サカグチアミEP「名前」インタビュー|活動10周年を迎え新たな「名前」とともに踏み出す一歩

坂口有望として2017年にメジャーデビューし、昨年10月のライブで改名を発表したサカグチアミ。改名後初の作品となるEP「名前」が1月14日に日本クラウンよりリリースされた。

「名前」の表題曲は奥田民生と斎藤有太がサウンドプロデュースを手がけたナンバー。サカグチにとって奥田は事務所の先輩で、楽曲が誕生した際に彼のことが思い浮かびアレンジを依頼したところ、それが見事実現したという。活動10周年を機にアーティスト名義を変更し、新たな一歩を踏み出したサカグチ。彼女にその理由を聞いてみると、「もっと多くの人に聴いてもらいたい」という思いがあふれだした。

今回のインタビューでは改名についてはもちろん、「名前」の楽曲についても深堀り。彼女の決意が見えるみずみずしい言葉の数々を楽しんでほしい。

取材・文 / もりひでゆき撮影 / YURIE PEPE

自分の曲はもっと聴かれるべきだ

──アーティスト名を“サカグチアミ”に改名してからしばらく経ちましたが、今のお気持ちはいかがですか?

ようやく作品をリリースできるので、いよいよ始まったなという感じですね。準備期間が1年ぐらいあって、そこで思い描いていたことがついに現実になり出したっていう。改名を発表したあの日のライブから、目に見えていろんなことが動き出していくのを体感できていて、自分としてはすごく面白いです(参照:坂口有望が下北沢でツアーファイナル、10年分の感謝と新たな誓い「変わらず、信じた音楽をやり続ける」)。

──改名に対するご自身の思いはSNSなどを通して表明されていましたが、そもそもその決断をした最大の理由はなんだったのでしょう?

一番大きい理由は、これから私が音楽性を含めて変わっていくぞという意志を大きく見出しとして打ち出したかったからです。音楽活動10周年を機に、大きく路線を変えていくことを決めていたので。その意思表示として名前から変えていくのがいいかなと思ったんです。あとは漢字の“坂口有望”からカタカナの“サカグチアミ”になったことで、ちょっとソロプロジェクト感を出したかったという思いもありました。今まではわりと弾き語りでライブすることが多かったので、バンド形態だと“私 with バンド”という見え方になる感じがしていて。ソロプロジェクトであれば弾き語りもバンドもプロジェクトとしての見せ方の1つと受け取ってもらえるんじゃないかなという狙いもあります。

サカグチアミ

──10年のキャリアを重ねたうえで、なぜ今、そういった変化を求めたのかも気になるところです。

これまでの歩みを振り返ると、とにかく子供だったなと思うんですよ。

──サカグチさんが音楽を始めたのは14歳でしたよね。

そうなんです。言ったらセルフプロデュース力が完全に備わっていない状態で音楽を始めたわけですからね。もちろん、活動を重ねる中でそういう力がだんだんついてきたところもありますけど、ここを機に私発信で何かを進めてみたくなった、そういう変化を望むようになったという感じですね。

──なるほど。取材にあたっていただいた資料には、「10年歌って芽が出ないなら、もう辞めたほうがいいんじゃない?」という声が頭の中でずっとうるさかったと書かれていました。ご自身の今いる場所、立ち位置に対してのもどかしい気持ちも、変化を求める気持ちの裏には存在していたんですかね?

