ナタリー PowerPush - 関取花

「閃光ライオット」から3年 女子大生シンガーのリアルな姿を語る

純粋に音楽を楽しむことは素晴らしいこと

──そのことが影響しているのでしょうが、2年前にリリースされた「THE」と、今回の「中くらいの話」は音楽性もかなり大きく変化している印象を受けました。

インタビュー写真

前は「私はひとりだ」「誰も助けてくれない」みたいな、10代が抱える心の“えぐみ”を出してたんです。当時のふれ書きは「19歳のリアルを叫ぶ」でしたからね。でもツアーで全国を回っていると、いろんな方が遠くからわざわざ観にきてくださったりもするので、自分がひとりだなんて思わなくなっていて。曲として歌ったリアルが自分の中になくなってしまったんです。だから作る曲のスタイルも自然と変化していったんだと思います。昔のライブを観てくれていた人には、「前のほうがいい」「“えぐみ”がなくなって丸くなっちゃったね」って言われることもあるんですけど、だからと言って今、前の曲をやろうと思うかといえば、そうまでしてお客さんに来ていただくのは嘘になるなって思うんです。知らない間に、ものすごく強い決意が自分の中に生まれ始めていたのかもしれないですね。

──では、今の花さんが音楽を作る上で一番大事にしていることは?

私、洋服でも食べ物でも本でもなんでも、すごく魅力を感じたものに出会うとお尻がふわっとする感覚になるんですよ。ジェットコースターで落ちる感じというか。例えば電車の中で宮沢賢治の本を読んだりすると、(お尻を浮かせながら)もうずっとこういう感じで読んでて(笑)。そういう感覚に絶対嘘はないと思うんですよね。なので音楽を作る上でも、そういう感覚は大事にしたいなって思うんです。せっかく休んでいる間に、世の中を斜めに見るのではなく、子供のようにまっすぐ純粋に音楽を楽しむことがどれだけ素晴らしいことかっていうことに気付けたわけだし。今はもう頭の9割くらいはずっと音楽のことばかり考えてますね。

中くらいという場所ほど楽しいことはない

──本作には、現実をちゃんと見据えつつ、ピュアな感性で紡がれた楽曲が収められていますよね。中でも神戸女子大学のCMソングになっている「むすめ」は本当に素敵な曲で。

私自身、大学生なんですけど、いわゆる一般的な女子大生としての大学ライフをまったく送ってないんですよ。合コンにはもちろん行ったことないですし、髪も巻いたことがない。周りはバンドをやってる男の子ばっかりなので遊びに行くっていってもビールでも飲みながらしょぼしょぼくだらない話をするとか。でも、その一方で高校時代の友達なんかは、いわゆる一般的な女子大生になっている子もいて。ブランドのバッグ持って、髪巻いて。でもそれってどっちが良いとか悪いとかではなくて、どちらもその年齢ならではというか。そういうふうにタイプは分かれていくけれど、共通して一度くらい直面する問題は必ずあると思うんです。痩せたいとかもてたいとか、誰かへの感謝を忘れてしまったりだとか。この曲は自分も含め、そういうお年頃に対しての私なりの精一杯の愛と戒めを込めて作ったんです(笑)。

──「学べ、学べ」と繰り返し歌われていますよね。

説教しているように受け取られてしまっている部分もあるようなんですが、私にはそんな気はさらさらなくて。この曲で言う「学べ」っていうのは、勉強だけのことじゃないんです。夜遊びをしたり、変な男に引っかかったり、飲み会でゲロ吐いたり、そういうのも勉強だと思うんですよ。若くして起業したり、本当に勉強をがんばっていたり、海外へ突然行ってしまうような子も中にはいるじゃないですか。いい意味で自分なんてまだまだだなって思う機会がたくさんある場所なんだよ、今からでもなんでもできるよっていうことを言いたくて。

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──それが、前に進もうとしている娘を温かく見守る親の視点で描かれているのもいいですよね。

そこに関しては、私が就職をせずに音楽をやっていこうと思うって親に話したときの景色がそのまま反映されてる感じですね。親としてはもちろん不安な部分はあると思うんですけど、「やれるもんならやってみなさいよ」って言ってくれて。私としてはそれが一番欲しかった言葉だったんですよね。それを言われたらもうやるしかないし、逆に言えば、何かそこで結果が出せれば親にとっても誇れることになるだろうとも思ったので。大学という場所に入ると自分のことばかりが楽しくて、それまでサポートしてくれた人への感謝も忘れてしまいがちになると思うので、そういう部分もこの曲から感じてもらえたらなって。

──このミニアルバムに冠された「中くらいの話」というタイトルも、花さんの物事に対する考え方が明確に反映されている気がします。決してネガティブな意味ではなく、“中くらい”には大きな可能性が秘められているという思いがあるわけですよね。

そうなんですよ。私自身ものすごく貪欲なので、常にゴールがなくて、常に中くらいなんです。過去の思いを持ちつつ、さらにまだまだ先がある中くらいという場所ほど楽しいことはないなって思うんですよね。常に追いかけているものがあるのは素敵なことですから。

──花さんにとっての現時点での“中くらい”がたくさんの人に届くといいですね。

はい。「これしかない」ではなく、「これがやりたいから」っていう純粋な気持ちで作れた作品です。聴いてくれた人がみんな、お尻をふわっとさせてくれたら幸せですね(笑)。

ミニアルバム「中くらいの話」 / 2012年11月7日発売 / 1500円 / dosukoi records / DQC-973
ミニアルバム「中くらいの話」
収録曲
  1. 塀と宇宙
  2. 汽車のうた
  3. ラッターネ
  4. 石段のワルツ
  5. むすめ
  6. 10月のあなた
LIVE INFORMATION

2012年11月26日(月)
大阪府 南堀江knave
OPEN 18:00 / START 18:30

2012年11月27日(火)
京都府 京都ROOTERx2
OPEN 18:30 / START 19:00

2012年11月28日(水)
大阪府 天王寺おれん家
OPEN 18:30 / START 19:00

関取花「中くらいの話」レコ発ライブ

2012年12月14日(金)
東京都 下北沢GARAGE
OPEN 18:30 / START 19:00

関取花(せきとりはな)

1990年12月18日生まれの女性シンガーソングライター。幼少期をドイツで過ごし、日本に帰国した後の高校時代より軽音楽部で音楽活動を始める。2009年には「閃光ライオット2009」に出場し、審査員特別賞を受賞して大きな注目を集めた。2010年に初の音源となるミニアルバム「THE」をリリースし、全国ツアーを開催。その後約半年の活動休止を経て、再びライブ活動を本格化させる。2012年7月より、新曲「むすめ」が神戸女子大学のテレビCMソングに起用されて話題を呼ぶ。この「むすめ」を含む全6曲収録のミニアルバム「中くらいの話」を、11月7日にリリースする。