそうな組み合わせが気に入ってるんです(笑)。「今日飛べそうな気がする」と言ってる次の曲で「お前の優しさがめんどくさい」だの「あれこれうるさい」だの言ってるのが私っぽいなと。
──カップリングの妙味ですね。この曲を作ったきっかけは?
2009年に「閃光ライオット」で審査員特別賞をもらって、翌年CDを出したんですけど(「THE」2010年7月発売)、一緒にやろうって言ってくれる大人の方もいたのに「やらなくていいや」と思っちゃって。そのときは正直、音楽で食べていこうと思ってなかったから、友達と一緒にいたり、大学のサークルやバイトに行ってるほうが楽しかったんですよ。そういう時期に、よかれと思っていろんなことを言ってくれた人がいたんです。「もっとちゃんとやったほうがいい」「痩せたほうがいい」「服装はこうだ、髪型はああだ」と。でも自分が本気じゃなかったから、ただただめんどくさくて。そんなときに家で趣味として書いた曲です。Aメロの歌詞に、思い浮かぶ顔が具体的に1人ずついるんですよ。ここはあいつ、ここはあの子……って。この曲を歌うと当時の自分の環境も思い出します。
──だからリアルなんですね。
「お前の着ていた高いあのシャツ セールで今はイチキュッパだぜ」のくだりは、おしゃれな子に「それどこのシャツ?」って聞かれて「ユニクロだよ」と答えたら「もう大学生になったんだし、いいところのシャツとか2、3枚持っておいたほうがいいよ。メゾンキツネって知ってる?」って言われたんですよ。「ハア?」と思って調べたらすごく高くて、そいつを見返すためにどうにかメゾンキツネのシャツを安く手に入れようと思ってヤフオクを見てたら、1980円で出てたんです。結局買わなかったんですけど。そのエピソードです(笑)。
──「お前が目にする流行りの映画は いつかの映画の猿真似らしい」とか、僕の周りにも言いそうな人がいっぱいいます(笑)。
時期はもうちょっとあとでしたけど、「アベンジャーズ」のキャッチコピー「日本よ、これが映画だ。」が物議を醸したときがあったじゃないですか。私はそれを「ポップコーンを抱えてコーラを飲みながら映画館でみんなでわいわい観る映画だよ」っていうトンチがきいたコピーだと思ったんですね。でも、ある飲み会で「お前、あれどう思う?」「俺は日本の映画をバカにしてると思う」「わかる」とか議論が始まって、めんどくせー!と思って(笑)。そういう一時の感情で曲ができる年齢だったし、他人に言えない愚痴を家で歌にしてたんですね、たぶん。
──ずっと歌い続けているということは、花さん自身も達成感があったし、お客さんの評判もよかったんでしょうね。
ただ「めんどくさい、めんどくさい」と言ってるだけの歌だなって自分でも思うし、お客さんもそう思ったみたいなんですけど(笑)。「めんどくさいけどがんばろう」っていう歌じゃないし、ある意味救いがないんですけど、むしろそれが長く歌える秘訣になったのかなって。どんなポップなセットリストでも、これ1曲あれば私の性格が伝わるっていう大きな安心感があります。
マネージャーの言葉を使った「なんとかなるんで」
──「なんとかなるんで」は両極端の2曲をつなぐような曲ですよね。少し大人になった感じと言うか。これはいつ作ったんですか?
