ナタリー PowerPush - 五月女五月

俺たちは“人”か“人間”か!? 苦悩と本能の塊「地獄変」で衝撃デビュー

常識や既存の概念に捉われている自分を認識しつつ、そこからなんとか脱却し、“人間”としてのリアルな思いだけを爆音に乗せて叫ぶ。アルバム「地獄変」でデビューする4人組バンド、五月女五月には、ロックの本質──衝動と本能を全開にしながら、全ての枠組みを破壊しまくる──がとんでもないテンションとともに刻み込まれている。バンドの成り立ちと精神性について、ボーカルの関田諒に訊いた。

取材・文 / 森朋之

GOING STEADY、銀杏BOYZの衝撃

──プロフィールには「アメリカ留学から一時帰国したとき、とあるバンドのライブ見て衝撃を受け、大学を辞めてバンドを組む」とありますが。

日本に帰ってきたとき、銀杏BOYZのライブを観て、それを観終わったときには「バンドをやろう」って決めたんですよね。それまでバンドをやりたいなんて思ったこともなかったんですけど、「バンドをやりたい」とか「音楽をやりたい」っていう過程もなく、俺はバンドをやるんだって。

──すごい転機ですよね。

そうですね。アメリカ行ったり、大学辞めたり、急にバンド組んだり。他人からは「行動力がある」なんて言われるんですけど、自分ではまったくそんなことなくて。バンドにしても、決まってしまったっていう感覚なので。

──それ以前はやりたいことも特になく?

その前は教師になろうと思ってて。なろうと思ったというか、父親も母親も祖父も祖母も教師をやってまして。小さいときからおばあちゃんとかに「教師になるんだよね」って言われていたので、自分もそうだろうなって思っていて。でも、行きたい大学に行けなくなって、そのときに「教師にはなりたくない」って思ったんですよね。で、やりたいことを探すために留学したっていう感じだったんですよ。やりたいことがあったわけではなく。まあ、でも、向こうでも特に何もなかったんですよね。そのまま日本に帰ってきて「これからどうしようかな?」って感じだったので。

──なるほど。銀杏BOYZのライブに行ったのは、どうしてなんですか?

元々、唯一好きだったバンドがGOING STEADYだったんです。「友達にも誰にも教えないでおこう」って思うくらい衝撃を受けて。

──あまりにも大事だったから、自分だけのものしておきたかった?

かもしれないです。高校では、わりと流行ってる音楽をメインで聴いてたし。

──当時流行ってた音楽って?

えーと、ELLEGARDENとかHi-STANDARD。学園祭で軽音部の人たちがライブやったりしてました。友達が聴いてるから聴いてるくらいで、何とも思ってなかったんですけど。

バンドのテーマは“人間と人”

──銀杏BOYZのライブを観た後は、具体的にどんなことをやったんですか?

とりあえずギターを買いました。あと、日本に帰ってきた2カ月後に高円寺に越しましたね。多分どっかからの入れ知恵なんですけど、“バンド=高円寺か下北沢”って思ったので。それからmixiでバンドメンバーの募集……いや、募集はしてないですね。「変なヤツ、誰かいる?」っていう。そうしたら、今のベース(与那城哉斗)から連絡があって。最初は男3人だったんですけどね。僕がギターとボーカルをやって。あとはベースとドラム(柳田遊寿)。

──結成当初は、どういうバンドにしたかったんですか?

全く想像してなかったんですけど、最近ようやく、自分の中でテーマが決まりまして。それが“人間と人”。

──人間と人?

僕は今“人”なんですけど、だんだん“人間”として大切なことを忘れかけてるなっていう感じがしてて。今生きてるけど、いつ死んでもいいやって思ったり、あとは友達とワイワイ楽しくできない、とか。それと比例して“人間として”という部分を感じ始めてるんですよね。

──関田さんにとって、“人”と“人間”って違うんですね。

そうですね。例えば渋谷っていう街は、“人”が作って、“人”がきれいに整頓してるんと思うんですよ。あと、これはしちゃいけないっていうことも決めてますよね。ポイ捨てはダメとか、人殺しも多分ダメだし。でも、“人間”にとってはそれも間違いじゃないのかな、って感じたり。

──つまり社会とか文化を形作ってるのが“人”で、もっと本能的なのが“人間”というか……。

僕、渋谷が大嫌いなんですよ。みんな同じに見えるし、多分ロボットじゃないかなって。サラリーマンの人とかも仕事に疲れて、酒飲んで帰って、また次の日も同じように仕事して。それは“人間”じゃなくて“人”ですよね。ただ、僕は別に“人”が嫌いなわけじゃないんですよ。僕も多分“人”だし。こうやって話もできるし、常識もあるし。

──そうですね。

けど、ライブのときや1人でいるときは“人間”らしいことを考えてるんですよね。もう、どうなってもいい……っていうか、それすらも思ってなくて。

デビューミニアルバム「地獄変」/ 2011年12月6日発売 / 1680円(税込)/ LD&K Records / 230-LDKCD

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収録曲
  1. 愛と正義
  2. 苛立ちとタスク
  3. ささきさん
  4. 美徳
  5. 落とし穴
  6. けむり
  7. 地獄変
五月女五月(さおとめさつき)

2010年9月に関田諒(Vo, G)と与那城哉斗(B)が出会い、同年12月31日に柳田遊寿(Dr)を加えてバンドを結成。その後、土橋依寿々(G)が加入し現在の4人編成となる。東京都内を中心にライブ活動を行っていたところ、LD&K Recordsスタッフの目に止まり、結成からわずか1年足らずで1stアルバム「地獄変」をリリース。