さとうもか|上京、メジャーデビュー、変化の春。川谷絵音、渋谷直角、かが屋ら 10組からのお祝いメッセージも

岡山県出身のシンガーソングライター・さとうもかのメジャーデビューシングル「Love Buds」が5月26日にリリースされた。

2018年3月に発表した「Lukewarm」がTikTokで人気を集め、2020年1月リリースの「melt bitter」はストリーミングで600万回以上、YouTubeでは100万回以上の再生回数を突破。また音楽番組で蔦谷好位置や川谷絵音にその才能を絶賛されるなど、さとうもかはインディーズ時代から目覚ましい躍進ぶりを見せていた。ユニバーサルミュージック・EMI Recordsからの第1弾作品となる今作には、R&Bサウンドに痛切な歌詞を乗せたラブソング「Love Buds」、ヒップホップ調の「Destruction」、ボサノバのリズムが心地よい「いちごちゃん」が収録されるほか、UNIVERSAL MUSIC STORE限定盤には「幸せのバトン」「Love Buds(弾き語りver.)」の2曲も収められる。

音楽ナタリーでは、メジャーデビューを機に東京へと引っ越してきたさとうもかにインタビュー。地元岡山を離れて新たなスタートを切った彼女に、自らの音楽的ルーツや現在の心境、今作に込めた思いなどを聞いた。

また特集後半には川谷絵音、渋谷直角、かが屋といった彼女の音楽を愛する10組からのお祝いコメントを掲載。各人がさとうもかへ贈る十人十色のメッセージを、シングルを聴きながら楽しんでほしい。

取材・文 / 高岡洋詞 撮影 / 信岡麻美 構成 / 瀬下裕理

ジャズから花開いた音楽愛

──メジャーデビューおめでとうございます。聞いた話では東京に引っ越してこられたそうで。

そうなんですよ。ほんの4日前くらいに。だから荷解きもまだ3割ぐらいしか済んでいないです(笑)。

──昨年8月にアルバム「GLINTS」をリリースした頃、もかさんは地元でバンドメンバーと一緒に楽曲を作ることにこだわっていた記憶があるので、メジャーデビュー後も岡山在住のまま活動を続けるのかなと思っていました。

さとうもか

確かにそうでしたね。でもバンドメンバーのみんなも後押ししてくれたし、私も住むところにこだわりがあったわけではなくて。自分としては「岡山にいられたらいようかな」くらいの気持ちだったんですが、このシングルの制作中に月の半分を東京のホテルで過ごすことになって、機材もない、制作環境もキツい、移動も大変だしで、じゃあ引っ越しちゃおうと。

──なるほど。EMI Recordsからのデビューを決めたのはどうしてですか?

初めてメジャーの会社で声をかけてくれたのがEMI Recordsだったんです。2年くらい前になるのかな。当時は私もわからないことが多かったし、「いつか一緒にできたらいいな」くらいにぼんやり考えていたんですけど、いろいろあって、自分がどこで音楽をしたら一番幸せでいられるか悩んだ時期があって。そのとき周りの人たちが「絶対こうしたほうがいいよ」と言ってくれたんですけど、それぞれ意見が全然違うから、どれが正しいかわからなくなっちゃって……でも自分のことだし、最終的には自分で決めないとなと思って、一番信頼できる人を選んだ結果でした。

──もかさんが尊敬する松任谷由実さんや椎名林檎さんの後輩になるわけですが。

お二人にはすごく影響を受けたので、まだちょっと信じられない気持ちです。なんて魅力的な環境なんだろうって思います(笑)。

──音楽ナタリーには今回が初登場ということで、改めて音楽的なルーツについて聞かせてください。中学時代にジャズを好きになったそうですが、そのことが現在に至るまでにもかさんの音楽性のベースになっているのでしょうか?

そうだと思います。中学生のとき、CMを観て気になった曲を「これ何?」とよく親に聞いていたんですが、それがジャズやシャンソンの曲だったことが多くて、あとからジャズ100曲が入ったCDを買ってもらったんです。そこからジャズに興味を持っていろいろ聴いていったんですけど、当時なんの知識もなかったから、「これは昔の曲だ」という先入観もないまま夢中で聴き込んで。それとほぼ同時期にYUIさんやチャットモンチーさん、東京事変さんも好きでよく聴いていたので、ジャズにのめり込んだ自分と現代のポップス好きな自分が合わさって、今があるのかなと思います。

──ジャズとひと口に言ってもいろいろなサウンドがあると思いますが、当時特に好きだった曲はどんなものでしたか?