最近です。今、次のアルバムの制作をしてるんですけど、「君によく似た人がいる」はすごくいいアルバムで、私も気に入ってるだけに「次は何を作ればいいんだろう」と根を詰めて考えすぎちゃってたんです。「べつに」でテレビに出させてもらったときにも「ずっとこんなことばっかり考えてるヤツだと思われたらどうしよう」とか「これきっかけでライブに来てほしいのに、かえって嫌われちゃったらどうしよう」とか「歌詞も全部ひがみに捉えられちゃうのかな」とか思っちゃって。とにかく頭でっかちになって、全然曲が書けない時期があったんですね。そんなときマネージャーさんに言われたことをただ書いたのがこの歌です(笑)。普通はそういうときマネージャーさんは「わかるよ。でも今はそういう時期だからがんばろうね」って言ってくれると思うんですけど、私は“いい子いい子”されるのが嫌いなタイプなので、雑な扱いって言うと違うんですけど、マネージャーさんの不器用な優しさににすごく救われたので。メロは3コードでゆらゆら揺れて、お酒を飲みながら聴くと気持ちいいような曲調にして、リズム隊が気持ちよくハマる曲だなと感じたので、バンドで録りました。みんなの顔も浮かんだし、チーム感も出したくて、アレンジはみんなで考えました。
──自分の歌であり、同時に仲間で作った歌?
そんな感じはしますね。マネージャーさんの「○○なんで」っていう口癖がメロにはまったんですよ。それでひさびさにスーッと最後まで書けて。収録曲を決めるときにマネージャーさんにこの曲を送ったら、いつもは「もっとこうしたほうがいい」とか言われるんですけど、(マネージャーのモノマネをしながら)「いい感じに気が抜けてて、俺すごくいいと思うんだよ」って。自分のことだとは気付かなかったみたいなんですけど「この人、自分の言葉に責任を持ってるんだな」って思ったら、それも面白くて。リハでバンドメンバーの谷ぴょん(谷口雄 / Key)に「新曲いいね。でも歌詞がマネージャーさんっぽくない?」って言われて、さすがだなと思いました(笑)。
──「大丈夫 気の持ちようで どうにでもなるんで」という歌詞はフリーでやっている僕も日々自分に言い聞かせていることです。
私も自分に言い聞かせる曲でもありますね。私はフリーじゃないけど少数精鋭のチームで、大きな事務所にいるわけでもメジャーデビューしてるわけでもない。それでもいろんな仕事をさせてもらって、規模もちゃんと大きくなってるし。今の環境じゃないと、この曲は書けなかったと思います。もっと組織や規模感が大きくなったら「とりあえず そんな感じで」とは言えないかもしれないですね。
──シングルに収録される3曲は、今の花さんがヘルシーな状態にいるのがわかる3曲だと思います。
私もそう思います。ヘルシー花ちゃん(笑)。
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2018年は“横綱花”に
- 関取花「朝」
- 2018年1月24日発売 / dosukoi records
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[CD]
1200円 / DSKI-1002
- 収録曲
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- 朝
- めんどくさいのうた
- なんとかなるんで
- 関取花「朝稽古ツアー」
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- 2018年2月27日(火)
大阪府 梅田CLUB QUATTRO - 2018年2月28日(水)
愛知県 CLUB UPSET - 2018年3月8日(木)
東京都 渋谷duo MUSIC EXCHANGE
- 2018年2月27日(火)
- 関取花(セキトリハナ)
- 1990年12月18日生まれの女性シンガーソングライター。幼少期をドイツで過ごし、日本に帰国した後の高校時代より軽音楽部で音楽活動を始める。2009年には「閃光ライオット2009」で審査員特別賞を受賞し、2010年に初の音源となるミニアルバム「THE」をリリース。2012年には神戸女子大学のテレビCMソングに採用された「むすめ」が話題を呼び、同11月には「むすめ」を含む全6曲収録のミニアルバム「中くらいの話」を発表した。2014年2月には3rdミニアルバム「いざ行かん」を発売し、同年7月にFm yokohamaでレギュラー番組「どすこいラジオ」がスタート。2015年9月2日に初のフルアルバム「黄金の海であの子に逢えたなら」をリリースした。2016年10月にシングル「君の住む街」を、2017年2月にアルバム「君によく似た人がいる」をリリース。DJみそしるとMCごはん、カサリンチュへの楽曲提供なども行い、2018年1月にシングル「朝」を発表した。
2018年6月18日更新