ナタリー PowerPush - SALU
“本当のことだけ”のメジャーデビュー作「In My Life」
昨年3月、BACHLOGICが立ち上げたレキシントン内のレーベル「One Year War Music」から第1弾アーティストとして1stアルバム「In My Shoes」をリリースし、多方面から高評価を集めたSALU。彼はその後も「I Gotta Go」「ホームウェイ24号」「鵠沼フィッシュ」「Rebirth」「Flow in the Rain」とコンスタントに新曲を発表して話題を振りまき、このたびミニアルバム「In My Life」でTOY'S FACTORYよりメジャーデビューを果たす。
今回は、メジャーレーベルとの契約に至った理由から、自身の“Life”観、新作にフィーチャリングゲストとして参加したPES(RIP SLYME)とMummy-D(RHYMESTER)に関する逸話まで、幅広くSALUに話を聞いた。
取材・文 / 鳴田麻未 撮影 / 福本和洋
全人類に評価されたい
──ナタリーには1stアルバム「In My Shoes」リリース時以来、約1年ぶりの登場となります。もうすぐメジャーデビュー作品が出る、今の心境はいかがですか?
楽しみですね。(表題曲の)「In My Life」はもうPVが上がってて、ほかの曲もシングルとして出ていたりするので、すでにバラバラには聴いていただいてる可能性が高いんですけど、いち作品としてまとめて流れで聴くとけっこう違う聞こえ方になってると思うので、早く皆さんに聴いていただきたいなって気持ちが今は大きいです。
──メジャーデビューに関して、各社からたくさん声がかかっているだろうなとは容易に想像できていたんですけど、ご自身の中にはメジャー志向ってあったんですか?
「In My Shoes」を出す前から、ただ単に「いろんな人に聴いてもらえたらな」っていう気持ちが強くて。メジャーデビューって、言葉の通り「メジャーになる」ということじゃないですか。別に大きくなりたいとかそういうことじゃなくて、いろんな人に届けられる機会が多くなればいいなって思って。それってわざわざメジャーじゃなくてもできる時代なのかなとも思うんですけど……本当のこと言うと、この人(TOY'S FACTORY担当者)がいろんなイベントに来てくれたんですよ(笑)。
──数あるレコード会社の中でもTOY'S FACTORYに決めた実際の理由はそれですか?
そうですね。大手の事務所の人とかレーベルの人ともお会いしたんですけど、その中でもいっぱい会いに来てくれて、普通に人として好きになったから(笑)。
──結局人となりが大事なんですね。この人と一緒にやりたいなという。
BL(BACHLOGIC / SALU所属のレーベル主宰者)さんと始めたのも、レキシントン(所属事務所兼前所属レコード会社)と始めたのも、その気持ちがあったからで。どこが嫌でどこがよくて、とかじゃなくて「あ、この人好きだな」と思ったから。
──これから、より幅広い人たちにSALUさんの音楽が届いていくことになりますが、ヒップホップ以外のジャンルのリスナーにも評価されたいという気持ちはありますか?
ほんとに、超欲を言ってしまうと、全人類に評価されたいですね(笑)。評価されたいっていうのは「すげー」って言ってもらいたいとかじゃなくて、僕が言ってることを一度聞き入れて、それを心の中で考えてほしいというか、その上で否定、肯定、それから新たな案とかを出してほしい。全人類に「やべー」ってリスペクトされたいわけじゃないんですよ。
──高い評価が欲しいだけじゃないと。
「In My Shoes」も「In My Life」も、いろんな人に「あなたはどう思いますか?」って投げかけて、1回咀嚼して、吟味してもらいたいって気持ちで作りました。僕はその間にまた次の言いたいことができてて、たぶんそれの繰り返しっていうか。それをどんどん多くの人としていけたらなっていう段階……何段階あるかわからないけど、今はそういう時期ですね。
自分がSALUになればいいや
──最近のSALUさんは「ARABAKI ROCK FEST.13」などの“異種”イベントにも積極的に出演している印象ですが、それも「全人類に評価されたい」という思惑から?
