ナタリー PowerPush - サカナクション

山口一郎「DocumentaLy」のすべてを語る

ニューアルバムのタイトルは「DocumentaLy」。時代の空気を、声を、色を、ダイナミックに体現できる立ち位置にいるロックバンドとして、サカナクションは、自分たちが音楽に向かう生き様を徹底的に浮き彫りにする=ドキュメントすることを選んだ。必然的にフロントマン・山口一郎(Vo, G)のソングライティングは格段に生々しいものになり、気高い戦略性に裏打ちされたサウンドは、よりディープなものになっている。

本作から浮かび上がる独自かつ深淵なポピュラリティとはつまり、この時代を生きる人々の息づかいに等しい。山口一郎にその信念を聞いた。

取材・文 / 三宅正一

 
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「エンドレス」がアルバムの鍵だった

山口一郎(Vo, G)

──今作は、ギリギリまで制作してましたね。

まだ完成して1週間経ってないですからね(※取材は9月上旬に実施)。だから正直に言うと、まだどんなアルバムなのか自分でも把握できていなくて。でも、ドキュメンタリーというひとつのテーマを掲げて制作に臨んだから。そのテーマはちゃんと表現できたと思う。

──テーマは早い段階で絞られていましたよね。だから、ひたすらそこに向かっていく作業だったのではないかと思います。そのテーマを完遂するためにカギを握っていたのが「エンドレス」という曲で。初回限定盤に付いているDVDにも「エンドレス」が完成するまでの生々しいドキュメンタリー映像が収録されています。構想から8カ月、当初はシングル候補でもあった「エンドレス」の歌詞とホントにギリギリまで向き合っていたんですよね。

そう。「エンドレス」の歌詞が書き上がってからすぐに次の曲のレコーディングに入ったんですけど、そこからあっという間にアルバムができたんです。だから、「エンドレス」の歌詞を書き終えた瞬間にアルバムができたと思うくらい、自分の視界が開けましたね

──「エンドレス」の歌詞を書き終えたあとに録った曲って?

「モノクロトウキョー」以外のアルバム曲は全部そうですね。ずっと「エンドレス」で止まってたんです。

──「エンドレス」の歌詞を書き終わるまでは止めざるを得なかった?

そこを突破しないことには、このアルバムがどんなものになるかはっきりと見えなかったし、果たしてドキュメンタリーというテーマでやれるのかという心配もあった。最悪「エンドレス」ができなかったときのことも考えました。ドキュメンタリーというテーマさえやめようと思ったこともあった。それくらいあの1曲にかかってたんです。

──「エンドレス」の原形は「ルーキー」と同時期にできていたんですよね。

そうですね。だから、あの曲が背負ってきたものって、この1年間なんですよ。全部の負を背負って、あの1曲は完成したから。

突発性難聴と震災が与えた影響

──「エンドレス」の話はまたあとで聞かせてください。まず、1年半前に前作「kikUUiki」をリリースしてから、次の局面に向けてどんなことを考えていましたか?

「kikUUiki」というアルバムは、僕にとってすごく大きなもので。あのアルバムがサカナクションの立ち位置や見え方を明確にしたと思うんですね。リスナーからこれまで以上に期待されるようにもなったし。セールス以上に大きなものを得られたと思っていて。だから、その次のアルバムは、リスナーの期待にしっかり応えるものを作らなきゃいけないという部分でのプレッシャーがあった。それと、次のアルバムをリリースするまでにシングルを3枚作るということ。まずはそのことを強く考えてましたね。

──「kikUUiki」からここまでの1年半の間に、一郎くん個人にとってもいろんなことがあったと思います。特に突発性難聴を患ったことはミュージシャンとして大きな苦悩だったと思う。

そうですね。

──それと同時に、日本全体を見ても東日本大震災というとてつもなく大きな出来事があって。自らの人生と時代をありのままに音楽に刻みつけることこそが、自分の音楽人生を次に向かわせる、そういう思いから「ドキュメンタリー」というテーマに至ったんだと思ったんですね。

山口一郎(Vo, G)

うん。まず「アイデンティティ」というシングルを右耳が聴こえない状態を乗り越えて作れたことが、次に進めるステップだった。それから「ルーキー」ができて、リリース直前に震災があったんですよね。プロモーションもかなりの数が中止になったんですけど、その中で出演させてもらったラジオでは、曲のプロモーションというよりは、リスナーへのメッセージを届けるという感じで。自分にとっての音楽の意味や役割が、震災以降ホントにはっきりしてきて。この震災を受けて、自分たちはどんな音楽を作っていくのか、何を届けていくのか。震災以前から、次のアルバムはドキュメンタリーというテーマでいきたいと考えていたんですけど、震災以降にまた新たな一面がそこに付加されたんですよね。

──震災以前からドキュメンタリーというテーマを見据えていたんだ。

うん。「アイデンティティ」があって、「ルーキー」の制作に取りかかっているときに、自分の中で明確に外を意識しはじめたんですよね。「ロックってなんなんだ、僕らがいるこのフィールドは一体どういう場所なんだ」ってすごく考えて。

──どういう流れから?

