ナタリー PowerPush - サカナクション
山口一郎「DocumentaLy」のすべてを語る
インストのように聴ける"歌"が理想
──方法論や音に寄った話も聞かせてください。これまでどおり、このアルバムにもクラブミュージック、ラップトップミュージックの要素をロックバンドのフォーマットで昇華しているんだけど、もはやその手法さえスタンダードなものに感じるんですね。だからこそ、歌としてのすごみに耳がいくんですけど。
うん、ライブでもそうですけど、自分たちの手法は、もうつかんでるんですよね。ロックのフォーマットを壊すっていう。ライブの演出でも、ラップトップの前に5人並んだ瞬間に歓声が沸くのって、今の時代だからだと思う。ひと昔前だと「何やってんだこいつら」って思われたかもしれないけど、今はみんな変化を求めてるし、チャレンジする姿勢を期待してるから。僕らはそこにマッチしたバンドだと思うし、そこで表現できることがどんどん増えていて。このフォーマットをどう確立して、どう増幅や進化させていくべきか、今のサカナクションははっきり見えてますね。
──一郎くんが見据えている理想的な歌の像ってどういうものですか?
インストを聴くように歌を聴けるというのが理想的だなと思っていて。「流線」はそこに挑戦しているんですけど。
──ああ、なるほど。
インストを聴くように歌を聴けるようになると、ホントに気持ち良い音楽ができると思うし、そういう曲が評価される時代がきたらいいなって思う。ただわかりやすい曲を並べてCDが売れたらいいということではなくて、やっぱりロックバンドという立ち位置を壊さないで、人を意識して音楽を作っていくことの可能性をすごく考えてる。今はアルバム作って、完全に枯渇してるけど(笑)。またインプットしないと。
メンバーの成長が反映されたレコーディング
──さっき言ったことと矛盾するようだけど、サウンドを集中して追いかけると、やっぱりどの曲も音の鳴りや音色の濃密さが尋常じゃないと思う。これくらいやって当然という意識がバンドにはあると思うんだけど。例えばシンセの音なんかは、海外のインディロックシーンとの同時代性も強く感じさせるし。
音にも時代感を強く意識しましたね。シンセはまず、機材がブラッシュアップされた。岡崎がいろんな機材を揃えたんですよ。「kikUUiki」のときにメンバーに散々指摘されたことを、彼女はこのアルバムでクリアしたんですよ。レコーディングの日数的にもシンセに割く時間が多くあったから。みんなで話し合いながらやれた部分も大きかったですね。でも、音に関しては、僕は今までで一番何も言わなかったかな。やり方や段取りに関してはめちゃくちゃ言ったけど、それぞれから生まれてきた音に対しては、細かく言わなかった。「エンドレス」以外は、ですけど。
──「エンドレス」はどういうことを言ったの?
細かくいろいろ言いました。グルーヴのこととか。グルーヴの話になると、話ができるのはメンバーの中でも限られてくるから。そこでは江島(啓一 / Dr)とのコミュニケーションがすごく重要になったし、江島が岡崎に伝える力も成長したんですよ。あと、ここにきてみんな岡崎の扱い方がわかった(笑)。彼女は放置プレイがいいんですよ。あんまり言うと弾けなくなっちゃう。彼女から出てきた音をいかにフックアップしてあげられるかが大事なんだってわかったのも良かったですね。
──レコーディングに向かう姿勢として、一郎くんと同じ地平に立って、同じくらいの熱量をもって臨まないとすごくつらい時間になると思うんだけど。
全員がそうなったかはわからないけど。少なくとも江島が成長してくれたおかげで、僕は監督に徹することができた。江島がキャプテンとして、バンドをまとめてくれたし、僕の話を聞いてくれて。僕が担う部分が減った分、僕が自分のやるべきことにベクトルを向けられたし。だから、よりバンドらしくなってきたなって思いますね。
「ドキュメント」の歌詞は全部無意識で書いた
──レコーディングにおいてもっとも意識したことは何ですか?