そうですね。フェスに何千円とか何万円払って行く人って相当音楽が好きな人だと思うし、そういう人がいっぱいいるところで「僕はこういう音楽やってます」ってやらせてもらえたら……もちろん、受け入れてもらえなかったり、否定されたりっていうリスクはあると思うんですけど、それも含めてチャンス以外の何物でもないなって思ったので。「In My Shoes」出す前だったら「ちょっと怖いから行きたくない」とか思ってたかもしれないんですけど。
──それはどうしてですか?
ずっと、人と関わらないように、避けて避けて生きてきたんで。もう人の目を見て話せないくらい内向的な人間で、そういう視点から曲を書いてきて。今はほんと180度、いや160度くらい変わりました。人と話したり、人と関わることが楽しくなってきましたね。
──何がSALUさんをポジティブに変えさせたんですかね。
いい意味での諦めかもしれないです。自分を受け入れたというか。今までは自分の中に“SALU”と“僕”の2人がいて、“僕”が書いたことをライブしたり人に伝えるのが“SALU”。“SALU”が曲とかPVに出て、厚木に帰ったら“僕”で、その2人の間に距離があって。ずっとそういう感覚でやってきたんですけど、もうこれ以上できないし、やりたくないっていうところまできたんですね。
──はい。
っていうのも要はそれって、自分で全部やってるのに、自分の言葉の責任をもう1人の自分になすりつけてる行為なんですよ。それだと自分の言葉に説得力がないし、後々矛盾が出てくるんですよね。ていうかこいつ頭おかしいんじゃないかって話じゃないですか。僕は“SALU”で、僕は“僕”じゃないですか(笑)。僕がSALUじゃないですか。なのにそうやって分けて生きてきたんですよ。それは聴いてくれてる人にも、一緒について歩いてきてくれる人にも、これから出会うだろう人にも失礼だしよくないことだから、自分が思ったことは自分の言葉として自分で言おうと思って。自分がSALUになればいいやって思ったんですよね。それで「In My Life」を書いた感じですね。
──リスナーに対する誠意を意識しだした。
はい。あと、関わってくれる周りの人。自分以外のすべてに対して。
- ミニアルバム「In My Life」/ 2013年6月5日発売 / One Year War Music / TOY'S FACTORY
- 「In My Life」
- 「In My Life」初回限定盤 [CD+DVD] 1890円 / TFCC-86435
- 「In My Life」通常盤[CD] 1500円 / TFCC-86436
CD収録曲
- Rebirth
- In My Life
- 鵠沼フィッシュ
- ホームウェイ24号
- Flow in the Rain
- Changes feat. Mummy-D
- I Gotta Go
- In My Life(Remix)feat. PES(Bonus Track)
初回限定盤DVD収録内容
- "In My Life" Music Clip
- "In My Life" Music Clip -Behind the Scene-
- "In My Show 2012" at WWW Shibuya 2012.11.02 Digest
- CONVENTION LIVE at Mt.RAINIER HALL SHIBUYA PLEASURE PLEASURE 2013.04.12 Digest
SALU (さる)
1988年、北海道生まれのラッパー。2010年に当時はまだ無名の存在だったにもかかわらず、SEEDAが所属するSCARSの「CASH & THE CASHER」で客演ラッパーとしてフィーチャーされる。翌2011年にはSEEDA「黙る時代は終わり」、JAY'ED「ブレイブ・ハート」、SIMON「Change My Life」といった楽曲に次々とフィーチャーされ、話題の存在となった。さらに同年末には、SALU名義での初音源「Before I Signed」をフリーダウンロードという形で発表。そして2012年3月、BACHLOGICが立ち上げたレーベル「One Year War Music」から1stアルバム「In My Shoes」を発売。2013年6月にはTOY'S FACTORYよりメジャーデビュー作品となるミニアルバム「In My Life」をリリースする。