たぶん1930年代から60年代ぐらいまでの曲が好きでした。特にダイナ・ショアとかナット・キング・コールとか、ビヴァリー・ケニーとか。

──なるほど。ジャンル的にはジャズ・ボーカルですね。

はい。あとオールディーズだとThe Lennon Sistersというコーラスグループ。The BeatlesやThe Beach Boysも初期の頃の曲が好きでした。

──昔の音楽だと思わずに聴いていたんですね。そういった音楽に惹かれた理由はなんだと思いますか?

なんでだろう……和音がすごくきれいだったからかな。コーラスワークがちょっとユニークで、単純に3度上の和音を入れていない曲が多くて面白かったんですよね。あと私はストリングスの音色がすごく好きなんですけど、ジャズにはストリングスが惜しげもなく使われていたり、1曲の中にいろんな楽器が入っていたりするのも楽しくて。

──3月に開催された配信ライブ「Sugar Science Station」ではミュージカル風のパフォーマンスも披露されていましたが(参照:さとうもかの大好きなラジオ盛り込んだ配信ライブ、魔法をかけたりメジャーデビューを報告したり)、ミュージカルもお好きなのかなと。

詳しいわけじゃないんですけど、ミュージカルの音楽は好きです。通っていた高校の音楽科でミュージカル専攻の子たちとよく遊んでいたので、ミュージカルやディズニー映画のサントラをよく聴いてました。そのとき吸収された要素がときどき顔を出すのかもしれません。

──そのほかにもパラパラ風のダンスを踊ったり、弾き語りをしたり、クマのぬいぐるみと一緒に歌ったりと、観る側を楽しませる工夫が盛りだくさんの配信ライブでした。

前に一度自分が好きなアーティストのライブを観に行ったときに、本当に大好きなのに、長い時間ずっと立って聴いていたら眠くなっちゃったことがあるんです(笑)。自分のライブでもお客さんに同じように感じさせてしまったら申し訳ないから、退屈な時間をなるべく作らないようにしたくて……まあ、自分がやっていることが面白いかはわからないですけど(笑)。でもいろんなことをやれば、お客さんにはその瞬間ごとに気分転換してもらえるかなと思って。

「これを言ったら終わりや」

──自分で曲を作り始めたのはいつ頃だったんですか?

高校生のときに。でも最初はどんな歌詞を書いたらいいのかわからなくて。それが大学に入って、初めて好きな人ができてから歌詞が書けるようになりました。中学生の頃も音がきれいだという理由でジャズを聴いていたけど、歌詞が英語で意味は全然わからなかったし、YUIさんも声や曲調が好きで聴き始めたんです。でも大学生になってからは曲の歌詞が気になり始めて、それまでたくさん聴いていた曲の歌詞も「ああ、こういう気持ちだったんだ」とやっと理解できるようになりました。

──ご自身の代表曲である「Lukewarm」「melt bitter」もそうですが、もかさんはこれまでに恋愛をテーマにした楽曲を数多く発表してきましたよね。メジャーデビュー作も、いわばラブソング特集的な作品ですし。

確かに! そう思うと、自分の中ではラブソングが一番書きやすいのかもしれないです。恋愛をしているときって感情の振れ幅がすごく大きいから、歌詞に書きたくなるような気持ちや言葉が自然といっぱい浮かんでくるんですよね。それに「好き」とか「嫌い」という気持ちは、恋愛だけに限らずあらゆることにつながっている気がして。すごく大事な感情だと思います。

──今回のシングル表題曲「Love Buds」は、資料によると「別れや環境を変えることを後押しする、春の失恋“ネオラブソング”」とのことですが、ある映画が制作のヒントになったとスタッフの方から伺いました。

