ナタリー PowerPush - 五月女五月

“音楽”はじめました

タワーレコード限定プレデビューアルバム「地獄変」から約10か月、五月女五月が最新ミニアルバム「清濁併せ呑む」を完成させた。「進化とは 数多くの犠牲に成り立っている俺達の事か?」(「I DON'T WANT TO 終わらせる」)、「死ぬな、殺すぞ」(「ぺ」)といった人間の本質に切り込む言葉を叫びまくるロックチューン、叙情的なメロディの中で「わからないままさ わからないままさ」という諦念たっぷりの歌詞が漂う「ゆうられ」など7曲を収録した本作は、凄まじいまでの衝動と音楽に対する目覚めが共存する、きわめてスリリングな作品に仕上がっている。バンドの中心人物である関田諒(Vo, G)に本作の制作過程について訊いた。

取材・文 / 森朋之

最近、音楽にハマり始めてるんですよ

──デビュー盤「地獄変」から約10カ月経ちましたが、五月女五月の名前も少しずつ知られるようになって、状況の変化もかなりあったと思うんですが。

自分たちの中ではすごく変化がありましたね。前の音源を録ったときは、メンバーが集まってまだ半年くらいだったんですよ。「CD出そう」って言われてもなんのことかわかってなかったし、チューナーさえ持ってなかったですからね。クリックっていうものがあることも知らなかったし。ライブもかなり適当でした。最初のライブのとき、ベース(与那城哉斗)がいきなりギターのアンプにつないで、PAの人に「え、それでやるの?」って言われたり。そのときに比べたら、いまはだいぶマシになりました。ライブにも集中するようになってきたし、最近、音楽にハマり始めてるんですよ。

──以前は「音楽が好きでバンドをやってるわけじゃない」って言ってましたよね。

そうですね。ただワーッ!とやってただけなんで。でも、否応なくうまくなるじゃないですか。たまにリズムがしっかり合ったりすると「これ、気持ちいいんじゃないか?」って思うし、それをさらに突き詰めたいっていう……。音楽チックになってしまいましたね。

──それは良いことじゃないですか?

どうかわからないですけどね。何が良いかは人によって違うし、判断しようがないので。いまは4人でやってることが良いと思ってるし、それを続けていこうかなっていう。

「一般ウケするクソみたいな曲を作ろう」

──作詞・作曲についてはどうですか?「清濁併せ呑む」を聴くと、かなり幅が広がってきてると思うんですが。

前作を去年の12月に出して、2月からレコーディングを始めたんですよ。その時点で3曲くらいしかなかったから、2曲作って。とりあえず5曲録ったんですけど、何か物足りなさを感じたんですよね。ひとつひとつの曲が独立しすぎてる気がしたというか、全体をまとめてリードする曲があったほうがいいなって思って「I DON'T WANT TO 終わらせる」を作ったんです。そのあと「ゆうられ」も作って。

──どちらも非常に重要な曲ですよね。特に「I DON'T WANT TO 終わらせる」は関田さんが言うとおり、アルバム全体をひとつにまとめる役割を担ってると思うし。

これも初めてだったんですけど、メンバーと「一般ウケするクソみたいな曲を作ろう」って話してたんですよね(笑)。結果的には絶対に一般ウケしない、クソみたいな曲になったので満足してます。

──(笑)。五月女五月の中には、基本的に「一般ウケ=くだらない」っていうスタンスがあるんですか?

いや、そういうわけでもないんですけどね。もちろん、たくさんの人に聴いてほしいっていう気持ちはあるんですよ。でも、聴き流されたくないっていう思いもすごく強くて。いわゆる一般ウケする曲って、力が分散されてる気がするんですよね。まあ、五月女五月の曲がウケるわけないですけど。「I DON'T WANT TO 終わらせる」に関していえば、歌詞を付けた時点でさらに一般ウケしなくなった感じがあって。最初に出てくる「あるがないまま」っていうのがテーマなんですけどね。

──「あるがないまま」というのは……?

「あるがまま」っていう言い方があるじゃないですか。「Let It Be」とか。そういう状態って、ありえないと思うんですよね。何をしても制限とか制約があるし、自由だって、限られた範囲の中のことだし。例えば「俺は自由だから、仕事をしないで、ずっと旅をしながら生きてる」という人だって、絶対に何かの制限を受けてるわけで。生きてるうちは「あるがまま」っていうのはないんだけど、この曲の中では「それでも別にいい。このままで進んでいくぜ」って歌ってて。

──なるほど。関田さんがバンドをやってるのは、もしかして「あるがまま」に近づくための手段でもあるんですか?

うーん……。最近、ようやくバンドとしてのゴールが見えてきた気がしていて。言葉ではうまく説明できないんですけど……なんというか、イメージの話なんですよね。幽体離脱とか、最後は空を飛ぶとか、光を放つとか。メンバーともそういう話をしてますね。

──その感覚を共有できてるのがすごいですね……。

とりあえず、そのゴールはとてつもなく遠い距離にあるんですよね。もしかしたらバンドを40年、50年続けてもたどり着けないんじゃないかっていう。でも「達成できないから辞める」とかってことではなくて、そこに向かって進んでいく過程、つまり“いま”こそが人生なんだなって。“いま”っていう瞬間が続いていくことが人生なんですよね。

2ndミニアルバム「清濁併せ呑む」 / 2012年10月30日発売 / 1680円 LD&K Records 235-LDKCD
2ndミニアルバム「清濁併せ呑む
収録曲
  1. I DON'T WANT TO 終わらせる
  2. 空間Xからの脱出
  3. 人間とバンドやってます
  4. 幻とまぼろしの間
  5. ゆうられ
  6. パーフェクトな世界
五月女五月(さおとめさつき)

2010年9月に関田諒(Vo, G)と与那城哉斗(B)が出会い、同年12月31日に柳田遊寿(Dr)を加えてバンドを結成。その後、いすゞ(G)が加入し現在の4人編成となる。東京都内を中心にライブ活動を行っていたところ、LD&K Recordsスタッフの目に止まり、結成からわずか1年足らずで1stアルバム「地獄変」を発表。2012年10月30日に2ndアルバム「清濁併せ呑む」をリリースした。