それはめちゃくちゃありますね。自分の曲はもっと聴かれるべきだという気持ちが改名の大きな理由の1つになったので。名前を変えて、今までとは違った見せ方をしたかったのは、自分の音楽が自分の思ってるように聴かれていないから、というのも大きかったです。

──とはいえ、改名を発表したライブではこれまでを振り返って「いい曲作ってきたなあ」と感慨深げにおっしゃっていましたよね。そういう意味では、これまで自分が信じてやってきたことは、これからも変わらず大切にしていくということですよね。

そうですね。やっぱり私から生まれるものは、一生変わらないとは思うので。ただ、活動を続けてきた中で、「こっちの言葉選びのほうが伝わりやすいかな?」みたいな感覚が身に付いてきたところもあるんですよ。過去に作ってきた、何にも考えてないときの曲も愛おしいんですけど、今はもっといろいろ考えられるようにもなったので、それを100%生かして曲を作りたい気持ちも強いですね。

──年齢を重ねた分、自然と変わってくる部分もあるでしょうしね。

曲のテーマや言葉の選び方ではそういうところもありますね。中学生の頃に書いた曲は、今はもう照れくさくてちょっとライブではもうやれへんかなと思うこともありますし(笑)。

──そこは、そうあって然るべきという感じもします。

私の場合は日記感覚で、そのときの自分をパッケージして曲を作るので、それもまた自然なことなのかなって。

サカグチアミ

改名によって躊躇なく自分のリアルな思いを吐き出していける

──そんなサカグチさんからレーベル移籍後初、改名後一発目の音源となるEP「名前」が届きました。ここに収録されているのはご自身にとってどんな曲の数々なんでしょうか?

ここから変わっていくぞという意思表示の一発目なので、どの曲にも今の自分のやりたいことやこれからやっていきたいことを詰め込みました。去年、一昨年はシングルしか出していなかったので、EPとして曲を選んだり、曲順を考えたりするのがめちゃくちゃ楽しかったです。アレンジに関しても、これまでの私の歴史を知ってる人や、その人となりを知っている仲のいい人を指名して作っていった曲がほとんどなので、しっかり自分発信のプロジェクトになっています。

──気心の知れた人たちと作り上げたことが影響しているんだと思いますけど、全体の印象としてすごく風通しのよさみたいなものを感じます。

私自身の思いや曲に対しての解像度が高い方々とご一緒させていただいたので。私が新しくやりたいことをちゃんと理解してくれて、同じ景色を共有できているからこそ、曲が持つ表現がグッと増したんだと思います。

──先ほどおっしゃった、この作品に込めた「今の自分がやりたいこと」「これからやっていきたいこと」というのは、言語化するとどういったものになるんですかね?

人生にちゃんと寄り添ったライフソングを1つのテーマにしたということですね。そこをカタカナ“サカグチアミ”の真骨頂にしたかったので、今回はラブソングを一度、避けたんですよ。

──なるほど。「人生に寄り添う」というテーマを聞いて腑に落ちましたけど、今回の4曲にはサカグチさんの持っている弱い部分とか、心に落ちている影みたいなところが描かれている印象です。

自分でもそうなったなと思います。ライフソングを歌いたかったのは、弱さを抱えている自分みたいな人とつながりたい、仲間を見つけたいと思ったからなんです。それが自分の歌う一番の理由でもあるので。特に「名前」という曲が顕著ですけど、今回はそういう曲たちが集まりましたね。

サカグチアミ

──今までのサカグチさんはご自身の中にある弱さを見せることに躊躇していたんですか?

そうですね。そういう気持ちはありました。なぜなら、カッコつけたかったから(笑)。私の活動って、「14歳でこんな曲が書けるのってすごい」という感想をもらうところから始まってるんです。だから、ずっとすごい人でいないといけないんだという気持ちが身に付いちゃったんだと思うんですよね。楽曲はもちろん、ライブでの立ち振る舞いに関しても、どこか背伸びしてカッコつけてたところがずっとあったような気がします。

──その弱さを吐き出せない苦しみもありましたか?

