崎山蒼志インタビュー|アルバム「Face To Time Case」に詰め込んだ、2つの大きな変化と多面性

2021年1月にアルバム「find fuse in youth」でメジャーデビューを果たし、その後精力的なリリースを続けてきた崎山蒼志。彼にとっての2021年は、テレビアニメ「僕のヒーローアカデミア」第5期(2クール目)や映画「かそけきサンカヨウ」、ドラマ「賭ケグルイ双」「顔だけ先生」といった作品とのタイアップやリーガルリリー、水野良樹(いきものがかり)、Dos Monosといったアーティストとのコラボを通して、自身の音楽性を拡張し続けてきた1年だった。

そんな1年を経て2月2日にリリースされたニューアルバム「Face To Time Case」は、彼の音楽性の多彩さがみっちり詰め込まれながらも、1枚のアルバムとしてまとまった、ミュージシャンとしての飛躍を感じさせる作品となっている。

今回のインタビューでは、メジャーデビュー後の1年間を振り返ってもらいつつ、「Face To Time Case」にまつわる思いを語ってもらった。

取材・文 / 石井佑来撮影 / 須田卓馬

メジャーデビュー後の歩み

──崎山さんは2021年の1月にアルバム「find fuse in youth」でメジャーデビューされました。それからちょうど1年が経ちますが、この1年を振り返っていかがですか?

本当に思いもよらないことがたくさん起きた1年でした。まず、こんなにたくさんのタイアップをさせてもらえると思っていなかったですし、それによって自分の想像していなかったような曲もたくさん生まれて。それぞれのタイアップ先の作品に影響を受けて、試行錯誤しながら曲を作ってきたので、そのたびに違う発見や驚きがありました。最初のうちは、タイアップ作品から受ける影響と自分の表現したいことにどうやって折り合いをつけるか悩んでしまう部分もあったんですけど、そのあたりの感覚も徐々につかむことができたかなと思います。

崎山蒼志

──メジャーデビューするとそれこそタイアップも増えて、いろんなリクエストを受けながら曲を作る機会も多くなりますよね。そこにインディーズと比べて不自由さを感じることはないですか?

ここまで立て続けに作品をリリースするのは初めてでした。でも、そこは不自由さというより、メジャーデビューしたからこその変化の1つかもしれないです。ただ、個人的にはもっとハイペースでリリースしたいという思いもあって。

──十分ハイペースなリリースだったと思いますけど、まだまだ足りないと(笑)。

そうですね(笑)。どういう音楽を作るべきか悩みにぶち当たることもあるんですけど、できることはどんどん形に残しておきたいので。

──リスナーへの届き方や反響といった部分について、メジャーデビュー以前と以後で変化を感じることはありますか?

「僕のヒーローアカデミア」のエンディングテーマとして使用していただいた「嘘じゃない」は、今までとまた違う層の方々に聴いていただけたような印象があります。あとはテレビなどのメディアに出演させていただくことで、親戚や友人からメッセージをもらったりもしましたし。

──「チキンラーメン」のCMへの出演もありましたしね。

あれこそ未知の体験でした(笑)。まさか自分があの「チキンラーメン」のCMに出ることになるとは、夢にも思っていませんでした。

驚きの連続だったコラボレーション

──タイアップから多くの刺激を受けた1年だったということですが、それとは別にさまざまなアーティストとコラボをされた1年でもありましたよね。リーガルリリー、水野良樹(いきものがかり)さん、Dos Monosとジャンルもバラバラで。今回のアルバムにも石崎ひゅーいさんとのコラボ曲が収録されています。

改めて振り返ると、本当にいろんな方とご一緒させていただきましたね。ありがたいことです。2019年に「並む踊り」というアルバムを出したときに、長谷川白紙さんや君島大空さん、諭吉佳作/menさんとコラボさせていただいたんですけど、そのときのことを思い出しました。

──「並む踊り」のときは自身の周辺にいるミュージシャンと自然な流れでコラボしたような形だったと思うんですが、メジャーデビュー以降は一見崎山さんと縁遠いようなアーティストとのコラボも多くて、そういう意味では違う部分もあったのでは?

