Sano ibuki「革命を覚えた日」インタビュー|世界に向かって狼煙を上げる、革命の瞬間 (2/2)

絶望を希望に変換することが根幹

──ミニアルバムには、配信シングル3曲のほかに「罰点万歳」「menthol」「久遠」、ボーナストラックの「エイトビート」という新曲が収録されています。「罰点万歳」はダンサブルな楽曲ですが、これもタイトル先行ですか?

そうです。僕はもともとネガティブな性格なんですけど、だからこそ自分を認められるというか、いい意味であきらめることも大事だと思っていて。「罰点万歳」はまさにそういう意味なんですよね。自分には欠点がいろいろあるけど、「まあ、それも仕方ないよね」と抱きしめてあげたいなと。絶望やネガティブを希望に変換することが、自分の根幹だったりするんです。

Sano ibuki

──以前からそういう考え方なんですか?

はい、けっこう前からですね。前作の「ZERO」を作ってるときもそう。自分のダメなところと向き合って、いろいろとあきらめ続ける中で、その先にある、“でも”という気持ちを曲にしていったところがあって。この考え方はずっと自分の中にあると思います。

──そして「menthol」はネオソウルから現在のR&Bの潮流までを感じさせるミディアムチューンです。アレンジャーは小西遼(象眠舎、CRCK/LCKS)さんですね。

小西さんとは前作に入っている「夢日記」に続き、2回目ですね。「少年讃歌」「罰点万歳」「下戸苦情」「眠れない夜に」ができて、「次はメロウな曲が欲しい」と思ったときに、小西さんとやりたいなと。自分でビートを打ち込んだデモをお渡しして、直接お話をしながらアレンジを詰めていきました。濃密な時間でしたね。

──歌詞はそのあとに書いたんですか?

「menthol」というタイトルが先にあったから、そこに引っ張られた感覚ですね。ほかの曲もそうなんですけど、歌詞の書き方が少しずつ変化していて。以前は「自分が思い描いた風景、感動した景色を写真みたいに切り取りたい」という感じだったんですけど、今はそのときの感情にフォーカスしている。「menthol」もそうですね。もちろん、曲の背景にあるストーリーはがっちり作ってるんですけど。

──“貴方”に対する思い、「愛されたいな」という欲望がにじんでますよね。

そうですね。タバコのメンソールって、ハッカの結晶が入ってるらしいんです。それをタバコの煙と一緒に吸い込むことですっきりした香りになるみたいで。「恋をすると胸が痛い」という表現があるじゃないですか。その言葉と「メンソールの結晶が胸に刺さる」というイメージが結び付いたんですよね。好きな人にメンソールのタバコを渡された経験がある人が、「その匂いがするたびに、あなたを思い出す」という。

──ドラマティックですね……そういうメロウな発想も、Sanoさんの特徴なのかも。

この曲に関しては、父親がメンソールのタバコを吸っていた影響もあるかもしれないです。僕はタバコを吸わないですけど、匂いはけっこう好きで。匂いって思い出や風景と結び付いているし、それをもとに曲を書くことも多いんですよ。「menthol」の歌詞のイメージは、小西さんとも共有していました。「そういうストーリーだったら、こんな音はどう?」みたいなやり取りをして。小西さんのおかげで風景と物語が見える曲になりました。

できるだけ長くそばにいられる曲に

──「久遠」は壮大なバラードナンバーです。MBSほかドラマシャワー「ワンルームエンジェル」のエンディング主題歌として書き下ろした楽曲ですね。

はい。こういうタイプのバラードは「紙飛行機」(2020年11月リリース)以来かもしれないです。ドラマの主題歌のお話をいただいて、原作のマンガを読ませてもらって、きちんと死に向き合っている作品だなという印象を受けました。ドラマの主人公がお互いに抱いている愛しさをしっかり込めたいなと思っていましたね。「世界を広げながら、その中に存在する小さい存在を見せる」というのは僕がよくやる手法でもあるし、けっこう得意な分野かもしれないです。

──「お願い、そばで永遠に生きていて」というフレーズが印象的でした。こういう経験はおそらくなかなかないと思いますが……。

でも、近いことはあると思っていて。大人になると、仲がよかった友達とだんだん会わなくなったりするじゃないですか。それって僕にとっては、友達の中にいる自分が消えてしまうような感覚なんですよ。たださえ友達が少ないのに、人との交流が減ってしまうことで、失ったものも多いんだろうなって。アーティストとリスナーの関係もそうだと思うんですよね。「学生時代に好きだった曲、今も好きか?」と聞かれたら、全部が好きとは限らない。もちろん自分にとっての特別なアーティスト、たとえばマイケル・ジャクソンやフジファブリックはずっと好きですけど、すべての曲をあの頃と同じように感動して聴いているかと言えば、そうではなくて。この話は自分にも置き換えられるんですよ。僕の曲をずっと大事に聴いてくれたらうれしいけど、必ずしもそうではないこともわかっている。「久遠」は「できるだけ長くそばにいられる曲になればいいな」と思いながら書きました。

──ストリングスとピアノを軸にしたアレンジも、流行やトレンドに左右されない魅力があると思います。

ひさしぶりにトオミヨウさんと一緒に作らせてもらいました。「EMBLEM」(2018年リリース)に入ってる「魔法」「moonlight」もトオミさんにアレンジしてもらったんですけど、「久遠」を作ったときに「トオミさんのピアノと弦しかない」と思ったんです。

──「久遠」はSanoさんのボーカル表現をじっくり味わえる曲でもあります。レコーディングはどうでしたか?

