音楽ナタリー Power Push - ササノマリイ
異色シンガーソングライターが明かす“おもちゃ箱”の中身
2009年よりVOCALOIDシーンで活動してきた「ねこぼーろ」が、「ササノマリイ」名義でシンガーソングライターとしての活動を始めたのは2014年。繊細かつ緻密に練り上げられたサウンド、ファンタジックな中にも刺激的なフレーズが織り込まれた歌詞、穏やかで説得力のあるボーカルは大きな話題を呼び、同年10月に発表した1stアルバム「シノニムとヒポクリト」も高い評価を受けた。
そんなササノマリイの2ndアルバム「おばけとおもちゃ箱」のリリースを前に、音楽ナタリーでは彼への初インタビューを実施。これまでの活動の経緯やササノマリイとしての活動を始めた理由、新作に対する思いなどをたっぷりと語ってもらった。
取材 / 倉嶌孝彦 文 / 伊藤雅代 撮影 / 塚原孝顕
どうやったらテレビで流れているような曲が作れるんだろう
──ササノマリイさん名義ではこの作品が2枚目のフルアルバムになりますが、ナタリーPower Push初登場ですので、まずはこれまでの活動を振り返らせてください。最初に音楽活動を始めたのはいつ頃ですか?
中学生のときにパソコンで曲を作り始めたのが最初ですね。当時はMySpaceが流行っていたので、そこにインスト曲を投稿するって形で活動してました。
──中学生の頃から発表してたんですか。
最初はずっとコピーばっかりだったんですけど。自分の曲を作ってみても「下手だなあ」って思ってしまうんで、どうやったら今テレビで流れているような曲が作れるんだろうと考えながら、人の曲をひたすらコピーするところから始めました。初めの頃はMIDIシーケンサーの内蔵音源しか使ってなかったから全然納得いくものができなくて、「どうしたらああいう音になるのかな」と考えて作曲ソフトを買って、それを使ってMySpaceへの投稿を始めましたね。
──先ほどおっしゃっていた「テレビで流れているような曲」ができてきたかな、と思ったのはどのくらいの時期でしたか?
作曲を続けているうちにVOCALOIDに出会って。もともとは歌モノを作りたかったんですけど、自分は歌が下手だから……と思っていたところの出会いだったので「これで自分も歌モノを世の中に出せるかもしれない」って感じましたね。あと、同じ頃にニコニコ動画にも出会ったので、せっかくこういう場があるなら発表してみようと思って、ボカロ曲を投稿し始めたのが2007年ぐらいです。
何よりも音にこだわった
──その当時からVOCALOIDシーンでは“ねこぼーろ”名義だったんですか?
最初の頃は違う名前でした。“ねこぼーろ”名義を使い始めたのは2009年の4月頃からで、そこからが本格的な音楽活動になるかと思います。
──なるほど。ニコニコ動画に投稿し始めたとき、ユーザーからの反応や手応えはどうでしたか?
観てくれた人がすごく優しかった、という印象がありますね。当時はまだショートバージョンやワンコーラスのみで投稿されている曲が多かったというか、そういうのが許されていた状況だったんですけど、最初にワンコーラスだけ投稿したら「フル希望」ってコメントをいただいて「ああ、うれしいな、じゃあ全部作ろう」って思ったり。今の自分と比べたら聴いてくれる人数は少なかったかもしれないけど、その分「こうしたほうがいいよ」って意見をもらって参考にする、みたいな感じでやってました。
──ニコニコ動画に動画を上げているボカロPの人たちはロックの影響を強く受けている人が多いと思うんですけど、“ねこぼーろ”さんはちょっと特殊というか……。
ゴリゴリのEDMやダンス系が多いかもしれませんね。もう自分が輪に入れる場所がない(笑)。ほかの作り手さんとは好きな音楽も違うと思うし。
──そういう、ほかの作り手さんと同じ枠に入らずに評価されてきたと思うんですけど。その勝因というか、ご自分ではどういうところが人に刺さったんだと思っていますか?
たぶんですけど、何よりも音にこだわったことかなと。曲を作り始めてから一番大事にしてきたのが音作りだったので。J-POPとか聴いたときに「歌詞やメロディはすごくいいけどオケが……」とかそういうことを考えるんです。アレンジがシンプルなものは、自分で聴くのは好きだけど作りたくはないなあと思っていて。自分ができる最大限のことで、ほかの人たちがやってることとちょっと違うことができたら、このいろいろな音楽があふれている市場の中でも居場所があるんじゃないかなと思ったんです。その結果の1つが「戯言スピーカー」ですね。
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収録曲
- オバケトオモチャバコ
- 共感覚おばけ
- きかせたいのは
- あいのうた
- アンブレラ
- サニーサニー
- てのひらワンダーランド
- 公園と少女
- ライア
ササノマリイ
2009年にVOCALOIDシーンで「ねこぼーろ」として音楽活動を本格的に開始。「戯言スピーカー」「自傷無色」などの楽曲で人気を集めた。2014年よりシンガーソングライター「ササノマリイ」としての活動をスタートさせ、同年10月に1stアルバム「シノニムとヒポクリト」をリリース。アルバムの発売当日にはニコニコ生放送で初のネットライブも実施した。2015年4月には「ニコニコ超会議2015」にて初のバンドセットでのライブを行う。7月22日、2ndアルバム「おばけとおもちゃ箱」をリリースする。