はい。けっこうもがいていました。今となってはそういう時期を経験してこれてよかったですけど、振り返れば自然体ではなかったなとも思います。

──ただ、資料を見せていただくと、今回収録される4曲は生まれた時期がけっこうバラバラで、数年前に作られたものもある。ということは、弱さをも吐き出すライフソングをこれまでにも作ってきていたということですよね。

さっきも言いましたけど、私は日記感覚で曲を書いているので、時期によってはめっちゃ弱音を吐く暗い曲も生まれてはいたんですよ。でも、それを今までは表に出すことがなかった。そこの壁を取っ払ったっていうのが、改名後の一番大きな変化。今でもすごい人ぶった曲は全然書けるんですけど(笑)、ここからはなるべく自然体な曲をしっかり打ち出していこうっていうことですね。

──今後はよりリアルな姿が世に出ていくわけですね。

はい。そういう意味でも、アーティスト名が本名の漢字表記じゃなくなったことで気が楽になったところがあって。恥ずかしくなるくらい自分の心の中のことを表現したとしても、芸名の“サカグチアミ”で歌っているという逃げ方ができるというか。結局、そこにもまた自分の弱さがあるんですけど(笑)、気負わず、躊躇なく自分のリアルな思いを吐き出していけるのは改名したことによる大きな変化だなと思っています。

“民生さんモード”?

──EPの中ではタイトル曲である「名前」が最後にできたそうですね。

はい。4曲入れるということは決まってて、先にほかの3曲は選び終えていたんですよ。その段階で、新体制に向けての私の気持ちを昇華した曲を聴いてみたいとチームの方が言ってくれたので、新たにこの曲を書きました。4曲の中では一番、今の自分がモデルになった内容なので、どこまで弱音を吐いていいのかとかけっこう考えましたけど、あまり悩むことはなく、スムーズに言葉は出てきましたね。

──よくも悪くも10年歌ってきたからこそ固まったイメージについての思いが赤裸々に描かれていますね。

そうそう。私って見られ方が子役っぽいところがあるというか(笑)。キャリアも長いし、ちょっとエリートな感じで順風満帆にここまで歩いてきたと思われがちなんですよ。でも実際は全然そんなことないので、セルフいじりっぽくBメロで書いちゃった感じですね。

──すごくリアルで、今のタイミングでリリースされるにふさわしい曲だと思います。この曲のアレンジは奥田民生さんと斎藤有太さんが手がけられていますね。ほかの3曲のように気心の知れた方々ではなく、事務所の大先輩にオファーしたのはどうしてですか?

この「名前」という曲を自分がどんなふうに歌いたいかなと思ったときに、パッと浮かんだのが民生さんの姿だったんですよ。以前、民生さんの弾き語りライブのDVDを観て衝撃を受けて以降、自分の中に“民生さんモード”……民生さんになりきって歌うスイッチが生まれたんです。この曲はそのスイッチをオンにして書き上げたところもあったので、アレンジはぜひ民生さんにお願いしたいなと。ダメ元でお願いしてみたら受けていただくことができて、本当にうれしかったです。スタッフさんからOKの連絡をいただけたときは、スマホを投げて喜びましたから。「イエーイ!」って(笑)。

──ちなみに“民生さんモード”というのはどんな状態なんですか?

めちゃくちゃ抽象的ですけど、民生さんが1人で歌ってるときって民生さんにしか生み出せない風が吹いているような気がするんですよ。動いていないのに全速力で走っているような、爽快な風を感じるヤバさって言うんですかね。自然すら味方につけている感じ。しかも、そのときは人の目をまったく気にせず、思考を遮るものが何1つないようにも見える。その感覚を自分なりに再現するのを私は勝手に民生さんモードと呼んでます(笑)。

──今回はアレンジに加え、楽器の演奏も民生さんがやってくださったんですよね。

そうなんですよ! 鍵盤は有太さんで、それ以外の楽器はすべて民生さんが演奏してくださいました。音源が完成していく工程は、どの瞬間も鳥肌ものでしたね。私の民生さんモードはすごく抽象的なものですけど、この曲には実際、民生さんの血が混ざったわけですから。本当に宝物になりました。楽曲に込めた自分の思いも含め、この曲は大切なものとしてずっと歌っていきたいと思います。