「久遠」は自然体で歌える楽曲なんですよね。メロディはけっこう難しくなってしまったんですけど、僕がもともと持っている「パーッと歌っているのに、苦しく聴こえる」という成分が出ていて。あまり考えすぎず、自分をしっかり出せば届く曲になると思っていました。

Sano ibuki
Sano ibuki

そんなに順風満帆に生きてないぜ

──ボーナストラックの「エイトビート」はアコースティックギターによる弾き語り曲です。

たまたま実家に帰る用事があって、家でギターを弾いてるときに歌詞とメロディが自然に出てきました。5分くらいで形になったんですけど、歌詞がとんでもなく暗いんですよね。なんていうか、「そんなに順風満帆に生きてないぜ」ということを書いておきたかったんです。さっき「自分のネガティブさを認めて、抱きしめる」という話をしましたけど、そんなに簡単にはできないんですよ。「抱きしめてあげたいんだよね」というだけで、実際にはできないことも多いし、ネガティブなところはずっとあって。そのことを曲で示したいなと思っていたときに出てきたのが「エイトビート」なのかなと。「自分はダメだな」という人が、この曲を聴いたときに「同じような人がいる」と思ってもらえたらうれしいですね。

Sano ibuki

──「革命を覚えた日」というミニアルバムのタイトルはどういうところから生まれたんでしょうか?

曲が出そろってから決めたんですが、「革命を覚えた日」という言葉は以前から自分の中にあったんです。さっきお話しした“高3の春休み”もそうですけど、この作品の制作の中でもいろいろと気付くことがあって。そういう気付きの1つひとつに生かされているような気がするんです、自分は。それが少しずつ増えて、大きくなることで革命につながるんじゃないかなと。

──Sanoさん自身の内なる革命というイメージですか?

いえ、どちらかというと外に向かっているんですよね。いろいろな気付きを楽曲に昇華して、外に出していくのが重要だと思っています。そのうえで「自分はここにいるんだぞ」としっかり打ち出せれば、それが革命の瞬間なのかなと。それは同時に世界に対して狼煙を上げることになり得ると思うんですよね。

──なるほど。11月には大阪、東京でワンマンライブ「Sano ibuki ONE-MAN LIVE "GOOD LUCK"」が開催されます。セットリストはミニアルバムの楽曲が中心になりそうですか?

そうですね。ミニアルバムのジャケットに描かれている手の形は、「GOOD LUCK」のハンドサインなんですよ。このモチーフもいつか使ってみたいと思っていたし、まさに革命の狼煙を上げるようなライブにできたらなと思ってます。ジャケットのイラスト、自分が大好きなイラストレーターのKouさんに描いてもらったんです。ユニバーサルミュージックストア限定盤に同梱されるTシャツも作ったんですけど、めっちゃカッコよくて、僕も普段から着てます(笑)。

「GOOD LUCK」ジャケット

「GOOD LUCK」ジャケット

──楽曲の制作も続けていますか?

やってますね。実は前からフルアルバムを作ろうと思ってたんです。その道中で今回のミニアルバムができた。2ndアルバム「BREATH」から2年以上経ってるので、そろそろ形にしたいですね。

ライブ情報

Sano ibuki ONE-MAN LIVE "GOOD LUCK"

  • 2023年11月19日(日)大阪府 Music Club JANUS
  • 2023年11月25日(土)東京都 渋谷duo MUSIC EXCHANGE

プロフィール

Sano ibuki(サノイブキ)

2017年に本格的にライブ活動を開始し、同年12⽉に東京・タワーレコード新宿店限定シングル「魔法」をリリース。2018年7月に初の全国流通盤「EMBLEM」を発表し、2019年11月にアルバム「STORY TELLER」でEMI Recordsよりメジャーデビューを果たす。2021年7月には2ndアルバム「BREATH」を発表。その収録曲「pinky swear」「lavender」「ジャイアントキリング」ではミュージックビデオの監督および編集を自身で担当して映像クリエイターとしての才能も発揮した。2022年は「ASAHI WHITE BEER」のタイアップソングやテレビドラマ「高良くんと天城くん」のオープニング主題歌、テレビアニメ「惑星のさみだれ」のエンディングテーマを担当。それらを収録した2ndミニアルバム「ZERO」を11月に発表した。2023年1月に東京・東京キネマ倶楽部でワンマンライブ「Sano ibuki Special Live "ONE"」を開催。その後「眠れない夜に」「下戸苦情」「少年讃歌」「罰点万歳」と配信シングルを発表し、10月にミニアルバム「革命を覚えた日」をリリースした。11月に大阪・Music Club JANUS、東京・渋谷duo MUSIC EXCHANGEでワンマンライブ「Sano ibuki ONE-MAN LIVE "GOOD LUCK"」を行う。