鞘師里保、3年間のソロ活動を報告するフルアルバム「Symbolized」完成 (2/4)

鞘師里保インタビュー【前編】

すべてのことに対して突き刺すように取り組んでいた

──ついに1stアルバムですが、既発のEPからの楽曲もまんべんなくチョイスされていて、これは鞘師さんがソロアーティストとして活動を始めてから現在までを総括するような位置付けの作品になるんですかね。

はい、まさに。ちょっとベストアルバム感がありますよね。

──前回のインタビューは最初のEP「DAYBREAK」のリリース前で、まさにこれからソロとしての歩みが始まるというタイミングでした。およそ3年の活動の中で、何か気持ちの面で変化したことはありますか?

ちょっとずつ精神的にゆとりが出てきました。柔らかさ……と言ったらあれですけど、いい意味でのラフさが出せてきているのかなって。最初の頃は、すべてのことに対して突き刺すように取り組んでいたというか(笑)。

──突き刺す(笑)。

それがもうちょっと、遊び心を持って向き合えるように変わっていったような。

──単純に、昔は気持ちに余裕がなくて、今は余裕が出てきた?

今でも「はい、もう大丈夫です」という感じではないんですけど、以前は自分で自分を支えるのに精一杯で。今はリラックスできる場所も増えてきたというか。それは自分にとって大きな変化です。

──こういうことがやりたい、逆にこういうことはやりたくないといった自分の中での決まり事は以前からあったと思いますが、それはこの数年の活動の中で変化していますか?

ああー。「自分が納得したものじゃないと嫌だ」というのは今も昔も根底にありますけど、その中で「これはやってみてもいいかな」「挑戦してみようかな」という範囲はすごく広がった感じがあります。

鞘師里保
鞘師里保

マツコとの邂逅

──先日、ラジオでマツコ・デラックスさんとお話されていたことがファンの間で大きな話題になっていました。マツコさんはモーニング娘。時代の鞘師さんを「最後の青春だった」とおっしゃっていて。そんな大の鞘師さんファンであるマツコさんが「あなたの唯一の欠点は、おすまししちゃうところ」と(笑)。

いやあ、根本的に私はそういう性格なんです(笑)。自分には発言する資格がないんじゃないかと思っちゃって、湧き出てきた思考を押さえ込んじゃう癖が付いているんですよね。自分の中にある何かに対する配慮、みたいなフィルターがかかっちゃう。それはパフォーマンスとかだけじゃなく、普段の会話や発言でもちょっとフィルターをかけちゃう……そんな私のことを、マツコさんはもどかしく見てくださっているんだと思います(笑)。

──ただ、マツコさんは続けて「でも、そこは変えなくていいのよ」ともおっしゃっていました。そうやって逡巡している姿もまた鞘師さんの個性である、という意見だと思いますけど、同時に「そういうしがらみから解放された鞘師も見たい」というようなこともおっしゃってました。今の鞘師さんにはそういう瞬間もある?

そうですね。ライブでブチ上がる瞬間なんかは(笑)。そういうときは何も考えずにいられるし、そんなふとした瞬間を求めてライブを続けているというのはあると思います。

──「元ハロプロ、元モーニング娘。の鞘師里保」という看板は時に鞘師さん自身にとっても重く感じることがあると思いますが、そのあたりはソロ活動を続けていく中で変わってきているのでしょうか。「ハロプロが抜け切った」というか、そういう感覚はありますか?

スピリット的には、たぶんハローが抜け切ることはなく、一生根を張っていると思います。ただ、感覚としてはもう「元ハローだから」と考えることは自然となくなっていて。ふとした瞬間に「やっぱり私はハロー育ちだなあ」と感じる歌のクセとかはあるんですけど。新しいものを作るときに「今までの私はこうで、今の私はこう」という道筋の中に、自分の経歴としての過去を意識することが最初の頃はありましたけど、今はそれがなくなってきました。

鞘師里保

──ファンの人たちから「元モーニング娘。の鞘師里保」として見られるジレンマはない?