友達と一緒に映画「花束みたいな恋をした」を観に行ったんです。あのお話でも描かれていましたけど、誰かと長く付き合ったり同棲したりすると、その分別れるのが難しくなるじゃないですか。このままじゃダメだと思っていても、関係をリセットするよりなんとなく一緒にいるほうが楽だし、またイチから別の人といろんなことを積み重ねていくのが面倒に思えるというか。あの映画みたいなことは自分にも実際にあったし、恋人に限らず長く住んでいた場所や環境にも同じことが言えるなと思ったんです。だから「Love Buds」は、そういう状況の中でたくさん悩んで大事な人や場所とのお別れを決意した人にとって、一緒に前に進んでいけるような曲になったらいいなって。失恋ソングに聴こえると思うけど、応援ソングとしても聴いてもらえたらうれしいです。

──YouTubeで公開されていたこの曲のデモ音源や制作過程を紹介する映像(「さとうもか Love Buds 制作コラム」)を観たんですが、「Love Buds」は一度ボツにした曲だったとか。

はい。私、たまに「こういう感じの曲を書き切らないと、別の曲が作れない」という状態になることがあるんです。このときは「Love Buds」のようなR&Bっぽくてダウナーな曲を作らないと「ほかのが思い付かん」みたいな。それでいっぱい案を出したんですけど、どれがいいのかわかんなくなってきちゃって……。ボツにした曲も含めてバンドメンバーやディレクターさんにも聴いてもらった結果、最終的にみんなの耳に残ったのが「Love Buds」でした。私も散歩してるときに頭の中でずっと鳴っていたのがこのメロディだったので、「もしかしたらこれがいいのかも」と思って、復活させて作り始めました。あのまま終わっていたらと考えると……危なかったですね(笑)。

──浮遊感のあるR&Bサウンドとコーラスが印象的ですが、もかさんが作ったデモの段階から曲のイメージがほぼできあがっていたように思いました。

さとうもか

そうですね。ビートや楽器はアレンジャーの森善太郎(Mori Zentaro)さんにかなり変えてもらったんですけど、メロディやフレーズは私が考えていたものも取り入れてもらって。自分で作ったデモを善太郎さんに渡して、話をしてニュアンスを汲み取ってもらってから、アレンジ案を送ってもらって、追加でまたお話して……そういうやりとりを何回も繰り返して、最後にコーラスを入れて完成させました。

──デモを聴く限り、「ラララ」とハミングで作ったメロディにあとから歌詞を乗せていったようですが。

この曲はそうですね。というのも、ちょうど歌詞を書くのに苦戦していた時期で……これからどこで音楽をしていくかについて本当に悩んで、誰も信じられなくて人を疑ってしまったりして、そういう自分のことがすごくイヤになってしまったんです。これまでは自分のそのときの気持ちを曲にしてきたんですけど、この時期はそういう後ろ向きな気持ちに向き合いたくなくて。そうしたら歌詞が全然思い付かなくなってしまいました。でも「やっぱり自分に向き合わないと曲を作れない」と思ったので、思い切って直視して。それまでいた場所から新しい場所に踏み出すという自分の行動を、失恋の構図に当てはめて書き上げました。

──最後の「君との日々が本当に宝物だったの でも同じ花じゃなかった」という歌詞は、特に切なくて力強い言葉だと思いました。

何かに葛藤している曲の歌詞を書くとき、だいたいいつも自分が考えてることはめっちゃシンプルで、最初の段階で答えがもう頭に浮かんでいるんですよ。でも、考えているふりをしたり遠回りをしたりして、本当は最初からわかってることをごまかしている。その答えを出さないと自分の書きたい曲にならないから最後は覚悟するんですけど、やっぱりそういう気持ちの核みたいなところを歌詞にするときにはいつも抵抗があるんです。

──どうして?

自分の中で考えていたことが正しいと認めることになるし、言葉にすることでそれが現実になったりするじゃないですか。曲を書くたびにまた1つ答えを出さなきゃいけないのか……みたいに思うところがあって。「Love Buds」は本当にそんな感じで、最初はずっとずっと歌詞を「書けんわ、書けんわ」って言ってたんですけど、書き始めたら一気にできあがったので、「ああ、これを言いたくなかったから自分は逃げてたのかな」と思いました。

さとうもか

──葛藤を乗り越えて書いた曲なんですね。ご自分で気に入っている部分はどこですか?

やっぱり「でも同じ花じゃなかった」と、「“家族みたいな仲”のふたりは 家族にはなれないまま」というところです。本当にそのままの、何のひねりもない言葉ですけど、「これを言ったら終わりや」という気持ちがあって(笑)。だから「もう書くしかない!」と決心して書いた部分です。