ナタリー PowerPush - 五月女五月
俺たちは“人”か“人間”か!? 苦悩と本能の塊「地獄変」で衝撃デビュー
神様がいるとしたら、全然力不足じゃない?
──アルバムを作るにあたって、どんなことを考えてましたか? 例えば選曲とか。
選ぶ余地がなかったんですよ。レコーディングの時点で演奏できる曲は10曲くらいしかなかったんで。今残ってるのは、メンバー全員が気持ちよくやれる曲なんですよね。例えば僕がめちゃくちゃ好きだとしても、誰か1人でも「これはちょっと」ってなると、ボツになる。今はもうちょっと増えてますけどね。ライブでやれるのは、15曲くらいかな。
──歌詞は関田さんなんですよね?
そうですね。それも作ろうと思って作ってないというか、例えばバイト中とかに思いつくことが多くて。居酒屋でバイトしてるんですけど、いろんな人から聞いた言葉とか考えを脳みそに入れて、「それはどうなのかな?」って考えたりしてるんですよ、皿洗いしながら。そこから言葉が出てきて、鼻歌で歌いながらなんとなく作って。それをスタジオに持っていって、なんとなく音を出して。
──そこで4人が気持ちよくやれれば……。
「明日のライブでやろう!」ってなりますね。
──なるほど。では1曲目の「愛と正義」はどんなふうにできた曲なんですか?
メンバーと話してて「神様はいるのか?」って話になって。いるんじゃないかっていう結論になったんですけど、「だとしたら、全然力不足じゃない? だったら、次は俺やるわ」って。
──「神様やめたら次俺に任せろ」っていう。
はい。そういう話をよくしてるんですよね。例えば「渋谷って、何色だと思う?」とか。4人のイメージが一致するまで話したりするんですよ。それがすごく大事なんですよね、うちのバンドにとっては。「音楽的にこうしたい」っていうのは全くないし、1人でも違うことを考えてたらバラバラになるんじゃないかって。もちろん、僕が独断で作ってもダメだし。
──4人の意思が統一されて、曲の力につながる、と。
そうですね。バンドは僕1人のものでも、メンバーの誰かのものでもないので。何も話さないで、「せーの」で音を出して形にできればいいんですけどね。いつかはそういう曲もできると思いますけど。
時間が止まるようなライブを
──「苛立ちとタスク」についてはどうですか?
「やりたいことなんてないぜ! 知りたいことなんてないぜ! 聞きたいことなんてないぜ!」っていう歌詞があるんですけど、この歌詞が乗ったのはCDを出すって決まってからなんです。多分、それは僕らの反骨精神みたいなものなんですよね。売れるためになんでもやりますってことじゃないし、やらされてたまるか! っていう。裏を返せば「なんでもやれる」ってことでもあるんですけど。あの、物事には制限があると思うんですよ、なんでも。例えば僕らがCDを出すときも「こうしなきゃいけない」っていう制限があるし。「いかにやらされずに、やるか」っていうのは常に念頭に置いてますね。
──つまり、制限を超えていこう、と。
うん、それは超えようと思ってます。僕らが思っている五月女五月っていうバンドと、レコード会社が思っている五月女五月にはギャップがあるだろうし、会社にとって僕らの活動は制限内なんですよね。それも超えていきたいなって。
──社会の制限についてはどうですか? バンドの表現が社会とか常識に制限される、っていう可能性もあると思うんですが。
あー。さっきも言いましたけど、「人殺しはいけない」とか、そういうことですよね。人殺しは多分いけないと思うけど、そういうこととも関係なしにやりたいです。ベースの人がよく、こういう話をするんですよ。「『アメリカ人が嫌い』って言ってもいいけど、『中国人が嫌い』とか『北朝鮮の人が嫌い』って言っちゃいけない感じがするのはなんでだ?」って。そういう常識みたいなものがあるんですよね、やっぱり。
──自分の頭で考えてるつもりでも、実は……。
そう! 何かに制限されてるんですよ。そういう概念は取り払いたいですよね。
──「けむり」という曲にある「どうして記憶は消えてしまうの」という歌詞も印象的でした。記憶って、ホントにけむりみたいに消えますよね。
そうなんですよね。昨日のことくらいはなんとなく覚えていても、1秒1秒、全部覚えてるわけじゃないし。うれしかったことも忘れちゃうじゃないですか。それが悔しいんですよね。悔しいし、悲しいし。3月11日に地震があって、その次の日から鬱状態みたいになっちゃったんですよ。なんでこんなに多くの人が悲しまなくちゃいけないんだ、って1日中泣いてて。そのときに思ったんですよね。「この気持ちも忘れてしまうから、全部ノートに書いておこう」って。今読むとおかしいし、書いた記憶もないんですけどね。「セブン-イレブン、節電してくれてありがとう」とか。なんというか……“今”を大切にしたいんですよ。ライブをやってる瞬間が永遠に続けばいい、とも思うし。
──最高の瞬間って、やっぱりライブ?