そういう意味では、こんなにまったり活動しているのについてきてくれる昔からのファンの方が今もいて……。

──まったり(笑)。

まったり。お芝居もやらせていただいているので、音楽だけでたくさんの予定を立てることが厳しくて、どうしてもまったりしてしまうというのもあるんですけど。音楽的にも今までと違う面を見せていると思うので、それでもついてきてくださる方がいるのはありがたいですし、自分ではあまり気にしていないです。ジレンマ……難しいですね。ほとんどないんですけど、やっぱり今まで私のことを知ってくれていた人たちに「今はこういう音楽をやっているんだよ」というのはもっと知らせたい。どういうふうにすればもっと多くの人に届くかというのは考えますね。曲も増えてきて……自分で言うのもなんですけど、こんなに素敵な楽曲がそろってきたんだから、そろそろ10年前の私しか知らない人にも聴いてほしい。そのための努力をしないとなと思っています。

鞘師里保の初めての場所には必ず仲野太賀が

──アルバム楽曲についてお話を聞く前に、まずは今作の大きなトピックとして、アートワークについても触れておきます。このモノクロ写真、仲野太賀さんが撮影されたそうで。

そうなんですよ。ビジュアルを撮るうえで、今まではスタジオで作品のコンセプトに合わせてしっかり撮ることが多かったんですけど、今回はもっとこう、私自身の人間性が伝わるような写真が撮れると、それがアルバムのテーマを表現することになるんじゃないかという話になって。そこから、モノクロで撮影するならどんな写真家さんがいいだろう?と考えていたときに、太賀さんの写真が思い浮かんだんです。モノクロでも淡い感じにするか、バキッとコントラストが強い感じがいいかと話していて、「フィルムで撮ってもらえるといいよね」と言ってたときに「そういえば太賀さんフィルムで撮ってたよね」って。

撮影:仲野太賀

撮影:仲野太賀

──なるほど。太賀さんは俳優としてのみならずカメラマンとしても高く評価されていていますが、鞘師さんとこういう形でコラボするとは想像もしていませんでした。役者として共演もされていますけど、どういう関係性だったんですか?

私がソロになって初めて出たドラマの主演俳優が太賀さんだったんです(参照:「あのコの夢を見たんです。」に女優10名、森七菜、白石聖、鞘師里保の物語は山里書き下ろし)。そして今年の秋に公開される映画「十一人の賊軍」(参照:鞘師里保が映画「十一人の賊軍」で山田孝之&仲野太賀らと罪人の“決死隊”に、予告で「ぶっ殺してやる!」)の撮影で、去年再びご一緒したんですね。ドラマも映画も、初めての場所に太賀さんがいらっしゃったという偶然があったので、これもご縁ということで初めてのアルバムで撮影をお願いしたい、とマネージャーからお話をさせていただいたら「光栄です」と快諾いただいたそうで。

──初めての場所には必ず仲野太賀。心強いですね。

心強すぎます(笑)。「十一人の賊軍」ではほぼ男性キャストの中にポツンといたのでけっこう心細かったんですけど、太賀さんはすごく気にかけてくださって、みんなの輪に入れるように話しかけてくださったり。そういう人としての温かさを大信頼していたので、撮影も安心して太賀さんに委ねることができました。

──カメラマン・仲野太賀の仕事ぶりはどうでしたか?

撮影できるのは限られたスペースだったんですけど、太賀さんが持参した照明やベールを使ったり、たくさんのバリエーションで撮ってくださって。カメラも何種類も用意していただいて、「これだけのスペースでこんなにいろんな写真が撮れるんだ」と驚きました。3時間くらいの撮影でしたけど、すごく濃い時間でしたね。私が信頼している感じが写真に出ていると思います(笑)。

2024年8月5日更新