すごく意識したのは、全部同じように録らないということ。例えば「流線」は一発録りで、ライブでセッションするかのように録って。俺の声とみんなの演奏のブレみたいなものもそのまま収録してあって。そういうダイナミズムみたいなものを意識しながら、あえてデジタルからテープに焼いて、テープからまたデジタルに戻して録ったりとか。いろんなことをやりましたね。「ドキュメント」は1日で歌詞からアレンジまで考えて、次の日に録るということをしたり。「エンドレス」で8カ月かかったものを、対比として「ドキュメント」は1日で完成させるっていう。だから鬼気迫った感じでやりましたね。
──「ドキュメント」を録っている模様もまるでビデオクリップのようにDVDに収録していて。まさに「エンドレス」との対比ですよね。
そう。「ドキュメント」は、ほぼアドリブで書いた歌詞なんですよ。一発目で書いた歌詞を、ちょっとブラッシュアップしただけで。
──でも、これは完全にアルバムを総括する曲だよね。
そうそう、だから自分でもすごくゾクッとする。「ドキュメント」の歌詞がアドリブで出てきたことに自分ですごく安心したんですよ。直感で言葉が出てきたし、その言葉でアルバムを総括できたということは、やっぱりこのアルバムを作る上で、誠実に音楽と向き合った結果だと思ったし。ちょっとでも妥協していたら、「ドキュメント」の歌詞は絶対に出てこなかったし、総括もできなかった。「ドキュメント」の歌い出しって「今までの話は全部嘘さ」って言ってるじゃないですか。「DocumentaLy」というタイトルのアルバムなのに(笑)。
──そう、そこについて聞きたかったんです。最後には「愛の歌 歌ってもいいかなって思い始めてる」と歌っていたりして。
そうなんですよね。それも無意識に出てきたことが自分でもビックリしたし、鳥肌立ちましたけどね。
──ホントに全部無意識なんだね。
だってアドリブですもん。あとで歌詞を起こして、自分で聴きながら「うわー、怖っ」って思った(笑)。だけど、自信になりましたね。これで、このアルバムは僕らの今が詰め込まれた、一切取りこぼすところがない作品になったなって。
初回限定盤A、B 収録曲
- RL
- アイデンティティ
- モノクロトウキョー
- ルーキー
- アンタレスと針
- 仮面の街
- 流線
- エンドレス
- DocumentaRy
- 『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』
- years
- ドキュメント
- ホーリーダンス Like a live Mix
初回限定盤A DVD収録内容
- DocumentaLy Documentary「エンドレス」「ドキュメント」(レコーディングドキュメンタリー映像を27min収録)
通常盤 収録曲
- RL
- アイデンティティ
- モノクロトウキョー
- ルーキー
- アンタレスと針
- 仮面の街
- 流線
- エンドレス
- DocumentaRy
- 『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』
- years
- ドキュメント
サカナクション(さかなくしょん)
山口一郎(Vo, G)、岩寺基晴(G)、江島啓一(Dr)、岡崎英美(Key)、草刈愛美(B)からなる5人組バンド。2005年より札幌で活動開始。ライブ活動を通して道内インディーズシーンで注目を集め、2006年8月に「RISING SUN ROCK FESTIVAL 2006 in EZO」の公募選出枠「RISING★STAR」に868組の中から選ばれ初出場を果たす。その後、地元カレッジチャートのランキングに自主録音の「三日月サンセット」がチャートインしたほか、「白波トップウォーター」もラジオでオンエアされ、リスナーからの問い合わせが道内CDショップに相次ぐ。2007年5月にBabeStarレーベル(現:FlyingStar Records)より1stアルバム「GO TO THE FUTURE」、2008年1月に2ndアルバム「NIGHT FISHING」を発表。その後、初の全国ツアーを行い、同年夏には8つの大型野外フェスに出演するなど、活発なライブ活動を展開する。2009年1月にVictor Records移籍後初のアルバム「シンシロ」をリリース。2010年3月に4thアルバム「kikUUiki」を発表し、同年10月に初の日本武道館公演を成功させた。