まだ最高の瞬間まではいってないんですけどね。この4人にはものすごい力があると思うし、それは言葉にできないことなんですよ。このメンバーじゃないと実現できない、ものすごい瞬間……それっておそらく、ライブ中だと思うんです。時間が止まるようなライブをやりたいですね。いつかやれるだろうって感じもあります。
一度トップになってから考えよう
──もうひとつ、アルバムのタイトルにもなっている「地獄変」についても聞かせてください。「生きてることが不安でどうする 死んだほうが怖いぜ」という、恐ろしく前向きなフレーズがありますね。
これはどうやって作ったのか……。多分、死後の世界の話をしてたんですよ。「死んだらラクかと思ってたけど、それもどうだか」ってところから始まって、「死んだらチャラじゃなくて、もし続いたらどうする?」とか。わかんないじゃないですか、そんなの。そう考えたら、今苦しんでることの意味がわからないというか、生きてるうちに好き勝手やっちゃえよって。無理して死のうとしなくてもいいんですよね。どうせ死ぬから、人間は。
──そうですよね、ホントに。しかしすごい話をしてますねえ。
すごい話をしようとか、キチガイぶってるとか、そんなのはないんですけどね。「何々ぶってる」とかって面倒くさいし。僕はただ、思っていることを全部歌にしていきたいと思ってるだけなので。
──でも、バンドがあってよかったですよね。表現の方法が見つかって。
モヤモヤしてますけどね、まだ。さっきも言ったように、自分は“人”なのか“人間”なのかってこともあるし。生まれてこなければよかったなって気持ちがずっと僕の中にあるんですよ。今はすごく幸せだけど、バンドがなくなったらイヤだなって気持ちもあるし。最終的には「バンドやっててよかった。生まれてきて良かった」って思いたいですけど。
──バンドの将来について考えたことはありますか?
それも話したことがあって。「一度トップになってから考えよう」ってことになったですよ。メンバーの話によると、今のバンドのトップってMr.Childrenらしいんですよね。じゃあ、そこまでは行こうよって。まあ、ゴールなんてないし、いまだになんでバンドをやってるかもわかんないんですけどね。今はバンドと“人間”に全力で向き合ってるけど、それもどこまで続くかわかんないし。とにかく、今やってることを大事にしようってだけですね。1年後、バンドをやってるかどうはわかんないけど、そのときになればきっと何かがあると思うので。
五月女五月(さおとめさつき)
2010年9月に関田諒(Vo, G)と与那城哉斗(B)が出会い、同年12月31日に柳田遊寿(Dr)を加えてバンドを結成。その後、土橋依寿々(G)が加入し現在の4人編成となる。東京都内を中心にライブ活動を行っていたところ、LD&K Recordsスタッフの目に止まり、結成からわずか1年足らずで1stアルバム「地獄変」をリリース。