鞘師里保、3年間のソロ活動を報告するフルアルバム「Symbolized」完成 (4/4)

鞘師里保×松隈ケンタ、怒りにピンときた「DARKSIDE」

──「ラッセ!」と「DARKSIDE」は昨年のツアー「RIHO SAYASHI 3rd LIVE TOUR 2023 whynot?」(参照:鞘師里保の新たな挑戦、ツアータイトル「whynot?」に込められた思い)のために制作された楽曲です。「ラッセ!」は観客と一緒に盛り上がるために作った曲だとツアーのMCでもおっしゃっていました。

はい。この曲はさっきお話しした、机に向かって真面目に一点集中……みたいな考え方から解放された、解放の始まりみたいな曲で(笑)。パフォーマンスとしてしっかりダンスを踊ることは今までと変わりませんけど、それまではフォーメーションでしっかりと見せて「作品として投げかける」みたいな考え方だった。でも「ラッセ!」からはこちらも観ている方も、お互いから矢印を出せる曲が作れたというか。

──それはライブを重ねてきたからこその変化なのでしょうか。

それもありますし、「whynot?」ツアーでは声出しがOKになったことも大きいです。

──なるほど。確かに観客が声を出せなかったからこそ、静かに観ている観客に「作品として投げかける」ことにより意識が向いていたはずで、その情勢的な変化は大きいかもしれないですね。

そうなんですよ。そんなタイミングだったからこそ、一緒に盛り上がれる曲をやるべきだと思いまして。「ラッセ!」という言葉には、意味がないんですよ。音楽的にも「メロディアスなんだけどビートの効いた曲にしたい」という思いがあったので、特に意味はない言葉だけど、「みんなで叫べる楽しい造語が欲しいです」と作詞の木村友威さんにお願いして考えていただいたのが「ラッセ!」という言葉でした。

──同じく「whynot?」ツアーから生まれた「DARKSIDE」は松隈ケンタさんとの初コラボが話題を呼びました。「悔しいならやっちまいな 望むんなら奪っちまいな 限界なら破っちまいな」などかなり強めの言葉も印象的です。

これはもう「いっちゃえー!」みたいな感じです(笑)。ファンの方からしたら、私がやりそうで意外とやらなかったところ、みたいな曲なのかなと思っていて。アルバムの中でもけっこう異質な雰囲気ですよね。この曲はディレクターからの候補曲として提案されたいくつかの曲の中から出会って、「面白い曲だな」と思って誰が作っているのか確認してみたら松隈さんだったんです。実は「十一人の賊軍」の音楽も、たまたま松隈さんなんですよ。

──意外な連鎖が。「DARKSIDE」は松隈さんのサウンドを求めて依頼したわけではなかったんですね。

SCRAMBLES(松隈が代表を務める作家事務所)から何曲かデモをいただいていて。私はそれが松隈さんの事務所だと知らずに聴いていたんです。「DARKSIDE」はとにかく松隈さんが仮歌を歌っているデモのインパクトがすごくて。歌詞は書き換えていただいているんですけど、サビはそのまま。ほかの部分は、もっと怒ってました(笑)。

──その怒ってる感じにピンときたんですか?(笑)

はい(笑)。「これ面白くない?」って感じで。今までやったことのないタイプの音楽だけど、松隈さんに対して遠い人だという感覚は全然なかったです。ただ、本当に今までの曲とは違うので、ライブで歌う直前までは「ホントにチャレンジして大丈夫なのかな」と不安でした。でもチャレンジしてよかったなと思うし、案の定、ライブではめちゃめちゃ盛り上がりますね。

鞘師里保
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ちょうどいい怖さと違和感を感じながら続けていくのが大事

──ドラマや映画での役者業、レギュラーラジオのパーソナリティ(TOKYO FM / AuDee「『鞘師里保とこれからの時間』Presented by 明治ブルガリアヨーグルト」)など音楽にとどまらない活動が続いていますが、基本姿勢として「なんでもやりたい」という気持ちがあるのでしょうか。

なんでもやります! 仕事を選ばないというわけじゃないですけど(笑)、面白そうだと思ったこと、チャレンジしたいと感じたことには「こういうジャンルだからやめておこう」ではなく。なんて言うんですかね、楽しそうなものを、あの……もうちょっとカッコよく説明したいんだけど言葉が出てこない(笑)。

──(笑)。

ずっと……ずっと緊張してるんですよ。音楽を作るのも緊張するし、演技をするのもラジオで話すのもドキドキするし。いつもちょっとこう、ちょうどいい怖さと違和感を感じながら活動していて。それを続けていくのが私は大事なのかなと思うんです。

──緊張せずリラックスした状態でいたいとは思わない?