確かに違ったかもしれないです。「並む踊り」のときは親しい人たちと交流するような感覚だったんですけど、メジャーデビューして以降のコラボは「まさかこの人とご一緒できるとは」という驚きの連続で。

──水野さんという大先輩とのコラボもあれば、リーガルリリーという世代の近いバンドとのコラボもありました。

リーガルリリーさんとのコラボは、実はあいみょんさんとミツメさんのコラボ(2021年5月にリリースされた楽曲「ミニスカートとハイライト」)の影響があるんです。あのコラボがすごく衝撃的で。あの曲を聴いて、シンガーソングライターとバンドの組み合わせも面白いなと思って、自分もそういうコラボをやってみたいと思ったんです。

──確かに今までのコラボはソロアーティストとタッグを組むことが多かったですもんね。

そうなんです。自分はもともとリーガルリリーさんの作る音楽が大好きで。リーガルリリーさんは2015年の「未確認フェスティバル」で準グランプリを取っているんですけど、同じイベントに自分も応募していたんです。僕は当時13歳だったんですけど、ネット審査で公開された僕の動画を観て、たかはし(ほのか)さんが「すごくいい!」とTwitterで言ってくれて。そういうつながりもあって、バンドとコラボしたいと思ったときにリーガルリリーさんが真っ先に思い浮かびました。

崎山蒼志
崎山蒼志

改めて立ち返る自分の原点

──さまざまなジャンルのアーティストとコラボをするうえで、相手によってアプローチを変えるなどの意識はしているんですか?

作り方は本当に毎回バラバラですね。「過剰/異常 with リーガルリリー」はもともとあった曲をリーガルリリーさんに編曲していただくという形でしたけど、「告白」は石崎ひゅーいさんとゼロから2人で作り上げましたし。毎回いろいろ学ぶことがあって、勉強になります。

──でも、どんなアーティストとコラボしても崎山さんの色がしっかり出ているのがすごいですよね。それって、崎山蒼志というアーティスト像が確立されつつあるうえに、ほかの人にアジャストする余裕も生まれてきたという証拠なんじゃないかと思います。

いやいや……恐縮です。やっぱりコラボさせていただく方々が素晴らしいミュージシャンばかりなので、「自分らしさをうまく出せるかな」という不安は毎回あって。でも、いざ曲を作ってみると意外と自然体でいられるというか。自分の表現の軸はズレることなく、創作に向き合えたと思います。そういう意味でも、2021年は自分の核となるものと改めて対峙することができた1年でした。

──その「自分の核」というのは、具体的に言葉にするとしたらどういうものになりますか?

核というか、自分の中にある原風景のようなものですかね……。実は去年の8月頃に「自分が本当に作りたい音楽って何なんだろう」というモードに陥ってしまって。自分の作った曲がしっくりこなくなってしまったんですけど、そのときに「自分の原点に立ち返ってみよう」と思ったんです。その原点というのは、幼少期に母親が読んでくれた絵本とか、そういうもので。絵本を読んでいる母親の声を聞きながら眠りに落ちていって、今自分が見ているのが夢か現実かわからない、そんな感覚を曲として表現したいと思ったんです。

──もしかして今回のアルバムの1曲目に収録されている「舟を漕ぐ」がその曲ですか?

そうです、そうです。この曲はマーティ・ホロベックさん、守真人さんと一緒にデモを作って、セッションしながら完成させたんですけど、コード進行やリズム感は「五月雨」(崎山が2018年に発表した1stシングルの収録曲)を意識していて。「五月雨」は自分のことを多くの人に知ってもらうきっかけになった、自分の代名詞とも言える曲なので、そういう意味でも改めて自分の原点に立ち返ろうかなと。

──原点回帰的な曲でアルバムの幕が開けるというのもいいですね。

自分でもけっこう気に入っています。あと、なぜこのタイミングで自分の原点に立ち返ろうと思ったのかは、上京したのも影響しているかもしれないです。地元から離れて生活環境が一変することで、これまで自分がいた場所や自分の暮らしを客観的に見ることができるようになったというか。そういう意味では、“メジャーデビュー”と“上京”という、自分にとって大きな2つの変化が詰まったアルバムになっていると思います。