去年の「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」で、LAKE STAGEのトリを務めて。お客さんもいっぱい来てくれたし、そのライブはすごくいい感じで終わったんですよ。その帰りにメンバーやスタッフと盛り上がりながら、チェーン店の牛丼屋でごはんを食べたんですよね(笑)。

──うん(笑)。

そのときに「あ!」って思ったんですよ。「ロックってめっちゃマイノリティじゃん!」って。何万人の前で演奏したあとでさえ、牛丼屋でごはんを食べるという生活。例えば、これを「a-nation」に置き換えたら、全然違うと思ったし。あのフェスに出ている人たちは、世間的にも知られているし、CDも売れてる。「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」にもいろんなバンドやアーティストが出演していて、たくさん人も集まるんだけど、世間的に知られていたり、実際にCDが売れてるバンドやアーティストは一部しかいない。「この差異はいったいなんなんだ?」って思った。それからロックという音楽の役割と立ち位置みたいなものを強く意識しはじめて。

──それはJ-POPとロックの差別化も含めてということですよね?

そう。もっとエンタテインメントとロックの違いを作品でしっかり提示して、バンドの面白さを表現する必要があるんじゃないかって思ったんですよね。僕は、バンドの楽しさ、ロックの楽しさというのは、人だと思うから。その人の人生をどう鳴らすのか。表面的な部分をひたすら洗練させていくエンタテインメントの世界とはまた違う、泥臭くてその人をもっと知りたいと思わせる音楽の楽しみ方をちゃんと見せたいと思った。改めて、自分はなんで音楽が好きなのかって思ったら、人が好きだからだって思ったし。僕はただ音楽が好きな兄ちゃんでもあって。その上でいろんなプレッシャーや期待と向き合いながら音楽を生み出しているという意志や姿を、Twitterやブログだけじゃなくて、作品そのもので見せたいと思った。そうやってエンタテインメントとロックの差異をしっかり提示したいなと思って。

──それでいて、選民的なものでもなく、広く届けられる可能性のある音楽を目指すのが一郎くんの持っている指針だと思うんですけど。

うん。そうすることで、マジョリティの中のマイノリティとしてサカナクションを確立できると思ったし。それと同時にロックバンドというマイノリティの世界の中でも、しっかりマジョリティとして成立しているというか。その両方にちゃんと自分の立ち位置を見つけることができるんじゃないかと思ったんです。

ニューアルバム「DocumentaLy」 / 2011年9月28日発売 / Victor Entertainment

  • 初回限定盤A / CD+DVD / 3500円(税込) / VIZL-437 / Amazon.co.jpへ
  • 初回限定盤B / CD / 3000円(税込) / VICL-63785
初回限定盤A、B 収録曲
  1. RL
  2. アイデンティティ
  3. モノクロトウキョー
  4. ルーキー
  5. アンタレスと針
  6. 仮面の街
  7. 流線
  8. エンドレス
  9. DocumentaRy
  10. 『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』
  11. years
  12. ドキュメント
  13. ホーリーダンス Like a live Mix
初回限定盤A DVD収録内容
  • DocumentaLy Documentary「エンドレス」「ドキュメント」(レコーディングドキュメンタリー映像を27min収録)
  • 通常盤 / CD / 2800円(税込) / VICL-63790
通常盤 収録曲
  1. RL
  2. アイデンティティ
  3. モノクロトウキョー
  4. ルーキー
  5. アンタレスと針
  6. 仮面の街
  7. 流線
  8. エンドレス
  9. DocumentaRy
  10. 『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』
  11. years
  12. ドキュメント

レコチョクにて着うた(R)配信中! / iTunes Store

サカナクション(さかなくしょん)

山口一郎(Vo, G)、岩寺基晴(G)、江島啓一(Dr)、岡崎英美(Key)、草刈愛美(B)からなる5人組バンド。2005年より札幌で活動開始。ライブ活動を通して道内インディーズシーンで注目を集め、2006年8月に「RISING SUN ROCK FESTIVAL 2006 in EZO」の公募選出枠「RISING★STAR」に868組の中から選ばれ初出場を果たす。その後、地元カレッジチャートのランキングに自主録音の「三日月サンセット」がチャートインしたほか、「白波トップウォーター」もラジオでオンエアされ、リスナーからの問い合わせが道内CDショップに相次ぐ。2007年5月にBabeStarレーベル(現:FlyingStar Records)より1stアルバム「GO TO THE FUTURE」、2008年1月に2ndアルバム「NIGHT FISHING」を発表。その後、初の全国ツアーを行い、同年夏には8つの大型野外フェスに出演するなど、活発なライブ活動を展開する。2009年1月にVictor Records移籍後初のアルバム「シンシロ」をリリース。2010年3月に4thアルバム「kikUUiki」を発表し、同年10月に初の日本武道館公演を成功させた。