難しいところなんですけど、リラックスはしてるんですよ。穏やかな日々を過ごしていますし(笑)、昔と比べても今は心が平穏ですけど、仕事に関してはちょっと怖い気持ちがないと、なんというか、面白くないんだろうなって。

──「これだったら余裕」という物事に取り組むよりは、ちょっと不安なくらいのチャレンジのほうが、やりがいがあるし、気持ちいい?

気持ちいいと言えるところまではたどり着いていませんけど、あとで「大丈夫だったかな」と不安になるようなことにチャレンジする機会に恵まれていること自体がうれしいし、もうちょっとこの状態を続けていたいです。こわばりは解けているんですよ。ずっとこわばっていると実力も発揮できないけど、怖さを感じるくらいのほうがいいし……難しいですね。もっとカッコよく簡潔に説明する言い方があると思うんですけど(笑)。

──鞘師さんは今年26歳で、いわゆるアラサーに足を踏み入れた状態ですよね。キャリア的な余裕、大人としての余裕が出てくる時期でもあるでしょうし、一方で新しい場所に踏み込んでいく“新人”としての刺激も求めているという。

正直に言えば、もっとラクになりたいという気持ちもあるんです(笑)。でもそれを上回って「今、面白いことをさせてもらっている」という実感に希望を求め続けている感じがあるというか。今は緊張するけど、続けていたらもっと楽しくなるはずだという希望を求めて。そこに飛び込む自分に対して余裕があるかないかだと思うので、もっと「楽しい」の気持ちが上回ってきたら、私ももう少し上に行けるのかもしれない……という感じですね。

鞘師里保

もうちょっと火力を強めてもいいかな?

──アーティストとしての野望というか、目標はどのように定めていますか? 鞘師さんの楽曲の中には「これ、アリーナで鳴ると気持ちいいだろうな」と思う曲がいくつもあって。そういった場所にいる自分も想像しているのかな?と。最近はBillboard Liveでのライブだとか(参照:鞘師里保2度目のビルボード公演、「細胞が騒ぐ」ライブで生きてる実感)、むしろモーニング娘。時代には体験していない観客との距離感のライブに面白さを見つけたタイミングだとは思うんですけど。

あー。例えば日本武道館に立つ“ため”にという考えはないんですけど、武道館に立ってる自分を想像することはある、みたいな。「この曲をこの会場でやったらこんな感じになるなあ」とか、イメージできるということは、やってみたい気持ちがあるんだと思うんです。

──今の自分を知らしめたい、見せつけたいという欲求もある?

あります。それは「見せつけてやる! ドーン!」みたいな感じではなくて(笑)。見せつけたいという沸々とした思いは心の奥底にあるんですけど、それをさらっと濁していたところが今まではあったので、もうちょっと火力を強めてもいいかな?という感じです。それはここから1、2年の活動が重要になってくるのかなって。今は自分自身が昔の自分から変化している最中で、その道のりの中でこの間のように昔から知ってくださっているマツコさんから言葉をいただいたり……以前、松岡茉優さんとラジオでお話しした際に「鞘師は自分のやりたいことをやったほうがいい」と言ってくださって、それを時折思い出すんですけど、私は「自分はこういうことをしちゃいけない」と押さえ付けてしまうところがあって。

──「元モーニング娘。の鞘師里保はこういうことはしない」という、呪縛のようなものですよね。

そこを少しずつほどいて、ちょっとずつ、ちょっとずつ陣地を広げているような感じです(笑)。それは人間的な部分だけじゃなく、いろんなジャンルの音楽に挑戦してきた今、という表現の部分でも。曲が増えていくたびに自分の引き出しを開けていかなくちゃいけないし、人間としての幅ももっと広げなくちゃなって。

区切りを付けて上を目指すための完了形「ed」

──ちなみに、アルバムを総称するタイトルを「Symbolized」としたのはなぜですか?

ソロとして3年やってきた今現在の私を象徴している、という意味での「Symbolized」です。3年かけてこういうことをやってきました、やってこられましたという区切りを一度付けてもいいんじゃないかなって。だからこそ今アルバムを作ろうという話にもなりましたし、ここを区切りにしてまた前に進む、上を目指すうえでもここに読点を打っておこうという。そういう意味で完了形の「ed」を付けました。

──現段階での象徴たる作品ができました、という報告としての「ed」ですね。

はい。できました(笑)。

──活動の充実ぶりをすごく感じますが、いち個人、人間・鞘師里保としては充実した生活を送れていますか?

人間・鞘師里保は……充実していると思います。最近は生活を充実させるために、家の中をどうしよう?と考えて新しい棚を買ったり、DIYをしているんですよ(笑)。それこそ今やっているラジオは、ライフスタイルをよりよくするためのヒントを、いろんな方と対話をしながらリスナーの方と一緒に見つけていこうという目的のある番組で。仕事をしている私と普段の生活をしている私をつなぐ、素敵な場所になりそうだなと思っているので、いいヒントを吸収していきたいと思っています。

──最近「素敵だな」と思った人を誰か1人挙げるとしたら?

誰だろう? ホントに毎日のように「素敵だな」と思う人に出会うので。最近だと……この間、渋谷の本屋さんでたまたま見つけた「ニューヨークで考え中」という本を書いている近藤聡乃さんですかね。近藤さんはニューヨークで長年アーティスト活動をされていて、「ニューヨークで考え中」はそこでの生活が描かれたコミックエッセイなんです。私もニューヨークに留学していたので「そうそう、わかるわかる!」と思いながら楽しく読ませていただきました。私の留学は1、2年だけですけど、近藤さんは10年以上ニューヨークに住まわれていて。どんな方で、どんな生活をされているのか、お話を聞いてみたいです。

鞘師里保

公演情報

鞘師里保 1stフルアルバム「Symbolized」リリースイベント

  • 2024年8月10日(土)東京都 SHIBUYA TSUTAYA 8F
    内容:トークイベント / サイン会
    [第1部]トークイベント 13:00~ / サイン会 13:30~
    [第2部]トークイベント 17:00~ / サイン会 17:30~
    ※抽選制
  • 2024年8月11日(日・祝)大阪府 セブンパーク天美 1F AMAMI STUDIUM
    内容:ミニライブ / サイン会
    ミニライブ 18:00~ ※観覧無料
    サイン会 18:30~
  • 2024年8月12日(月・振休)神奈川県 アリオ橋本 屋外イベント広場
    内容:ミニライブ / サイン会
    ミニライブ 13:00~ ※観覧無料
    サイン会 13:30~

プロフィール

鞘師里保(サヤシリホ)

1998年5月28日生まれ、広島県東広島市出身のアーティスト。幼少期にアクターズスクール広島でダンスを学び、2011年にオーディションを経て12歳でモーニング娘。9期メンバーとしてデビュー。2015年12月に同グループを卒業し、以降はダンス留学のため渡米。2020年9月よりジャパン・ミュージックエンターテインメントに所属し、本格的に芸能活動を再開した。2021年8月に自主レーベル・Savo-rから1stミニアルバム「DAYBREAK」をリリースし、1stワンマンライブ「RIHO SAYASHI 1st LIVE 2021 DAYBREAK」を開催。2022年1月に2nd EP「Reflection」、同年11月に3rd EP「UNISON」とコンスタントに作品を発表し、2022年には2本の全国ツアーを行った。並行してテレビドラマや舞台などで俳優業もこなし、2024年1月より放送されたテレビドラマ「推しを召し上がれ~広報ガールのまろやかな日々~」では主演を務める。2月には同ドラマの主題歌「Hi(gh) Life」をソロになって初のCDシングルとしてリリース。7月には初のフルアルバム「Symbolized」を発表する。

2024年8月5日更新